solo run

雨の夏ツーリング

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2012.08.12 二日目(後編) 野麦峠〜下呂温泉

―若者たち―

 

せっかくなので、新野麦街道を走ってみる。

入りっぱなから広く、確かに「26号よりは新しいだろう」つー印象だ。

つっても、それほど面白いってワケではなく。

山村部を抜けてゆく、フツーの道。

 

と、野菜や山菜、きのこの直売所があったので、立ち寄ってみる。

ここで馬刺しの燻製と、きのこの瓶詰めを買い込んだ。

 

出発してしばらく走ると、道はまた26号へ合流する。

あとは俺の好きな山間部の舗装林道。

狭いし道も悪いけど、ぐねぐね節操なく曲がってるし、なによりクルマがほとんど居ない

分岐から39号へ入り、野麦峠を越えるために西へ。

ちょっと寒いくらい涼しく、下の方は川に沿って林間を走り、上に登れば日本アルプスの絶景が広がる。初めて走ったときは、あまりに誰も居なく道もどんどんさびしくなるので、「とんでもないところへ来ちゃったなぁ」と思ったものだが、かれこれ四回目ともなれば、ただただ楽しいだけ。

涼しい山間部を、これでもかと曲がりながら駆け上る。

 

最高所を越えたら、今度はくだりだ。

↑の写真が、この道をイチバン象徴してるかな。

写真だとわかりづらいけど、手前から続く奥に見える細い道まで、かなりの高低差がある。山肌にへばりつくようなレイアウトの道を走っているうちに、日常の雑事は頭の中からすべて消え失せる。つーか、あんまし余計なこと考えてると、たぶんガケから落っこちる。

ガードレールないところもあるから。

 

山道を駆けおりると、そのまま国道361へぶつかる。

ぶつかった丁字路にある、高根乗鞍湖の湖畔で、野麦街道は終わりだ。

 

突き当たりにユリシーズを停めて、タバコを吸いながら地図を確認。

 

前にココを走った三回とも、361を北へゆき、高山の方へ抜けた。

南へ向かうと、19号経由で中津川まで一本道だから、選択肢が少なくなるのだ。このへんの県道とかそれ以下の道ってのは、場合によってはとんでもなく狭隘(きょうあい)だったりする。なので、今まではなるべく、ツーリングマップルで言う『赤か緑の道』を選んでいた。

が、今回は少し南へ下って、御嶽山(おんたけさん)のふもとを走る道を選んでみる。

地図には『舗装路だが、かなり荒れている』とか書いてあるけど、まあ、行けるトコまで行ってみよう。

 

走り出すと、国道がすでに快適なワインディング。

涼しい山の中を、愛機とともに駆け抜ける。

 

やがて長峰峠の手前で西に折れ、県道に入ってゆく。

陸上競技の選手だろうか、合宿中らしい若者たちが、一生懸命走っていた。

写真を撮ろうかと思ったが、女の子が多かったので、盗撮だと思われるのも困るから撮影を断念する。いや、確かに汗をかきながら走ってる女の子たちは、やけに艶(つや)っぽく美しかったから、若干、鼻の下が伸びてたことは否定しないけんども。

 

女の子を眺めながら走ってると、いつの間にか道が登りはじめている。

やがて登り切ったあたりで、どんっ! と目の前が開けた。

「おぉ、こらぁキレーじゃないの!」

大騒ぎしながら進んでゆくと、やたらだだっ広い空間に出くわした。

思わず単車を停めて、休憩がてら写真を撮る。

俺の撮影技術&構図のセンスではぴんと来ないかも知れんが、かなり広い空間。

『チャオ御岳スノーリゾート』と言う、イタリア人みたいなスキー場の駐車場だ。

スキー場の駐車場ってのは、どこもムダにでかいから、なんとなく気分がよくなる。

 

と、道をはさんだ反対側に、モニュメントっぽいものがある。

『飛騨御嶽尚子ボルダーロード』

と書いてあるが、なんのこっちゃ俺にはよくわからん。わかるのは、尚子ってのが女の子の名前じゃないってコトくらいか。んで、コレを書いてる今、ネットで調べてみたら、道路の外側にある赤茶色の道が、その名のランニングコースだった。

やっぱし俺には関係なかった

かみは歩かない。だから当然、走らない。

 

むちゃくちゃ気持ちのいい場所だから、「ここで寝てもいいかな?」と思ったが、まだ陽は高い。

しかも地図には、この先に、ビューポイントのマークがたくさん並んだ、景色の良さそうな場所があると書いてある。それじゃあせっかくだから、そこらまで行ってから泊まる場所を決めよう。つわけで、スキー場をあとにすると、思いのほか走りやすい県道を下ってゆく。

「あんだ、かなり荒れてるなんて書いてあるから警戒してたけど、楽勝じゃんか」

マップルを鼻であざ笑いながら下ってゆくと、あっという間に車線がなくなり。

濁河(にごりご)温泉の前後くらいから、マップルさんの仰(おっしゃ)るとおり荒れてきた。

鼻で笑ってごめんなさい。

 

ここからしばらくは、写真を撮る気も起きないほど、狭くて荒れた林道だ。

いや景色云々じゃなくて、走りながら片手で撮るには道が荒れすぎの曲がりすぎで、手を離す余裕がないのだ。かといって、停まって撮るほどめずらしい眺めでもない。せめて御嶽山でも見えれば、も少しアレだったかも知れないけど。

あと、この道では二台のアルプスローダとすれ違った。

BMWのF800GSと、トライアンフタイガー800だったと思う。

「やっぱ流行ってるんかな、アルプスローダ」

ま、ビッグオフで来るには、ちょうどいい感じの荒れっぷりだからね。

 

途中にトイレを発見したので、停まって休憩する。

通り過ぎてゆくR1200GSに手を振りつつ、トイレに入ってみると。

 

こんな山の中とは思えないほどキレイだったので、思わず写真を撮る。

『トイレに向かってカメラを構える』ってのは、少々の勇気が要った。誰かが見たら、間違いなく不審者だよね。あと、確かにむちゃくちゃキレイなトイレだったけど、こんなロケーションだからもちろん汲み取り式で、見た目のわりにはエキサイティングな匂いを発していた。

暑いとかクサいとかは写真に写らないから、一応、書いておく。

 

さて、そろそろビューポイントだなと思いながら登ってゆくと。

目の前が開けて、美しい山々が姿を現す。

同時に展望所が出てきたので、トイレからいくらも走ってなかったが、単車を停めた。

「眺めは最高だし、涼しくて気持ちいいや! 今夜はココで一泊しよう」

今までは、通りがかりにいい場所があっても、食料や酒を買ってない時はあきらめていた。

だが、今回は違う。

何度か言っていた、『ソロツーリングの改善策』ってのは、つまり、この事だ。

荷物の中にあらかじめ、缶詰やドライフルーツ、お湯で戻す乾燥食料などを入れておく。そして酒も、ウイスキーやスピリッツなど、ハードリカーだけを買っておく。すると、夕方になってからあわてて食料品店を探さなくても、気に入ったその場所で、すぐに野宿できる。

要するに、より自由度の高い野宿ツーリングが出来るのだ。

改善策がさっそく当たって、機嫌よく荷物を降ろし始めた、かみさん42歳。

 

と。

 

荷物をほどいてる途中で、はたと手が止まる

「あ、ここじゃダメだ。泊まれねぇや」

実はここまでの間、ちょいちょいミクシィで現在地をアップしてたのだが、その時のやり取りで、名古屋のフラナガンと「走りに行こう」つー話になっていた。だが俺は、『その日に泊まる場所が、その時にならないとわからない』と言う、フリーダムなツーリングスタイルを採っている。

なので、泊まる場所が決まってから、フラに連絡することになっていた。

ところが、ここは携帯の電波が通じないのである。

 

一瞬、「さっきのスキー場まで戻ろうか」とも考えたが、さすがにちょっと来すぎている。

「この先に携帯の繋がる、しかも景色のいい場所があるかも知れない」

あまり期待は出来ないが、そんな一縷(いちる)の望みを持って走り出す。

断崖絶壁をゆくワインディングは、攻めるとタマがヒュンてなる。むっちゃくちゃ怖い。

 

だが、余裕を持って走るなら、バツグンの景観を見せてくれる。

 

『絶景』と『タマヒュン』を繰り返しながら、こんな道を下ってゆく。

怖いけど、楽しい。

そして楽しいけど残念ながら、電波の届く景勝地は見つけられなかった。

 

やがて道は街に近づき、電波が入るようになってきた。

しかし、高度が下がったぶん、気温も上がってくる。

国道を南下して下呂温泉を目指しつつ、道が混んできたあたりから西側へ移って、下呂温泉の裏側、岩屋ダムへ向かう県道へ乗る。この道沿いに、『馬瀬・美輝の里』という道の駅を見つけたので、そこで一泊しようと思ったのだ。

道の駅なら、そうとう辺鄙じゃない限り、まず電波が入る。

 

道の駅には水やトイレがあるから、泊まるには楽だ。

けど、そのぶんヒトの出入りが多く、アスファルトが蓄熱して暑いから、できれば避けたかった。しかし、『確実に電波の入るところ』じゃないと、フラと連絡が取れないんだから仕方ない。途中のコンビニでフラに電話し、「おまえのせいで暑い」とモンク言おうと思ったら出なかった。

も少し県道を走って、道の駅へ到着する。

『馬瀬・美輝の里』は、足湯の設備がある道の駅だ。

やはりちょっと蒸し暑いが、仕方ない。荷物をほどいてコット(ベッド)を出そう。

荷物をほどいてると、eisukeさんのくれたアルコール缶に、思わず笑ってしまう。

ご丁寧に『アルコール』と書かれたラベルが貼ってあるんだから、そら警察も職質しやすいつー話だ。もっとも、コイツのおかげで今回は、トランギアの燃料切れをまったく心配しなくてすんだから、その意味では実に助かった。いや、でも次回からは持ってかないけどね。

さすがにコレはでかすぎるし、自己主張しすぎる。

 

携帯を取り出して見ると、フラから電話が入っていた。

折り返してヤツが出るなり、「おまえのせいで、暑い場所で野宿するハメになったんだぞ!」と、アサッテのクレーム。苦笑するフラと相談して、「明日の朝、雨が降ってなかったら、九頭竜あたり走りに行こう」という段取りになった。電話を切って、野宿の準備を続ける。

やがて準備が出来たら、ひとり宴会のスタートだ。

まずは安バーボンと、馬刺しの燻製で一杯。

バーボンを引っ掛け、ビールのごくごく呑む爽快感とはまた違った、強い酒がのどを灼きながら胃袋へ降りてゆく快感に、思わずにんまりとしてしまう。それから今度は燻製を口に含む。すると、スモーキーなフレーバーとともに、馬肉のしっかりとした旨味と甘味が広がる。

「うん、コレは美味いな」

野麦街道で買ったネーミングはアレな燻製の、思いがけない美味さに喜んでいると。

 

ぶいーん!

 

4ストシングルの元気な音とともに、見慣れぬバイクが入ってきた。

YZF‐R125は、フランスヤマハで作られた、めずらしい単車だ。

どうやら向こうも野宿ツーリングの途中らしい。

しばらくは、荷物をほどいたり足湯の方へ行ったりする彼を眺めてたが、やがて辛抱できなくなり、驚かさないよう満面の笑みを浮かべて、R125の青年に近づいてゆく。なんたって、道の駅で安楽イスっぽいものに転がり、酒を呑んでる不審者なのだ。

相手が女の子だったら、話しかけた瞬間に『通報→確保→投獄』の三連コンボだろう。

 

「こんにちは! R125珍しいですね。写真とってもいいですか?」

「あ、こんにちは! ええ、どうぞ」

「ドコからですか?」

「福岡です。今日、フェリーで大阪まで着いて、そこから走ってきたんですよ」

話し出せば単車乗り同士、そこからは単車の話や旅の話で盛り上がった。途中、CB400だったかな、二台のバイクにのった若者がやってきた。が、彼らは彼らで話してるので、俺と青年はそちらを少し気にしながらも、色んな話をして笑いあう。

車重が軽いからトラクションがかかりづらいと言う彼に、自分の腹を叩いて見せながら、

「俺みたいに肉を増やせば、イヤでもトラクションかかるよ」

とバカを言って笑わせる。

自作っぽいキャリアに興味を示すと、パーツがないから知り合いに作ってもらったとのこと。

そこからマイナー車の苦労話や、旅の話、走りの話なんかをする。

しかし、何よりイチバン盛り上がったのは、ソロツーリングの面白さが、なかなか理解されないと言う話だった。俺がなにげなく、「ひとりで走って何が面白いのって、よく聞かれるんだよね」とつぶやいた瞬間、彼は目を輝かしながら強くうなずき。

「そうなんです! 聞かれて説明する時、困るんです。まあ、別に理解してもらわなくてもいいけど」

「みんなと走るのも楽しいけど、ソロはソロの良さがあるよね。気ままに走れるし」

「ですよね。いやー嬉しいなぁ! わかってくれる人って、バイク乗りでも少ないですよね」

「まあ、向き不向きはあるだろうけど、やれば楽しいとわかってもらえ……ないかな、やっぱ」

「あははは!」

同好の士ってのは、やはり嬉しいものだ。

 

「最初に見たとき、このひとはきっと野宿のプロだろうと思ったんですよ」

「ぎゃはははっ! 野宿のプロって、浮浪者じゃねーんだから」

「このバイクって、なんですか?」

「ビューエルだよ。ハーレィと同じレイアウトのエンジンを積んだスポーツバイク」

「ああ、聞いたことあります。へぇ、これが……」

「面白いバイクだよー! もう、メーカー潰れちゃったけど」

「えぇ? そうなんですか? それじゃあ僕のと一緒でパーツないですね」

「そう! そこが一番の泣き所なんだ!」

「わかります、大変ですよねぇ。僕も全然パーツがなくて、海外通販で買ってます」

「ああ、そうそう。マイナー車に乗ると、海外通販が得意になるよね」

 

そんな風にしばらく話してから、またそれぞれのコト(つっても俺は呑むだけだが)をしてると。

陽が落ちかけてきたころ、先ほどの若者たちがやってきた。

なのでR125の青年も交えて、四人で話をする。

若者1 「このナンバーの、柏ってドコですか?」

かみ  「千葉県だよ」

若者2 「あ、じゃあ近いですね。僕らはヨコハマからなんです」

青年  「君たちは何歳なの?」

若者1 「22歳です」

青年  「うわ、じゃあ学生さんだ」

若者1 「僕は大学生ですが、彼は社会人です」

若者2 「ところで、ここってテント張ったらまずいですかね?」

青年  「足湯が7時までだから、それ以降は大丈夫だと思うけど」

かみ  「ま、遅くに張って朝イチで出れば、迷惑にはならんだろ」

若者1 「ですよね? 朝早く出れば、問題ないですよね?」

かみ  「ま、なんか言われたら、『あそこのオッサンが許可した』って俺に振っていいよ」

若者2 「あはは、ホントですか?」

かみ  「つってもその頃には、すでに撤収していなくなってるかも」

みんな 「はははははっ!」

 

とまあ、そんな感じに話し込む。

道の駅で偶然に出会った四人の単車乗りは、まるで元からの知り合いのようにバカ話をして、ゲラゲラと笑いあう。いや、まあ、正確に言えば、『一番年上の一番バカ』が、アタマの悪いバカ話をして、青年や若者たちはそれを聞いて笑っていたのだが。

やがて、それぞれ自分の単車のところへ戻り、俺は次のツマミを出す。

ロンツーだと野菜不足になることが多いから、今回は早めに野菜を摂るのだ。

それから思い出して、携帯で天気をチェックしてみると、明日は一日中、良くなさそうだ。

朝から全般に、『弱雨』と言う文字が並んでいる。

 

「んだよ、ここらはフラの管轄だから、雨は全部フラのせいだな」

明日会えると思って楽しみにしてた名古屋の弟に、いつも通りアサッテな文句をつけたら。

「それでも明日は降らない」と信じて、俺はシュラフシーツをかぶった。

 

楽しく走って、楽しい出会いのあった、そんな二日目の話だ。

 

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