solo run

雨の夏ツーリング

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2012.08.13 三日目 下呂〜四国中央

―雨に泣き、酒に倒れ―

 

ぱらぱらっ!

顔に当たるのが雨だと気づいた瞬間、あわてて飛び起きる。

「信じてたのにっ!」

と、お天道さんに文句を言いながら、起き上がって携帯の時計を見る。

時刻は朝の3時半すぎ。

一瞬、テントを張ろうかと考えたが、今日は終日雨予報だと思い出した。日中テントを張ってるのはまずいだろうし、連泊するにしても道の駅じゃ魅力がない。それじゃあ、ちと早いけど出発しようか。テントの代わりにカッパを出して、雨の中、出発準備。

最後に、寝てるだろう若者たちへ心の中で挨拶をして、薄暗い中を走り出した。

 

雨と霧が視界を邪魔する。

ダブルシールドも外側にみっしり張りつく濃霧には、あまり役に立たない。

シールドを開けて素目で前を確認しながら、雨と霧の中をひた走る。

正直、この状態ではワインディングも楽しくない。タイアはよっぽどバカをやらなきゃ滑らないが、それでも視界の悪さに神経を使うため、普通に走るよりだいぶん疲れる。楽しくないから、余計に長く感じるのだろうワインディングを駆け抜けると、少しづつ明るくなってきた。

と、目の前が開けて湖が見える。

東仙峡・金山湖(とうせんきょう・かなやまこ)は、岩屋ダムによって作られた人造湖だ。

 

ダムの管理棟だろう建物のそばに、わき道があった。

そこへ入って単車を停め、湖や山に靄(もや)のかかる、美しい風景を堪能したら。

雨の中をまた走り出す。

晴れてれば極上に楽しいだろう道も、雨の中では魅力半減。

だったら景色を眺めようつっても、雨で視界が悪いから、よそ見しながら走るのは危ない。

「あーもー! フラのバカっ!」

雨中を走るストレスを、すべてフラナガンにぶつけつつ、ワインディングから国道へ。

 

国道に乗っても雨は弱まるどころか、さらに強くなってくる。

山村の中を西に向かってひた走りながら、ここでようやく、完全に諦めがついた。

このあたりまではまだ、「もしかしたら晴れて、フラとツーリングできるかも」と期待してたのだ。

20キロほど走り、郡上八幡(ぐじょうはちまん)あたりで、コンビニ休憩。

するとフラから電話があった。

「さすがにダメそうですねぇ。万が一、午後に晴れても道が濡れてそうだし」

「ま、仕方ねぇさ。また機会もあるだろうし、今日はゆっくり寝てくれ。俺は雨の中を走る」

「ははは、ご苦労様です。それじゃ、またいずれ走りましょう」

「おう、またな!」

 

つわけで、フラとのツーリングがなくなった。

そして、雨はいいだけ降っている。

するってーと、『曲がり道』しか興味ない俺のツーリングは、思いっきり目的を失う

「さーて、どうすんべか」

目的もなく、なんとなく国道を南下するうち、なにやら道が混んできた。

「ああ、そうか。もう岐阜の市街に入るのか。そう言えば岐阜の中心て見たことないな」

そう思って休憩しながら地図を見ると、岐阜市内に国道21号線を見つける。

「あれ、21号って聞いたことあるな。なんでだっけ?」

と思いつつ地図のページを繰ると、行き先は琵琶湖だった。

 

ワインディングと言う最大にして唯一の目的を失った俺は、そのまま流れで琵琶湖に向かう。

今考えれば、せっかく岐阜なんだから、信長関連とか探してもよかったような気もするが、このときはもう、とにかく雨で曲がれないのが不満で、いつもは好きな歴史さえ、どーでもよかったのだ。岐阜の街中をガンガンすり抜け、やがて大きな国道、21号線に乗る。

ちょっと絡んでくるクルマもいたりしたけど、こっちもすっ飛ばしモードなので、すぐに消えてゆく。

片側、2、3車線の広い国道。しかも雨のふる中なので『白なんちゃら』は皆無。

あっという間に琵琶湖の湖畔へ出た。

 

雨が上がったので、湖岸道路に入る手前の県道でカッパを脱ぐ。

「よーし、やっと鬱陶しいのが脱げた。琵琶湖まわってどっちへ行こうかなぁ」

中国へ行くか、四国へ行こうかと考えつつ、カッパをたたんでバッグへ仕舞ったとたん。

雨が降り出した。

もう、いいかげんイヤになりながら、仕舞ったカッパを引っ張り出して着込む。この段階で、俺のご機嫌はかなりナナメっていた。普段のソロツーリングなら、も少しメンタルコントロールできるんだが、今にして思えば熱中症気味だったのだろうか。この日はやけに感情の起伏が激しかった。

いちおう自覚はしてるのだが、コントロールできない。

 

いらいらしつつも湖岸道路へ入り、琵琶湖の東端をのんびり南下してゆく。

とはいえ、雨で視界が悪く、景色を楽しむというのも難しい。

怒るくらいなら停まって雨宿りするなり、気持ちを切り替えて別の目的を探すなりすればいいのだが、そこが調子の悪いゆえんというか。上手にコントロールできないイライラをもてあましながら、ただ淡々と道をすすんでゆく。頭に浮かぶのは、「もう雨はイヤだ、早く晴れろ」ばかり。

どうしようもないことなのに、そのことに対して腹が立つ。

かなり煮詰まった状態で走っていると、哀れに思ってくれたのだろうか。

 

ようやく、雨があがってきた。

とは言え、すでに『ひねくれモード』の俺は、「ふん、だまされるもんか。どうせまた降るんだ」などと、いじけながらつぶやくばかりで、晴れ晴れとした気持ちを取り戻すにはいたらない。今回のツーリングで、精神的にはこのあたりがイチバンきつかった。

 

いつも宴会をやる例の湖岸緑地を横目に、大津方面へ向かう。

途中のコンビニで休憩がてら、携帯で天気予報を調べてみると。

どうやら、四国の方は晴れてるようだ。

「よーし、四国へ行こう! バイパス乗っかろう」

四国へ行くなら、フェリーか高速道路に乗らなくてはならない。どうせ乗るなら、雨から一刻も早く逃げ出したいと思った俺は、琵琶湖の南側から、京滋バイパスへ乗ることを決める。高速道路なら下道より神経を使わないので、雨でも走るのが楽になる。

イライラしないで走るには、その方がいいだろう。

 

高速を目指して走ってる途中、ふいに嫌なことを思い出した。

「あれ? もしかして俺、まだカード入れ替えてなくね?」

記憶をさぐり、新旧のETCカードを入れ替えてないと確信する。

ちょうど通りがかったガソリンスタンドで給油したあと、路肩まで出てETCカードを交換する。なんでカードを交換するごときの話で、こんな大騒ぎしてるかと言うと、ご存知の方はご存知だろうが、俺のETC車載器はエアクリーナボックスの中にあるのだ。

路肩で荷物をすべておろし、シートを外して工具を引っ張り出したら。

新旧のカードを交換する。赤丸がETC車載器。

 

高速に乗る準備が整ったので、ちゃっちゃと走って京滋バイパスに乗った。

とたんに天気がよくなるのは皮肉だが、心はもう四国へ飛んでいるからカンケーない。

案の定、大阪あたりではバカっ混みだったが、そのあとはサクサク流れて。

無事、四国入り。

天気もすっかりよくなってるので、北鳴門で高速を降り、鳴門スカイラインを目指す。

と、スカイラインとの分岐で、例の『走ってない道を走る』脳内システムが発動した。

分岐を逆に行って、小さな丘をくねくねと登り、鳴門公園へ入る。

何度か横を通ったことはあるが、公園に入るのは初めてだ。

 

公園の中へゆくと、展望台があった。

そこに、『東洋一のエスカレータ』なる文字を見つけたので、何百円だったか払って乗ってみる。下から見上げると、たしかにえらい長いエスカレータだ。写真を撮ってみたら、上が明るすぎて上手く撮れなかったので、登りきったところで下へ向かって撮影してみた。

アホほど長いのがわかるだろうか。

感想としては……長さがあるってコトは時間も長く乗るので、最初は面白いけど途中で飽きる。事故防止のためだろう、速度自体が遅いのも、それに拍車をかける。東洋一だろうが何だろうが、要するにエスカレータだからね。そう面白いもんでもないよ、作ったヒトには悪いけど。

展望台は、エスカレータの終点から、さらに何階分か階段をあがる

天気がいいぶん暑いし、今日は全体的に湿気が多いから、えらい汗をかいた。

かみは歩かないのに。

 

ガラにもなく展望台なんか登ったことを軽く後悔してると、ようやく天辺(てっぺん)につく。

鳴門の渦潮(うずしお)は、時間的なものか、あまり見えなかった。

 

展望台でしばらく景色を眺めたら、一服しながらアンジェの兄貴に連絡を取る。

数年前に四国で出会ったアンジェの兄貴は、ハーレィでツーリングし、カブやオフ車で獣道を走り、スノーモービルで雪山を駆け、ラフティングで川を下る、アクティブを絵に描いたようなヒトだ。そしてなにより、キャンプと焚き火をこよなく愛する、同好の士でもある。

兄貴と連絡がついたので、テキトーにそちらへ向かいますと伝えた。

 

んで、駐車場に戻ってくると。

えらいイケメンのV-RODが停まっていたので、思わずパチリ。

勝手に撮ったので、持ち主の方、万が一ここ見てたら、ごめんなさい。

 

鳴門公園を後にして、海を眺めながら走っていると。

「おーい、またかよ! ウソだろ?」

ヘルメットのシールドに、ぽつぽつと雨粒が付きだした。やっとワインディングを気持ちよく走れると思ってたところへこの仕打ち。思わず天を仰いだ俺は、空に回答が書かれてないことを確認してから、メットの中で盛大に罵詈雑言をぶちまける。

まあ、泣こうがわめこうが天気は変わらないのだが。

鳴門スカイラインに入ったころには、カンペキに本降りで、カメラのレンズもこの有様。

すっかり意気消沈しながら国道11号に入ると。

『びんび家』のカンバンに、思わず写真を撮る。

俺の好きな西澤保彦という作家の作品に、「びんび亭」「びんびり」と言う店が登場するので、もしかしたら関係があるのかな? と思ったのだ。西澤先生は高知の出身だし。もっとも、調べたら『びんび』ってのは高知や徳島の方言で魚のことらしい。

魚を出す料理屋さんはどこでも使うだろうから、西澤先生と直接は関係なさそうだ。

 

国道11号を海沿いに走っていると、どうやら雨が上がってきた。

すると、とたんに暑くなる。それも雨の後だけに湿気たっぷりの猛烈な暑さだ。

「こらぁ、熱中症になりかねないなぁ。この先は混んでくるし、どうしようかなぁ」

ぶつぶつ言いつつ走り、香川県に入った。

まったく食欲のわかないまま、『うどん』の看板をつぎつぎとスルーし、やがて三本松あたりからアホほど道が混んできたところで、ついに忍耐の限界を迎える。「だめだ、気持ち悪くなってきた。もう、高速に乗っちゃおう」とショートカットを決断し、津田東から高松道に乗る。

 

高速をすっ飛ばしながら。

「そう言えばフューリィで走ったときも、このへんで熱中症になったんだよな」

と思い出して苦笑い。高速はそれほど混んでなかったので、120スピード前後で流れに乗りながら、たんたんと西へ向かう。前に兄貴のところへ行ったときは、すでに日が暮れて真っ暗だったが、今回は景色を見ながら走ることが出来る。

サービスエリアで休憩。

つーか、eisukeさんにもらったアルコール缶が、怪しいったらないね。

高速を降りて記憶を手繰りながら、初めて兄貴と会ったコンビニへ到着……と思ったら、相変わらずのかみさんクオリティで、思いっきりコンビニを間違えてた。兄貴と電話してそのことが判明したので、改めてそのコンビニへ向かおうかと聞くと、 「いいからそこにいろ」とのお達し。

ま、さらに間違えたりしたら、余計メンドーな話になるからね。

 

やがて、仕事中にもかかわらず迎えに来てくれた兄貴と、数年ぶりの握手をガッチリかわし。

兄貴のアジトまで先導してもらう。

 

アジトにつくと、兄貴のご両親が迎えてくださった。

まずは風呂を借り、さっぱりとしたところで、お母さんがビールを出してくださる。「だめですよ、おかあさん。俺は甘やかすといくらでも調子に乗りますから」つーと、お父さんとお母さんが笑ってくれた。これに気をよくしたかみさん42歳。このあとは冗談ばっかり言っていた。

と、あたりが急に暗くなり、次の瞬間、土砂降り

「おお、すげぇ降ってきた。早めにこっち来て正解だったな?」

「ホントですよ、間一髪でした」

走ってるときは鬱陶しい雨も、風呂に入ってビールを引っ掛けちゃえば無問題。早々にビールを飲み干した俺に、お父さんが焼酎を持ってきてくれたので、そこからは一緒に焼酎をカパカパやりはじめる。旅の話から、俺の話、バカ話から政治の話まで。

兄貴が仕事に戻ったあと、俺はお父さんお母さんと呑みながら、ずーっと話し込んでた。

 

お父さんお母さんを笑わせて、気分よく呑んでると、やがて仕事を終わらせた兄貴が帰ってくる。

ふたりで近所のスーパーへ買い出しにゆき、酒だのツマミだのを買い込んで帰ってきたら。

本格的に宴会だ。

お父さんお母さんは朝が早いので、残念ながら帰ってしまったが、そのぶん兄貴と二人で、いろんな話をした。単車の話はもちろんだし、キャンプの話に、雑誌の話や小説の話。久しぶりに会ったから、話すことはいくらでもある。食って呑んで話して笑って。

兄貴と約束したから、近いうちに一本、小説を書かなくちゃ。

 

そんな風にして明るいうちから呑んだくれ。

いつもなら、限界を超えて寝ちゃう量を飲んでも、兄貴と話してるもんだから楽しくて呑み続け。俺は、も、むちゃくちゃに酔っ払う。つってもテンション上げてバカ呑みしてるのとは違い、大酔っ払いつーよりは、どっちかつーと『酩酊』と表記するのが正しいか。

動作が緩慢になり、頭も働かない。

そんでも意地きたなく何かを食おうとして。

盛大にショーユをハネさす。

つっても泥酔してるもんだから、「気の利いたガラになった」くらいにしか思ってないんだけど。

本当に、酔っ払いってのは度し難い。

 

やがて、兄貴が自宅へ戻っていった。

『ツーリング中は疲れをとりたいだろうから、遅くまで起こさずに早く寝かせる』

遊びに来たツーリングライダーに対して、兄貴はいつもそんな気遣いをしてくれる。俺は兄貴のこういうところがカッコいいと思うし、だからこそ兄貴と呼んでなついているのだ。まあ、俺の場合、兄貴と呑むのがうれしくて呑みすぎてしまい、疲れは残さないとしても、『酒は確実に残る』んだけど。

もっとも、これはビタイチ兄貴のせいじゃない。

雨はキツかったけど、久しぶりに四国の兄貴と楽しく呑んだくれた、三日目の話。

 

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