solo run

雨の夏ツーリング

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2012.08.13 四日目 大杉〜柏

―変化のとき―

 

大杉を出てしばらく走ると、道は香美(かみ)市と言うステキな街の西端をかすめる。

「おぉ、いい名前じゃないの。そういや山陰にも香美町ってのがあったな」

なんてニヤニヤしながら走り、南国市を抜けて高知市へ。

地図で道をチェックするのさえ雨で鬱陶しいので、案内カンバン任せで走る。

やがて土佐湾を望む、黒潮ラインへ出た。

そこからちょっとで、高知の観光地としてはもっとも有名だろう、桂浜に到着する。

 

桂浜へ入ってゆくと、こんな雨でもやはりバカっ混みで、入り口から渋滞してる。

普段なら脇をすーっと抜けて、とっとと駐車場へ行くところだが、なんとなくそのままクルマの列に並んでしまった。しばらく一緒にのろのろと進み、「やっぱ先へ行こうかな」と思った矢先、爆音ハーレィがわきを抜けていった。そこでカンペキ意固地(いこじ)になった、かみさん42歳。

暑くてしんどいのに、ムキになってクルマとともに進む。

 

30分くらいかかって、どうにか駐車場へ入った時には、もう、干からびる寸前だ。

だが、このまま龍馬像へはゆけない。

雨がしとしと降る中、とりあえず観光より先にやっておくことがある。

駐車スペースの小さな屋根の下でブーツを脱ぎ、サンダルに履き替えた。

足の指はもう、ふやけてしおしおになっている。

それから脱いだ靴下を、ユリシーズのエンジンに引っ掛けた。

どうせブーツが乾くわけじゃないが、靴下は少しでも乾かしておきたい。

乾いてくれれば、あとは俺の得意な『コンビニ袋』が大活躍する。

ブーツの中が濡れたときのために、ビニール袋は常に持ち歩いているのだ。

 

段取りが出来てひと息ついたら、それじゃあ『龍馬像』を見にゆこう。

ビーチサンダルで開放的になった足は、ステップも軽く階段を上る。

龍馬像は、当たり前だが、数年前に訪れた時と同じまま立っていた。

 

「もう、あなたより10も上になりました。相変わらずバカですが、あの時よりもう少しだけひとに優しく、強くなれたと思います。無駄な虚勢は張らなくなったし、自分の人生に対して前より真摯になったと思います。あと、あのときより少し……いや、かなり太りました」

かつては目標であり、今でも指標である男の象に、しばらくそうして語りかける。

そうだ、また京都の墓前へ行ってみようか。

 

像の前で神妙な気持ちになったら、他の観光ものには興味ないし、また走ろうか。

単車のそばへ戻って、屋根の下で地図を広げる。

「そういや、香美市ってどんくらいの大きさなんだろう?」

ふとそんな風に思ったも、何かの縁と言うか導きだったのだろうか。地図を確認すると、この香美市ってのが結構大きいのだが、その真ん中を国道195号と言うワインディングが走っている。「雨が降ってるからワインディングはなぁ」と思いながら道をたどってゆくと。

徳島まで150キロ、延々とワインディングが続いている。

そして、熱心に地図を見ているうちに、気づいたら雨が止んでいた。

「ま、そうなりゃ行くしかないわな」

俺はヤケクソ気味にニヤリと笑うと、エンジンの熱で半乾きの靴下を履いた。

 

桂浜をあとにすると、反対車線がアホほど混んでる。

「お、やっぱこっち向きで正解だったな」

別に反対側でも桂浜から向こうは空いてるんだが、少しでもいい材料を見つけて、やる気を出すのだ。と、『がんばってやる気を出してる』段階で、本当はずいぶん萎えてきてる。「せっかくソロに出てるんだから、あちこち走らないと」と言う、自分でかけた呪縛に縛られてるのだ。

それはともかく、黒潮ラインから県道を経由して、国道195号へ入った。

道はしばらく、香美市の街中を抜けてゆく。

 

『香美市』ってより、『Kami City』って表記の方が、いろいろ想像力をかきたてられるね。

そこは間違いなく治安のいい、緑にあふれた穏やかな街だろう。

もちろん単車は税金免除で、バイク屋とカスタムショップには、市から補助が出る。

あと、蛇口から酒が出る。

 

あじさいロードというセカンドネームの国道195号を走っていると、少し道が混み始めた。

「やっぱ阿南へのメインルートだから、混むのかな?」

と思っていたら、混んでいた原因がわかった。

やなせたかしのせいだった。初期のアンパンマンって、ちょっと怖いよね。

ディズニー並みに権利にうるさい俺の50コ上の漫画家に中指を立てたら、ひたすら国道を走る。

とりあえず、雨が降ってないだけでも上出来だ。

「このままワインディングを100キロ以上も楽しめれば、今までの鬱憤は帳消しだな」

そんな風に思いながら、曲がり始めた山道でタイアのエッジを削る。

 

と。

 

やっぱり降って来やがった。そんなに甘くはなかった。

この頃にはもう、ちょっとした悟りの境地に達しているので、さすがにいちいち怒りはしない。

 

不貞腐(ふてくさ)れてちんたら走るでもなく、逆にキレてすっ飛ばすでもなく、あくまでパイロットロード3のやれる範囲内で、それなりに楽しんで曲がってゆく。飛ばし過ぎず、でもトラクションをかけやすい程度には速度を上げて走ってやれば、ロード3はきちんと路面に食いついてくれる。

タイアが食いつけばサスも動くので、漠然と曲がるよりはずっと楽しい。

 

道が悪くて、それさえも出来なければ、景色を写真に撮って楽しむ。

てな感じで、まあそれなりに小康状態を保っていたのだが。

 

195号の全行程、その半分を過ぎたあたりで、クソ面白いクルマに出会う。

特に走り屋風のカスタムをしてるわけでもない、いたって普通の軽自動車なのだが、こいつがもう、面白いと言うか狂ったように飛ばすのだ。最初は交差点から合流してきて、ちょうど俺の前に入ったので、こちらも後ろについて、特に煽るでもなく走っていた。

ところがこの軽自動車、前が詰まったところで、えらいイキオイで前のクルマを煽り始める。

ノンビリ走るクルマの後ろでスラロームを切る姿に、「あーあ、やってらぁ。そんな無理したって、どうせまたすぐ引っかかるだろうに」と呆れながら眺めてると、短い直線でイエローをまたぎながら強引に抜いた軽のドライバーは、そのままのイキオイで次のカーブへ消える。

ちょっと面白そうなので、俺も前のクルマを抜いて、軽自動車の後ろへついた。

とたん。

さっきよりさらに気合の入った軽は、濡れたワインディングをすっ飛ばし始めた。

 

速いとは言え軽自動車の、それもたぶんフルノーマルだ。

ユリシーズの方はウエットなりでの六〜七割(半分よりちょっと頑張ってるかなぁくらい)も出せば余裕でついてけるのだが、逆に言えば、そのくらいは出さないとならない。いや、ヘタすると八割くらい(全開ではないけど、それなりにすっ飛ばす)はイってたか?

とにかく面白いヤツだったので、やたらゴキゲンになるかみさん42歳。

「抜けなくはないけど、面白いからくっついてってみよう」

すでに頭の中ではユーロビートが流れ出し、

「ウエットなら誰にも負けねぇんだよぉ!」

脳内で、軽のドライバーのセリフを勝手に補完する。

ウエットの荒れた峠を、ギャップひろってばいんばいん弾みながらすっ飛ばし、前が詰まればローリングしながらタイミングを計って、黄色も構わずゴボウヌキ。腕がどうとかクルマがどうとかじゃなく、たぶん、単純にちょっと切れちゃってるヒトだったんだろう。

延々とランデブーしながら、俺はメットの中で「ぎゃははは!」と笑いっぱなしだった。

 

もみじ川温泉の手前あたりで、10台ちかいクルマの列に捕まり。

ようやく速度を緩める軽のドライバー。

俺はすかさずカメラを構えて、走りながら写真を撮る。

な? まさかコレが、そんな走り方するとは思わないだろう?

 

もみじ川温泉のところでわき道にそれてゆくヤツへ、いちおう手を振ってみた。

残念ながらミラーの中の男は、気づいてくれなかったけど。

思わぬ楽しい走りに興奮しつつ、気づけばすっかり二日酔いも抜けている。

タバコを一服しながら、この先のルートを考えるのだが、しかし、どうもイマヒトツ身が入らない。今回はガマンの連続だったところへもってきて、急に俺と同じようなバカと走れたもんだから、なんとなく浮わっついた感じなのだ。変な達成感さえ感じられる、

そんな調子だから、兄貴に「徳島は阿波踊りで混んでる」と教わったのも、すっかり忘れていた。

「とりあえず、徳島から本州へ渡って、神戸あたりでその先を考えよう」

つわけで、ふわふわした気分のまま走り出す。

 

もう少しで阿南だなってあたりで、コインランドリーを見つけ、考える前に滑り込む。

今回はひたすら雨にさらされて、バッグの中の着替えまで濡れていたのだ。

いやまあ、バッグの防水性能が悪いんじゃなくて、左のバッグには穴が開いてるのに、それをすっかり忘れて乾いた着替えだの、布製のシュラフシーツを入れちゃった俺が悪いんだけど。荷物をほどき、濡れたものを引っ張り出すと、洗濯物と道路で干すものに分ける。

ブーツやインナーバッグ類を並べて干し、洗濯物を持って店内へ……

(やっべ、なんか若い女の子がいるじゃん)

店内には女の子がひとり、洗濯終わりを待ちながら、本を読んだり携帯をいじったりしていた。

 

さすがにここで、裸になるわけにはゆかない。

と言うことはつまり、今はいているジーパンやパンツ、着てるジャージを洗濯できないのだ。これは困った。非常に困った。さてどうしようかとしばらく悩み、通報よりは恥ずかしさを取ろうと決心。いったんオモテに出ると、俺は道路わきでフルチンになる。

いや、もちろん丈の長いオフロードジャージ(XL)を着てるから、チンコ丸出しってわけじゃないが。

素早くズボンとパンツを脱いで、短パンに履き替えると。

オフロードジャージもTシャツに着替え、ナニ食わぬ顔で洗濯物を持ち、改めて店内へ入ってゆくフルチニストかみ。無事に洗濯乾燥機へ服をぶち込むと、椅子に腰掛けて地図や携帯を見る。やがて彼女は洗濯を終えて帰ってゆき、こちらはほっとため息をつく。

 

ところが、今日はナニやら流れが悪い。

俺が洗い終わるころになって、今度は家族連れがやってくきた。彼らが帰るまで待とうかと思ってると、なんと家族全員で乾燥が終わるのを待つようだ。子供たちがきゃっきゃと騒ぎながら店内で遊び、若い両親ふたりは、子供らを注意したり、楽しそうに話をしている。

しばらく考えたあと、俺は仕方なく彼らへ声をかけた

「あの」

「?」

「すいませんが、これからここで着替えますね?」

「ああ、はい」

苦笑する両親、ぽかんとする子供たち。

 

洗濯物を終えると、すでに夕方に近い。

それでも乾いた服を着てスッキリしたので、気分よく走り出す。

阿南から徳島へ向かう途中までは、雨もなくわりと空いててサクサク進んだ。

が、徳島を目前にして、兄貴の忠告どおり阿波踊り渋滞にドはまりする。東京のクルマほど単車のすり抜けに慣れてないのか、それとも阿波踊りを見に来たいわゆるサンデードライバーだからか。クルマの挙動がやたら不審で、すり抜けるのにだいぶ神経を使う。

みっちり混んだ徳島をどうにか抜けて、鳴門から高速に乗った時には、ずいぶんと疲労していた。

 

高速に乗って、『淡路』の文字を見た瞬間、ふとひらめく。

「ああそうか。そういえば俺、淡路島を走ったことないや」

もちろん高速で通過したことはあるが、淡路の街中を走ったことがないと気づき、そのとたん、ちょっとやる気が出てきた。淡路島南で高速を降りると、西側の海岸を目指して進んでゆく。

ちょっとした丘越えのワインディングを抜けたあと。

 

海沿いにゆるゆるとくねる、淡路の西岸へでる。

 

この道は『淡路サンセットライン』と呼ばれているので、夕日がきれいだろうと期待したのだが。

残念ながら今日の天気では、美しい夕日には出会えなかった。

 

この段階で、俺はかなり楽観していた。

「海岸沿いには、海水浴場なりちょっとしたスペースがあるだろうから、そこで野宿だな」

イージーにそう考え、宿泊場所の条件を決める。まず、景色のいい場所へ来たのだから、あまりに汚いところでは寝たくない。それから道の駅みたいなスペースも、せっかくだから避けたい。キャンプ場は混んでなければOKだが、もちろん海が見えるところ。

そんな風に探しながら走ったのだが。

 

実はこれが大誤算。

まず、道端でもよさ気な場所にはたいてい、テント・キャンプ禁止の札が立っている。逆に禁止されてないところはかなり汚い。海水浴場も、テントOKなところはイモ洗い状態、空いてるところはキャンプ禁止。そしてキャンプ場はもちろん、とても混んでる。

道の駅ではなく『緑の道しるべ』つーポケットパークがあり、それぞれ異なった趣で作られている。

雰囲気がよくきれいな場所には、クルマがわんさと停まっていて、ちょっとしたキャンピング施設だ。ちょっとアレなところは空いてるが、それでも何台かは停まっていた。立て札もなく、それなりにキレイだなと思った場所は、だいたい民家の真正面

 

俺は野宿場所を探すとき、いくつか候補をチェックしながら走る。

そしてある程度走ったところで、候補のうちから「あそこにしよう」と決めて、そこまで引き返すのだ。まれに見た瞬間、一発で決まることもあるけど、大概はそんな感じで決める。ところが、今回はその候補さえままならない。疲れてたってのもあるのかも知れないが、とにかくピンとこないのだ。

そして淡路島は、それほど大きな島ではない。

ぼやぼやしてるうちに、いつの間にか北端まで来てしまった。

 

候補があれば戻るところだが、その候補さえないんだから仕方ない。

「今回はどうも調子が悪いなぁ」

と思いながら、そのまま高速へ乗って淡路を脱出。

神戸の街並みの都会っぷりが、今まで見てた淡路の印象とずいぶん違う。

「橋を越えるだけで、こんなに違うのか。隔離政策された未来都市の映画みたいだな」

淡路のヒトに聞かれたらぶっ飛ばされそうなことを思いながら、高速で本州に渡り、そのまま北上。三木ジャンクションでちょっと迷いながらも、東へ進路を取る。とりあえず選択肢の多い方向へ出た。淡河(おうご)PAに入って、一服しながら考える。

とは言え、雨の中435キロ、下道で12時間以上。

さすがにちょっと疲れてる。

結局、二日目の道の駅に続いて、久しぶりのPA泊を決めた。

 

決めたらとっとと野宿の準備をして。

 

販売機で買った水をチェイサーに、ジンをストレートで呑(や)りはじめる。

と、ここで出発前、ゴーからのメールで、「野宿のとき、携帯アプリの虫除けを試してきてください」とオーダされてたのを思い出した。早速、ダウンロードしてみると、ひとつめのアプリはセットして置いてある携帯の上に蚊がとまったので却下。

んで、二つ目のアプリは周波数が調節できる。

画面の下側に見える緑色のが、周波数調整のスライドバー。

最初は「全開だ!」とイチバン右まで動かしてみたが、そのあとしばらくして顔面をバリバリに喰われた。「コレもダメなのかなぁ」と思いながら、今度はイチバン左までスライドしてみる。同じように酒を呑んだり地図を見てすごしてると、心なしか蚊が来なくなった……ような

「なるほど、とりあえず目一杯にすりゃいいってもんでもないようだ」

もっとも、このあと何ヶ所か喰われ、スライドをセンターにしてもやっぱり一ヶ所喰われた。

周波数を変えていけば、それなりに効果あるような気もするが、劇的ではなかったかな。

 

身体を張って虫刺されの検証をしながら、地図を見て明日の行き先を考える。

しかし、明日の天気予報もまた、雨、雨、雨

「う〜ん、仕方ない。普通に観光でもしてみるか。姫路城なんかいいんじゃねぇか?」

そう思ってミクシィにその旨をつぶやいてみたりもするんだが、如何せん心が沸き立たない。なんたって、雨が降らないのは北陸から東北、それに関東だけ。九州も、四国も、山陰山陽も全部が雨。要するに雨で行き先が制限されてまずそれが気に喰わない。

単車を見れば、フロントホイールから赤茶色の液体が流れ出している。

サイドバッグの片方は、すっかり防水効果もなく、ただ濡れたもの蒸し上げる蒸し器と化し。

そして顔面以下全身は、ボッコボコ蚊に食われて腫れ上がり中。

普段なら気にならないような、細かいすべてがイライラする。

 

シュラフシーツにもぐって、少しうとうとしたあと。

午前3時ころ目を覚ました俺は、しばらく真っ黒な空を見上げる。

星はひとつも見えない。

 

「帰ろう」

小さくつぶやいた瞬間、がばっと跳ね起きて出発の準備をする。

お盆だからか、それなりにヒトがいるPAで準備を整えた俺は、東へ向かって走り出した。

大阪あたりから、むちゃくちゃな渋滞に巻き込まれる。京滋あたりでなにかあったらしいが、それを確認する余裕もない。疲労と寝不足でぼんやりするのを自覚してるから、とにかく事故を起こさないよう、慎重に慎重に走ってゆく。

伊勢湾岸あたりで、ようやく道が空き始めた。

ぶっ飛ばしてゆくクルマを尻目に、100〜120スピードで巡航し、たんたんと距離を稼ぐ。

 

伊勢湾岸の土山SAで、休憩がてら食事を取ったとき。

「ラーメンでも食うかな」と思いながら、食券の券売機にお金を入れた瞬間、なにもしてないのに、いきなり食券が出てきた。そのあとおつりが出てきたので、無料だったわけじゃない。『激辛・赤カレー』と書かれたその食券を見ながら、しばし呆然とたたずむ42歳。

「いや、カレーじゃねぇから。俺が食いたいのはラーメンだから」

食券を握り締め、カウンターへ向かってズンズン歩いてゆくと。

カウンターの中でおっさんが、「注文はもう済んでますから、お席でお待ちください」と八の字まゆ毛の困った顔で言う。「いや、食券が勝手に出てきて」とノドまででかかったちょうどその時、横の席に座ってる女の子たちから、「ラーメンまずくない?」と聞こえてきた。

俺は出かかった言葉を飲み込んで、おとなしく席につく。

まあ、激辛・赤カレーもそんな美味くはなかったんだけど。

 

ガソリンを入れたら、あとはひたすら走るだけ。

そうして走りながら、考えることは今回のツーリングについて

真っ暗な高速の上で、脳内反省会を始める。

 

走ることに特化するのはいいだろう。

俺はそれが好きで単車に乗ってるんだし。温泉やグルメだって嫌いじゃないが、走ることほど情熱をもてないのだから。そのためにウエットスタビリティの高いタイアをはいて、雨でもそれなりにワインディングを楽しめるよう考えたのだ。

四国で軽自動車とバカ走りできたことでも、それは証明されてる。

 

より走りに専念するため、乾燥食料を携帯したのもよかった。

そのぶん増えた重量なんて、1キロあるかないか。たったそれだけで、夕方になって店を探す煩(わずら)わしさから開放された。もっとも今回は、道の駅やパーキング、兄貴の家に泊まったので、その真価が本当に発揮されたとは言えないが、手ごたえは感じられた。

問題は雨が続いたこと……というより、その状況にメンタルが対応できてなかったことだ。

 

雨でも『それなりに』楽しく走れる。

そのためのタイアや防水といったハード面は(カンペキではないにせよ)出来上がっていたのに、俺の心と言うソフトの方が、ハードを生かしきれなかった。ウエットでもそれなりに走れることを喜ぶより先に、より楽しいドライ路面を求める方へばかり、気持ちがシフトしてしまった。

さらにメンタルをコントロールするためのベース、健康管理が出来てなかった。

熱中症しかり、寝不足しかり、二日酔いしかり。

「ソロツーリングには慣れている」と思っていた、その慢心が招いた結果だろう。

 

そして、出発前から思っていたことと、今回の反省がリンクする。

 

気ままなソロツーリングといいつつ、マンネリ化してきている。

ここんとこ、そんな風に考えていた。

『気まま』を重視するあまり、事前の調査や計画がまったくないため、ともすれば似たようなツーリングになっている。それはそれで納得できていればいいのだが、俺は納得できていない。だから今回は、ことさらのように『走ってない道』を行こうとしたのだ。

興味を持ったからではなく、半分、義務的な感覚で。

 

俺が一生かけでも回れないだろうほど日本は広い。

けれども、いつも行き当たりばったりだけで新鮮な気持ちになれるほど、大まかな意味でのルートは多くないし、俺の野生の勘もスルドくない。だとしたら、これからはもう少し考えたツーリングをした方が、より楽しめるだろうし、そろそろそんな時期に来てる気がする。

真っ暗な高速道路を走りながら、俺はそんな風に結論づけた。

 

来夏がどうなるかはまだわからないけど、なにかしら新しい、面白いことをやろうと思う。

もちろんそれは、ここを読んでくれるヒトのための、エンターテインとしての意味もある。

だが、何よりもまず自分自身が楽しむために、俺はそれをやる。

 

 

とまあ、最後はかたっくるしい感じになってしまったが。

実際には、暗い中で色々考えていたのに、夜が明けたら全部吹っ飛んでしまった。

美しい朝の光が、もやもやしたものを片付けてくれたようだ。

さて、来夏はどこへ行こう……いや、何をしてやろうかな。

 

 

雨の夏ツーリング・了

文責/かみ

 

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