2008.04.05 降ってわいた宴(うたげ)

 

土曜日である。

治療院のある町は、桜祭り一色だ。俺が仕事だつーのに。

 

屋台の準備を恨めしく眺めながら、おとなしく仕事へ。

土曜の診察は半日なので、午後1:00に整骨院を締めたら、さてクラッチやりますか。

 

応急処置のエクステンションを外して、ノーマルのピンを刺す。

んで、スイッチはそのままプラプラさせて、ライコランドへ向かう。

なぜって、mioちゃんからメールが来たからだ。

 

俺んちの前に停めたRocketIIIの写真と一緒に。

 

「いやぁ、何をお土産にしようかと考えたんですが、かみさんならサプライズがいいかなぁって」

さすがにmioちゃんは、よくわかってる。こう言う急襲は大好きだ。

つわけで、ライコランドで待ち合わせることにした。

mioちゃん得意のトロ箱(発泡スチロール箱)をつんだ、エロケットIII

中身はお土産の肉2kg。いつもありがとう。でもエロケット。

 

俺が現物を見るまで、絶対外すなと厳命しておいたエロミラーも健在。

 

明らかにモノの役に立ちそうもないウインカー。

 

「どーするよ? 天気いいから走りにいくべか?」

「かみさん、携帯ケースのホックが甘いんで、強いやつに換えてください」

「おう、わかった。んじゃ、俺んち行くか」

つわけで、家に帰って早速、mioちゃんの携帯ケースを修理する。

思いっきり派手なコンチョにしてやった。

 

さて、それじゃちっと早いが、一杯やるか。ちっとつーかまだ午後2:00だけど。

mioちゃんが持ってきた、フジガスのトライアルビデオを見ながら、早速ビールを引っ掛ける。mioちゃんは量を飲むときはビールより発泡酒がいいというので、んじゃ、自分でケースから出して冷やしとけ。俺んちの冷蔵庫は、みんなの冷蔵庫だから、自分のものは自分で冷やせよ?

ガブガブ呑みながら、Z、poitaさん、moto君、イチローあたりにメールをしまくる。

さらにrakから『明日走らないか?』つーメールが来たので、んじゃ、俺ンち遊びに来ない? つーと悩んでる。まぁrakのトコからだと、遠いってほどじゃないが近いとも言いがたいし、なにより仕事が遅くまであるらしいので、二の足を踏むのも仕方ないだろう。

 

だが、そのときちょうどmoto君から、『行きたいなぁ』的メールが入った。

双方とも、もう一押しだ。ならば、次の一手は決まっている。

『rak来るよ』

『moto君来るよ』

と、やり手ババアみたいな返事を出すと、しばらくして双方から『行く』の返事を取り付ける。かみくん、両手で豪快に大物を釣り上げた。 ダブル一本釣り。まさに、かみの一手。さらにイチローからも、『遅くなるけど行きます』との返事がきて、急遽、大宴会の様相を呈してきた。

そして、これが悲劇の始まりだった。

 

mioちゃんと呑んだくれていると、やがてmoto君がやってくる。

moto君とmioちゃん、初対面。

mioちゃんはうちに来るたびに、moto君に会いたいmoto君に会いたいと、まるでホモのごとく連呼し続けていたのだが、ココへ来て彼の願いがようやく叶ったわけだ。嬉しそうなmioちゃんの顔が、全てを物語っている。moto君はビール開けてもいないのに、すでにハイテンションだ。

 

ようやく会えたんだから、本来ならココで、いろんな話をするのが普通である。

だが、俺の不用意なセリフが、この夜の雲行きのすべてを決定してしまった。

「あ、そういえば俺、イチローにmoto君も来るぞって言うの忘れた

途端にギラギラとレーザーのごとく輝き始めるmoto君の瞳。

「かみさん、言っちゃだめです。イチローが来たら俺は隠れますから。mioさんとかみさんで、イチローに俺をバカにしたりモンクを言わせたり、NGワードを引き出してください。その瞬間、俺が飛び出しますから。あ、そうだ! バイクとか靴とか隠さなくちゃ。よーし、面白くなってきたぞー!」

まさに、ヒトの姿をした鬼。

 

ココからは鬼motoの独壇場だ。

「mioさん、いいですか? 演技と言うものはですね、その役の気持ちになりきることが、なによりも大事なんです。わかってます? 真剣にやってくださいね? 遊びじゃないんですからね?」

どうやら、遊びじゃないらしい。

「かみさんも、強引に言わせようとしちゃダメですよ? あいつ最近賢くなってきましたからね。だんだん疑い深くなってきたんですよ。まったくもう、やりにくいったらありゃしない」

100%おめーのせいだ。

そのあと、細かい段取りを全部仕切った鬼は、満足げな表情で飲み始める。

ちなみに、俺はビール一本しか呑んでない。あとは焼酎。

並んだビールの空き缶は、ほぼすべてmioちゃんとmoto君のしわざだ。

つーか空き缶、これだけじゃないしね。

 

アホほど呑んでるうちに、いけにえのエンジン音が聞こえてきた。俺が買い物に行くフリをして表に出、イチローを迎え入れると、酔っ払ったフリをして(実際かなり酔っ払ってたんだが)自分の家の呼び鈴をガンガン鳴らす。もちろん、これを合図にmoto君が隣室へ隠れるのだ。

イチローを招きいれ、軽く呑みながら会話を重ねる。

だが、なかなかNGワードを引き出すことができない。もともとイチローはmoto君がいないところでも悪口なんて絶対言わないし、イチバン尊敬する単車乗りがmoto君なんだから、これはなかなかに至難の業なのだ。そうこうするうち、俺の携帯がなる。

見てみると、moto君だ。隣の部屋からメールしてきたのである。

『ヤバい、ハラワタよじれそう』

思わず吹き出しかけ、何とかこらえつつ、イチローと真剣(っぽく)moto君について語る。mioちゃんは会話の流れを見ながら、要所要所で相槌を入れてゆく。Nがmoto君の擁護にまわり、俺がモンクとまでは行かない批判程度の、イチローがうなずきやすそうな話をふる。

 

ところがその合間合間に、moto君から次々とメールが入ってくる。

今、会話してる話の内容へ突っ込んだり、『かみさん! もっと言って! mioさんにも伝えて!』など『イチロー目の前にして、どうやって伝えろっつーんだ』的な指示を、うるさいくらい送ってくる。いかん、あんまりメールが多いから、イチローがいぶかしげな顔をしてるぞ。

と、いつの間にか俺もノリノリ。

やがてついに、イチローからNGワードが飛び出した。

「イチロー、正直moto君、うっとうしいときがあるよな?」

「……はい」

「うっとうしい?」

「うっとうしいときがあります」

瞬間、moto君からメールが入る。

『隣の部屋に、パジャマ取りに来させて』

「イチロー! おめ、自分のパジャマは自分で取ってこいよ? 隣にあるから」

ハイとうなずいて立ち上がるイチロー。

固唾を呑んで見守るギャラリー。

ふすまを開けた瞬間、目の前に正座して鬼の形相をしているmoto君を見たイチロー。

 

「ぬ゛う゛わっ!」

 

およそ人類とは思えない悲鳴を上げながら、軽く2メータほど後ろへ飛びすさる。

「うっとうしいだって〜?」

間違いようの無い、彼の師匠moto君の声に、イチローはそのまま石になった。

 

左、石化したイチロー。右、ご満悦のmoto君。

さぁ、説教大会のはじまりだ。

ドSの本領を発揮したmoto君は、イチローをいじめながら、要所要所で「うっとうしい」と言う言葉を連呼する。周りは大爆笑しっぱなし。mioちゃんにいたっては、涙を流して笑いまくる。涙を拭きながら『これはねぇ、もうねぇ、感動だね』とつぶやくmioちゃん。おまえもたいがい酷いな。

 

んでまぁ、そのうち酔っ払ったmoto君の暴走が始まる。

なんでそんなラブゲーム。

ちなみにmioちゃんともやってた。嫌がれ、ふたりとも。

 

絶好調のmoto君、ようやく解放されたイチロー、2:00から呑み続け、そろそろ限界のmioちゃん。

 

もちろん、俺もぶっ潰れた。

上はmoto君の命令で、さらに俺の酒を回すべくマッサージするイチロー。

最後にはmoto君までも俺のマッサージを始め、ここらで一度、記憶が完全に途切れた。

 

騒がしさに目を覚ましてみれば、いつの間にか、rakと彼の後輩のJ君が登場していた。

明日のツーリングに参加させるために、バイト先から拉致されたJ君は、スウェットにパーカーみたいな、明らかに単車乗る服装ではない格好で来ている。J君いわく、『あと30分もらえたら、ちゃんとした格好してこられたんですが』だそうだ。

どうやらこっちにも、ドSの先輩とドMの後輩と言う図式が成り立っているらしい。

んで、このころにはもう絶好調どころが大暴走し始めていたmoto君の矛先は、いつの間にかrakになっていた。rakも酔っ払いなんか放っておきゃいいのに、律儀に答えを返している。ドタマの回路が途切れ途切れのmoto君がワケのわから ないコトを言い、rakが説明を求める。

でもね、キミの説明、誰が聞いてもイミがわからないよ、moto君。

 

mioちゃんはとっくの昔に沈没し、たたき起こされては、また沈没を繰り返している。イチローとJ君はどうにこうにも眠いのだろう、それぞれの先輩の横におとなしく座ってうつらうつらしている。それを尻目に、moto君とrakは熱く語り、俺は話を聞きながらも死ぬ寸前。

まさに、阿鼻叫喚を絵に描いたような様相を呈してきたのが、午前4:00だったか。

俺はすっとぼけて、とっとと寝床に入った。家主+最年長者の特権だ。

あとで聞いたら、rakは結局5:00ころまでmoto君に捕まっていたらしい。南無。

 

次の朝、つーか約三時間後

仕事のイチローの姿はすでに無く、moto君と俺はムクんで風船みたいな顔。J君は座ったまま寝てるし、rakは半分しか開かない目で飢狼伝を読んでいる。mioちゃんももちろん、半病人みたいな顔だ。するとそこへ、rakの携帯にGO!!!!!さんから電話が入る。

近くまで来てるとのコトで、俺が電話を代わり、多少の紆余曲折のあとGO!!!!!!さんもやってきた。

俺、rak、J君、GO!!!!!!さんのツーリング組は、ドコへ行こうかと行き先を相談。ビーナスラインなんて話もあったのだが、結局、当初の予定通りビーフラインへ行くことになった。もうひとり同道するrakの知り合いが、昼に合流するとのコトだったので、それまでの午前中は、筑波で遊ぼう。

 

単車の前で集まり、家に帰って家族サービスのmoto君と、力尽きて病人みたいなmioちゃんとはココでお別れ。前日の午後2:00から続いた狂乱の宴は、時計の短針が一周半した午前8:00、数々の戦死者を出しながら、ようやくその幕を閉じたのだった。

そして、ラウンドは第二ステージ、ツーリングへと進む。

 

第49回 Crazy Marmalade でっかいもん倶楽部へつづく

 

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