2009.09.15 ドル来葉

 

moto君の悪魔のような計画が頓挫し、普通に宴会となった15日。

「と思わせといて、なんか企(たくら)んでんじゃねーだろうな?」

などと 警戒しながら、仕事を終えて家に帰ると、すでにドルとよしなしが来ていた。

ドルの方も「もしかしたら」と思って、警戒しながら俺んちまでやってきたらしい。よしなしに至っては、「間違いなく何かしらあるだろう」と、半分あきらめながら来たようだ。おそるべしmoto効果。つーか 、そんな疑心暗鬼になるくらいなら、サプライズとかやめれっつの。

 

ふたりを待たせて風呂に入ったら、ドルのオミヤゲとNの料理で宴会スタート。

ドル土産のシソを挟んでない方のカマボコ、プリプリでメチャメチャ美味かった。

やがて料理を終えて一息ついたNも加え、ガンガンビールを干しながらくっちゃべる。久しぶりのドルは、やはりネタの宝庫だった。仕事がらみのおもしろい話が、後から後から湧いてくる。俺もたいがいおしゃべりだが、ドルのネタ話の前にはただただ、笑いこけるしかない。

詳しく書けないのが残念だ。

 

そんな感じで大笑いしていると、房総の悪魔がオーちゃんを連れてやってきた。

とたんに軽く緊張が高まり、それを感じて悪魔がにやりと笑う。突然、ドルが土産を引っつかむと、moto君に差し出しながら「motoさん、とりあえずこれを!」一瞬あっけにとられたmoto君、ニヤっと笑って「まぁ、そう言うことなら今回のことは不問に付します」みんな大爆笑。

ドルのワイロ攻撃により、悪魔のターゲットはよしなしへシフト。

冷静に考えれば、言いだしっぺのドルはともかく、よしなしはただ勝手に『だましメンバー』に加えられ、俺やNを気遣って「moto君、それはまずいんじゃないかなぁ」と言っただけなのに、いつの間にか『だましプラン立ち消えのA級戦犯』になってるんだから、可哀想なもんだ。

もっとも、誰ひとりよしなしをかばう人間はいなかったけど。火中の栗だからね。

「まぁまぁ、よしなしさん。私もね、鬼じゃないですから。今回のことは水に流しますよ」

と言いながらmoto君、持ってきたレジ袋を開ける。

「これを食べてもらえれば」

メチャメチャ人の悪い笑顔とともに取り出されたのは納豆巻き。ま、知らないヒトは知らないだろう、納豆はよしなしのイチバン嫌いな食い物なのだ。茨城在住のクセに、なんと言う無駄遣いなロケーションに住んでるんだって話だ 。新潟の下戸みたいなもんだね。

「いやいや、カンベンしてよー。俺、小学校以来食ってないのに」

顔をしかめるよしなしに、悪魔のささやきが始まる。

「いやいや、無理に食べなくていいですよ。でもね、よしなしさん。あなたにも大事な家族がいるでしょう? 住所や家族構成を調べるなんて簡単ですけどね、出来れば私にそんなことをさせないで欲しいんですよねぇ……こんなものヒトツで家族が守れるんですよ?」

映画なら最後に殺されるのは確実なセリフを吐くmoto君。しかし、残念ながら現実社会に彼を罰することの出来る正義の味方はいない。力なき正義は無力なのだ。ただただ、己の力のなさを噛み締めながら、正確には爆笑しながら、半泣きのよしなしを見守る俺ら。

やがて。

家族を守るため、よしなしは決心を固める。

喰った。

とたんに沸きあがる大歓声。

「お、俺……か、家族を守った」

蚊の泣くような声で涙を浮かべつつ、男は胸を張った。美しい笑顔だった。

ま、よしなしにはこれを機に、納豆好きになって欲しいものである。

「納豆なんて人間の食うもんじゃねぇ」

ご愁傷様。

 

ドルの話はおもしろい。

常々俺は、内容的にmoto君が好きな系統の話だと思ってたのだが、案の定、ドルが仕事の話を始めるとガップリ食いついている。オーちゃんが俺の横で、「motoの好きそうな話だわ。俺なんて好きでもないのに、コイツのせいでムダに詳しくなっちゃったんすよ」と 苦笑い。

そんな親友の言葉などフルシカトで、酔っ払ったmoto君はゲラゲラ笑い、興味深く話を聞いてる。途中でマニアックなコトに食いついては、みなを笑わせつつ、かと思えばイキナリわけのわからない事を真面目な顔でしゃべり出す。

「ドルフィーさんって、顔が小さくてガタイがよくて、米兵みたいですねぇ」

「ぎゃはははははっ! なんだよ米兵って! ドル、おめ、米兵だったんけ」

「マッカチンですね」

「マッカチン? ザリガニのことだよね? こっちの方言?」

福岡出身のNが聞きとがめると、moto君は真面目な顔で

「米兵のことをマッカチンって言うんですよ。Nさん知らないんですか?」

ま、moto君がしれっと嘘をつくのをよく知ってるNは、引っかからなかったけど。

そんな風に楽しく呑んだくれ……夜中の0時をとっくに回ったころ。

何がきっかけだったか、突然、話がとんでもない方向に動き始めた。

「ドルフィーさん、明日ケモ行きましょうよ」

「ちょちょちょmotoさん、ちょっと待ってよ! 明日は嫁さんと合流して……」

「大丈夫、大丈夫。バイクもirohaのシェルパがありますから」

すかさずよしなしが

「最初からセルつきなんて、全然、楽勝だなぁ」

オーちゃんも負けじと

「それじゃ、そろそろ寝ようか。早く寝ないと明日きついから」

その上、irohaにまでメイワク電話をする始末。ダメ人間らしいエスカレートっぷりに、ドルは半笑い。そりゃそうだ。まともな神経を持ってたら、まさか本当に行くとは思うまい。しかし、ヤツらのワルノリっぷりをよく知っている俺は、ドルを見てニヤニヤしながら、教えてあげることにした。

「ドル、おめ、信じてないだろ? あのな、こいつらはマジで行くぞ?」

「はぁ? いや、でも……」

「もちろん自分らもツラい。そんなことは解った上でこいつらは『おまえの泣き顔を見るため』だけに、マジで明日、房総まで行く気だぞ? ちなみに俺も、よしなしにSLを貸す気マンマンだ 。なぁドル。房総の悪魔をナメちゃいけないことは今回、充分、学んだはずだろう?」

ここでドルフィーも遅まきながら、どうやら自分の置かれた状況に気づいたようだ。

「いやいやいや、行きませんって! 面白そうだけど、明日はもう予定が……」

明らかに声が真剣になる。もちろん、moto君はニコニコしながら

「よしなしさん、行きますよね?」

「当然」

「オー(ちゃん)! おまえは?」

「行くに決まってるじゃん」

ドル、生き地獄。

調子に乗って俺も、「俺も行くぜ」つったら、「かみさんはダメ」って怒られた。

酔っ払った勢いで決めた話でも、そして、明日どれだけ二日酔いでツラかろうと、motoと言う男はこの話をゼッタイに敢行する。ドルの死にそうな顔を見るため『だけ』に、間違いなくやる。正直、よしなしやオーちゃんは引きどころを待ってるだろうが、この男だけはやる気に決まってる。

「いや、マジ、カンベンしてくださーい!」

「あーあ、ドルかわいそうに」

一気に酔いのさめた顔のドルをみて笑っていると、ここでようやくオーちゃんから助け舟が出た。

「んじゃさ、これからカラオケ行こうよ」

ま、オーちゃんがこの時間から繁華街に出ようって言うんだから、当然、カラオケなんかじゃないんだろうが、ドルはこの言葉にすがりついた。とにかくココで、徹底的に呑んだくれ遊び倒しておけば、明日ケモに連れて行かれることはないだろうってわけだ。溺れるドルは藁をもつかむ。

この段階で、夜中の三時くらいだったろうか。

さすがに明日仕事のある俺はギブアップだ。ワルノリ部隊に捕獲されないうちに、財布からいくらか取り出して「俺は残念ながら行けないけど、おめーらこれで遊んで来いよ」と渡す。自慢じゃないがワルノリした悪魔と戦った経験なら、こちとら一回二回じゃないのだ。

あくまでカラオケだと言い張りながら、わいわいと出てゆく四人の背中を見送ったところで。

本日のCrazy Marmalade呑んじゃうもん倶楽部は、ようやくのおひらき。

呑んで、喰って、しゃべって、笑いまくった楽しい一晩だった。

 

ドルフィー、遠いところサンキュな?

千葉はおっかないところだけど、また遊びに来いよ?

そんで今度こそ、ケモ行こうぜ!

 

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