2010.07.06 最強の新車
motoくんが……つーかプライベートじゃ最近、下の名前で呼び捨てだし、motoでいいか。 房総の鬼軍曹motoが、「かみさん、遊びに行っていいすか? 新車乗っていきますよ」とメールをくれた。ただ来て呑むんだって楽しいのに、新車に乗ってくるってんだから、楽しみは倍増だ。もちろん、ふたつ返事でOKした俺は、仕事がハネるや否や、すっとんで帰る。 家に着くなりその辺を見回すが、どうもバイクが見当たらない。 「ああ、そうか。雨が降るってんで、クルマで来たんだな。あっちの駐車場に停めたのか」 ちょっと残念に思いながら玄関を開けると、ここ半年のトレーニングでやけにマッチョになったmotoが、ニコニコしながら迎えてくれた。黒のタンクトップを来た身体は、明らかに逆三角形になっているし、俺と同じく出っ張っていたおなかも、すっかり引っ込んでいる。 「うをっ! motoなんだよ! すんげぇイイ身体になったなぁ」 「トレーニング頑張りましたよー!」 と言いながら、ポーズをとって見せるのだが、身体が出来てるからフツーにビルダーのポージングみたいで、ちょっと悔しい。いや、かなり悔しい。俺も真面目に、トレーニングしなおすか。そんで、筋肉がつくまでの間は、motoをゲイ呼ばわりして溜飲を下げることにしよう。
俺もとっととシャワーを浴び、ビールを引っ張り出して、さあ、カンパイだ! 「ところで、雨降りそうだからクルマで来たんけ?」 「いや、バイクですよ。新車で来ました」 「なにー? あんだよ、どこに置いたんだよ?」 「見に行きます?」 行くさ、行くに決まってるじゃん と、ふたりで家のウラまで回る。 すると、ナオミのXRが置いてある「自転車置き場のさらに奥に置いた」と言うじゃないか。 「いやいやいや、いくら俺を驚かせたいからつっても、そんなせまっ苦しいところに、よくもまぁビッグオフなんてバカでかい単車を隠したもんだな。おまえのそういう、『ヒトを驚かそう』って言う精神には、毎度のコトながら敬服す……」 言葉が途切れ、 その場でストップモーション。 それから数秒置いて、俺は爆笑しながら叫んだ。 「ぎゃはははははっ! そー来たかっ! なるほど、なるほど」
やってくれたよ、motoのヤツ。 まぁ、説明するまでもないだろう。世界売り上げナンバーワンにして、最も丈夫な単車。おまけに燃費はモンスター級、そしてその走破性は、乗り手次第じゃオフでもケモでも行けちゃう、まさに世界最強の単車。ホンダスーパーカブの最新モデル、インジェクションの110ccだ。 「レッグシールドで足も汚れませんしね」 ニコニコ笑うmotoの顔に、コッチまでなんだか嬉しくなってしまう。 部屋に戻るなりナオミに向かい、「てんめ、また知ってて黙ってやがったな?」とわめくと、「隠したって言うのは聞いたけど、あとは何も知らないよ? バイクなんだったの?」きょとんとしてるので、にやりと笑ったかみさん、「おまえも乗りたがってたヤツだよ」「あたしが?」「カブだ。新しいカブ」 ナオミさん、ニヤーっと笑ってmotoを見る。motoもニヤリ。 「ナオミさんも、あとで乗ってみてくださいよ」 「うん、またがらせてー!」 「いいなぁ、アレいいなぁ。なあ、ナオミ。俺も買おうかなぁ」 「それはダメ」 ドサクサにまぎれて言質を取ろうとしたが、失敗した。
「しっかし、やってくれたなぁ。BMのビッグオフだって言うから、ゴーに教わった福島の林道でも行って来いって言おうと思ったのに、さすがにアレじゃ時間が掛かりすぎるわなぁ。でも、いいなぁ。面白そうだなぁ。やっぱ110だと速い? カブだからそうでもねーか」 「いやいや、前に乗っててすぐ売っちゃったXR100に比べたら、全然パワーありますね。今日も来る時に16号で、100 くらいのペースですり抜けして来れましたよ。あと、フロントサスが変わってちゃんとノーズダイブするようになったんで、曲がるのも違和感ないです」 「へぇ、面白そうだなぁ」 「面白いですっ!」 そーとー楽しいのだろう、力説する顔が上気してる。 「しっかし、BMW買うんじゃなかったん? F800だっけか?」 「いやーBMは試乗したんですが、どうも気に入らなくて」 エンジンがどうしても気に入らなくて、他の候補を探したんだそうだ。ところが、ヤマハの660テネレもホンダのトランザルプも、BMとそんなに変わらない値段になってしまうらしい。なので、ずいぶんと悩んだそうだ。もちろん、『買わないという選択肢』がなかったのは言うまでもない。 いや、聞いてないけどなかったに違いない。俺だったらないもん。 「それにしても、カブとはなぁ。いや、確かに変に高いの買うんだったら、あれが最強だわな」 「高速は乗れませんけどね。でも、別荘の周りでも重宝してるし、すげぇいいですよ」 「あ、そうだ。そういや、カブの動画があるんだよ」 三人でチャーリーブアマンがカブをぶっ壊す、例の動画を見る。
コレを見てるうちに、俺もかなり真面目にカブが欲しくなってきた。
カブ騒ぎも一段落したところで、motoが面白い話を始める。 「こないだ、mixiで面白い企画を見つけて、それに参加してきたんですよ。普段なら俺、そういうの行かないんですけど、酔っ払ってる時に見ちゃって、そのタイトルが、「テクニカルツーリング」つー、初心者お断りの企画だったもんで」 「ほほう、それはまた挑発的な。んで、何で行ったの?」 「ST1100です。R1は車検が切れてるんで」 「ぎゃはははっ! またタチ悪りぃなぁ。最初ナメられたろ?」 「ナメられましたねぇ。『無理そうだったら、途中離脱してください』って言われました」 んで、その派手な企画をブチあげた主ってのが……まぁ、この先はmotoが書くか。とにかく、そこで待ってるとタイアドロドロのおっかない集団がやってきて、ひと悶着あったらしい。で、その連中はテクニカルツーリングには参加しなかったのだが、motoはせっかくだからと付いていったんだそうだ。 走り出せば案の定、イッコも速くないわけで。motoは途中で離脱を決めたらしい。 ところが、第二集合場所で待ってたヒトが、こちらも『この企画の挑発的な内容に様子を見に』来たと言う、Zを操るえらい速いヒトとその友人たちで、motoは結局、テクニカルツーリング組と別れ、その人たちとガシガシ走りまくり、歓談し、実に楽しい時間を過ごしたという。 「いいなぁ、いいなぁ、楽しそうだなぁ」 うらやましく聞いてるうちに、いくつかのキーワードが気になった。 なので、『思いたったが吉日』が座右の銘のかみさん、Rやポンちゃんにメールで確認してみる。すると、Rからは返事がなかったのだが(翌日あった)、ポンちゃんから電話が来る。 「あ、もしもし、ポンちゃん?」 「今さ、ちょうどかみくんに電話しようと思ってたんだよー」 こないだ事故ったばっかのポンちゃんと、その事故のときの話を聞いたり(これもまた、ポンちゃんらしいエピソードがあるんだが、割愛する。危なくて書けね−よ)、『その名前は知らないが、一緒に走ってた友人の方は心当たりがある』という話に目を丸くしたり。 単車乗り、それも千葉ってくくりだからとは言え、世間は狭いねぇ。 ちなみに確証はないが、タイアドロドロのおっかない集団の方も……
で、一度ナオミと電話を代わる。ポンちゃんの事故を心配してたからだ。 「もしもしー! ○○さん、大丈夫? ホント事故が多いねぇ。一度、お祓いに言ってきたほうがイイんじゃ……ああ、めんどうなの? それじゃぁさ、せめてバイク乗るとき、バイクに塩をまいたらいいんじゃない? うん、そうそう。お祓いの代わりににさぁ……」 ナオミの、この超テキトーなアドバイスが、電話を聞いてた俺とmotoのツボにクリティカルヒット。 そのあとまた電話を代わり、ポンちゃんと色々バカ話して電話を切ると。 「かみさん、今、ナオミさんに説教しときました。いや、いくらなんでも『塩まけ』って」 「なんでー? 塩は神聖なものなんだよ」 「なんですかその塩万能説。ナオミさん、何でもかんでも塩まけばいいってモンじゃないんですよ」 ナオミさん、不満げな表情でmotoをにらむ。もちろん、わざとだ。するとmotoは笑いながら。 「いや、すいません。まずいなぁ。マルさんを抜いて、一番に友達になろうと思ったのに」 三人、顔を見合わせて爆笑。
その後も、色んな話をしながら、ふたりでガンガン焼酎を干してゆく。 そして、ふたりで泥酔。 「かみさん、カラオケ行きましょうよ」 「お、珍しいな。ナニ歌う気だよ? いや、行かねーけど」 「ミスチルですよ。行きましょうよ!」 「わかった、わかった。今、ミスチルの曲をかけてやるから」 「ああ、それじゃぁアレがいいです」 で、ミスチルをかけてると、かみさんは何を歌うんだつーので、今度は俺の好きなのをかける。 「まぁ、この辺が好きかなぁ……って、moto寝てんじゃねーか!」 ま、起きてまた『カラオケ行く』とか言い出すとうるさいので、深く寝かしつけるためにエンヤをかける、策士かみ。んで、エンヤを聞きながらmixiにつぶやいたり、カブを調べたり、林道ツーレポを読んだりしてたら、俺も眠くなってきた。策士、策におぼれる。 久しぶりのmotoとの宴会は、大笑いしてるうち、あっという間に終わってしまった。
あけて翌日。 アサイチ起きてみると、motoはすでに起きてコーヒーを飲みながらナオミと話していた。 「おあよー」 「あ、おはようございます。かみさん、俺、昨日、酔っ払って悪さしませんでした?」 「カラオケ行こうって言ってただけだよ。まるきし問題ない。俺の方が全然タチ悪いよ」 ナオミ、そこでうなづくんじゃぁない。 いつものように、着替えてコンタクトを入れて出発しようとすると 「え? もう準備できたんですか? 早っ!」 「おー、んじゃな。また呑もうぜ!」 つって駐輪場に行き、フューリィのカバーを剥がしていると、着替えたmotoもやってきた。 「俺も一緒に行きます。一度、かみさんの治療院を見てみたいんで」 「おー、そんじゃわかりやすい道でいくべ」 16号に出て混雑するクルマの間を縫いながら走ると、ミラーに映るカブのヘッドライト。多少、ゆるめながら走ってるとは言え、100スピードくらいは優に出てるんだが、後ろのカブ、まるきし容赦ないベタ付け。ちょっと道がすくと離れるけど、すり抜け始めると追いつかれる。 俺は楽しくなって、信号待ちで並んだ時、ケタケタ笑ってしまった。 「やっべ、カブ速ぇ! 全然、問題ないじゃん」 「でしょ? 面白いですよ。交換してみます?」 つーんで、信号待ちの間に単車を交換。motoカブに乗って走り始めたのだが。 「あれ? 今何速? あれ? クラッチ……はねぇのか。シフトアップはどっちだ? こっちか?」 ヴュイーン! 盛大なエンブレで、身体を前方に持っていかれる。 次の信号で停まると、motoが笑いながら 「交代しましょう。おじさん、思いっきり身体持ってかれちゃってるじゃないですか」 だってシフトがわかんねーんだもん。 でも、110カブはトルクフルで、思ったより全然速かった。面白かった。
途中のコンビニに寄って、朝メシを買い込み。
整骨院に着いて、しばらくダベる。 やがて時間になり、患者さんがやってきたところで、呑んじゃうもん倶楽部もお開きの時間だ。 カブにまたがってニコニコしながら去ってゆくmotoの姿を見送りながら、 「さて、半日仕事だし、がんばるか」 俺は腕まくりをして、最初の患者さんを呼んだ。
呑んで喰って、ハラワタよじれるほど笑った、すばらしく楽しい夜だったよ。 moto、いつも面白い話と、楽しい時間をありがとう。 また呑んだくれてバカ騒ぎしようぜっ!
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