2010.09.10-20 火の七日間

 

■一日目 10日金曜

―たかし、GO、なっこ―

 

金曜日、仕事がハネて帰ってくると、自宅入り口に単車が停まってる。

「お、たかしぁもう、来てるのか」

たかしのR750<K1>

 

家に入ってみれば、

きょとんとした小動物のような顔でたかしがマンガを読んでいる。

 

さっさとシャワーを浴びたら、とりあえずたかしと三人で晩飯だ。

この日はナオミさん特製キーマ&ナスカレー。本来ならナスも一緒に煮込んであるところを、ナス嫌いのたかし用に、ナスだけ別に炒めて添えてある。コレが逆に功を奏したようで、身内びいきナシで非常に美味かった。俺は煮込んであるより好きかも。

つっても俺は酒呑む気マンマンなので、『ライス抜き、カレーのみ』だけど。

 

ほどなく、妹のなっこが帰ってくる。

「ただいまー!」

「おい、たかし! 正座してごあいさつだ。モタモタしてっと殺されるぞ!」

「あ、はい!」

あわてて正座したたかしは、なっこさんに向かって三つ指突いて「お帰りなさいませ」。

「きゃはははっ!」

爆笑しながら席に着いたら、さて、宴会を始めようか。

 

え? 足りない?

ああ、大丈夫。すぐにやってくるよ。

ほら。我が家の備品GOは、今日もダルダル。

 

こないだ買ったデジカメに、『スマイルキャッチ機能』ってのがついてる。

笑顔に反応して、自動でシャッターが切れるってやつだ。

「なっこ、ちっと笑ってみ」

胡散臭い笑顔だが、とりあえず笑顔とは認識してくれたようだ。

そこから、なっこの写真写りの悪さの話になり、たかしやGOにも、なっこの写真を撮らせる。そして最終的に出た結論は、『写りが悪いんじゃなく、かみさんのせい』だった。ホンモノの芸術はいつの時代も迫害されるのだ。悲しい話だが、コレもあふれる才能の代償だ。甘んじて受けよう。

つーかホント、ホンモノはかわいいと思うんだが、俺の写真だとブサイクだよなぁ、なっこ。

 

実は今回、レポで困らないようにと、あらかじめICレコーダを動かして、会話を録音しておいた。

ところが、四時間以上も録音してたもんだから、まず、聞くだけで大変。それでも頑張って、通勤のとき音楽の代わりに聞いてたのだが、すると今度は時間じゃなく、内容的に聞いてられなくなる。なんでって、ちょっと想像してみろ。

自分がだんだん酔っ払っていく過程を、シラフで聞かされるんだぞ?

こないだ『酔っ払い会話』をアップされて、ナオミが悶絶してた気持ちが、とってもよくわかった。

俺、ヒドイことした。

反省してる。

 

つわけで、ICレコーダには頼らず、写真のみで記事を捏造してゆこう。

マーマレードスプーンは『全編フィクション』だしね。

さて、気持ちよく酔っ払いながら、延々とバカ話をしていると。

 

GOがオチかけてる。

もちろん見逃すナオミさんではない。

すかさず脚マッサーと言う名のイジメが始まった。

 

GO悶死。

 

すると、ダチと電話してて忙しく、イジメに参加できなかったなっこが。

 

「かみさん、押さえて」

「おうよ、まかせろ」

 

 

 

魅惑のタトゥ。

 

あんまし楽しくて、俺はもうこの辺から記憶がないくらい泥酔

しかも、日本酒をカパカパ飲んだのが決め手になったようで、ちょっとヒドい悪酔い。いや、気分がどうこうの悪酔いじゃなくて、クセの悪い方の悪酔い。とっとと寝りゃいいものを、寝室に送られるたびに起きて来て、みんなにいいだけカラミ酒だったそうだ。

なっこが思わず、

「こんなかみさん、初めて見ました」

とナオミに漏らすほどだったそうで、ホント、深く反省。

 

反省の意味を込めて、醜態を晒しておこう。

酔っ払って、PCやってるうちはおとなしいのだが。

呑みすぎたので、水を飲まされる。

仲良しで抱きつかれてんじゃなくて、両手を押さえつけて酒を取れないようにしてから、強引に水を飲まされてるところ。こうやって水を足して少し薄めておかないと、もう、この段階で胃袋の中身の九割は酒なのだ。

もっとも、泥酔してるのにまだ呑もうともがくから。

当然、水をこぼす。

 

んで、やっと寝室に放り込むと。

 

すぐ起きてくる。超ぉ、ウザい。俺はもう、人前では日本酒を飲まないことにするよ。

GO、なっこ、たかし、ごめんね。

 

ちなみに泥酔したかみさん、カメラを持って大騒ぎ。

GOは寝てて、なっこもどこか遠い表情。

 

なっこの笑顔は人形の笑顔。ナオミさんはもう、疲れ切ってる。

いや、ホントに『酒は呑んでも呑まれるな』だ。

こうして、一日目の夜は更けていったのだった。

 

■二日目 11日土曜

―GO、なっこ―

 

午前中の仕事を済ませて、しばらく待っていると。

なっこのクルマに乗って、GOとナオミがやってきた。俺はそのままGOの治療に入り、ナオミは整骨院の掃除や片付け。運転してきたなっこは休憩。んで、GOの治療が終わってから、ケーロクをそのまま俺もクルマに乗り込んで、四人で千葉県白井へ向かう。

ここにある一軒家の賃貸物件を見に行くのだ。

 

到着すると、白い壁のでかい家で、特にリビングのだだっ広さは特筆ものだった。そのリビング内に八畳間が入ってて、『呑んだくれて眠くなったらココで布団で寝れる』と、すでに宴会のビジョンが浮かんでくるほどステキな感じ。俺はすぐに気に入ったし、ナオミも歓声を上げながら見てる。

ちなみにGOは、書類見る前から「僕はココでいいです」つってた。

いや、ヤツが勝手にヒトんちを決めてるとかじゃなくて、今回は広い家なので、『GOとウチで、シェアして住もう』つー話になってたのである。二階の部屋や納戸をウチとGOで分けて、リビングや台所を共有つー、まぁ、一般的なルームシェアだ。

「GOさん、サウナがありますよ! ここに入ってるGOさんの姿を写真に撮りたいなぁ」

ドエスのなっこさん、どうやら背中に落書きしたくらいじゃ気がすまないらしい。

 

ひと通り見て戻ってきてから、またリビングを眺める。

「なっこ、リビング内の八畳間にある柱には、おまえが真っ先にぶつかるんだぞ?」

「わかりました。じゃあ、アタシが帰ってくるまで、誰もぶつけないようにして置いてください」

「プチプチで巻いて、取っておくよ」

四人でバカ話しつつ、どうやら気持ちはそろったようなので、俺は不動産屋のおねえちゃんに、「決めます」つって、書類を書き始める。もっとも、こんないい物件だから、イニシアチブは物件の持ち主側にあるようで、『審査をして後日改めて連絡する』と言うカタチになった。

ま、結果的にウチはダメだったんだけどね。

 

家に帰ってまったりしたら、それじゃ今日はオモテに呑みに行こうか。

つっても柏で呑むと言えば、そりゃもう、ぶらい庵しかないわけで。

土曜日のぶらい庵は確実に混んでるから、珍しく電話で予約を入れてから出かける。四人でバカ話しながらプラプラと柏の街を歩き、ぶらい庵に到着すると、オーナーのテラシマさんが俺の顔を見て笑いながら。

「ああ、やっぱりかみさんだったのか。予約の電話の声がそうじゃないかと思ったんですよ」

「土曜は混んでるからねー」と笑いながら、今日は四人なので奥のボックス席へ通される。俺とナオミはビール、GOとなっこはソフトドリンクでカンパイし、ぶらい庵の料理に舌鼓を打つ。GOは『昨日の晩も、ぶらい庵で食った』つーので、「昨日は何を食ったんだ?」と確認。

「いや、いいですよ。同じものでも良いんで、気にしないで注文してください」

「違げぇよ、昨日と同じもの食わしてやろうと思ってんだよ」

「きゃはははっ!」

バカ話しながら、『家族なメンツ』で楽しい夕食のひと時を過ごす。

 

最後に、ぶらい庵シメの名物『パンアイス』を喰って、店を出たのは何時だったか。

しばらく家でのんびりしたあと、妹と備品はニコニコしながら帰っていった。

俺もこれ以上呑むのは控えて、とっとと寝床にもぐりこむ。

そんな二日目の話。

 

■三日目 12日日曜

―TOM―

 

早寝したからか、わりと早めに起きた日曜の朝。

実弟のTOMが遊びに来た。

軽くビールを引っ掛けてると、ナオミが色々とツマミを作ってくれる。

「おー! 美味ぇ。おぉ、これも美味めぇ。ナオミすげぇなぁ」

「全部、簡単なんだよ、TOMさん」

「いやー、暖かい物が出てくるって嬉しいなぁ」

おめーのハードル、えらい低いな。

『朝っぱらから呑んだくれるダメ兄弟』そんな絵面に、自分で笑ってしまいながら、久しぶりの実弟と色んな話をしつつ飲んだ。俺と弟は、もちろんケンカもたくさんしたけど、基本的に仲がいい。そのうえ最近は、弟が三国志にハマってきたので、より話題が多くなった。

「兄貴んトコにはさ、人が集まるじゃん? だからさ、やっぱ兄貴は劉備(りゅうび)なんだよ」

劉備は三国志における英傑のひとりで、小説『三国志演義』の主人公。一般的イメージは『愛と徳のひと』かな。戦いにはしょっちゅう負けたが、民衆からは絶大な人気を得ていた。ふたりの勇猛な義弟、関羽(かんう)と張飛(ちょうひ)に助けられ、蜀漢の初代皇帝になる。

「それ、俺を褒めてるっぽいけどアレだろ? 自分が張飛になりたいだけだろ?」

「や、それもあるけど、ホントに兄さん劉備っぽいじゃん。で、GO!!!君が諸葛亮(孔明)かな」

「んじゃさ、関羽は? 俺の義弟にしておまえの義兄になる『武神』はだれよ?」

「う〜ん……@ねぇさん?」

ものすごく違和感がないのは何でだろう。

 

言っても三国志の話ってのは、知らない人が聞くとものすごくウザい。

なのでTOMもその辺は適当に話しながら、時々ナオミの入れる話題に持っていく。

「やっぱさ、談志はすげぇよ」

「談志って、立川談志?」

「そうだよ。立川流ってのは談志がさ……」

ま、それでも話の内容は基本的にコアなんだけど。

 

さらに、酒が回ってくればそんな気遣いをする余裕もなく、あとはひたすら兄弟でバカ話。

合間に、TOMの持ってきた三国志のDVD(主人公が趙雲の話)を見ながら、ふたりとも目がない芋焼酎を、まったりと呑んだくれつつ。普段からの激務で半死半生の弟は、そのうちいびきをかいて寝てしまったので、俺も昼寝を決め込む。

弟が起きてからも、ダラダラ呑んだり喰ったりしつつ。

結局TOMは夜になって俺が寝てからも、ひたすらYou Tubeで音楽動画を見続けていた。

実弟だけに1ミリも気を使わず、のんびりとした休日を過ごせた。

 

■四日目 14日火曜

―よしなし―

 

「今日、かみさんち行っていいですか? レザークラフトで教わりたいことがあるんで」

茨城の八の字まゆ毛から、そんな連絡が来た。まだユリシーズも納車されてなかった時だったので、ビッグオフの雄(ゆう)であるBMW1200GS乗りのよしなしから、面白い話も聞きたい。てなわけで二つ返事に快諾すると、仕事を終えて帰ってくる。

よしなしは先に到着していたので、風呂に入ってまずはカンパイだ。

 

すでに一本あけてご機嫌のよしなしに追いつくべく、俺もカツカツ杯を干してゆく。

「いやー、ユリシーズ買うとは思いませんでしたよ」

「おう、俺も思わなかった」

「でも、すぐ売っちゃうでしょうね」

「売らねぇっつの。ビュエルはケーナナ買う前にも候補だったんだ。納得するまでは乗るよ」

「いやぁ、すぐに売っちゃうと思うなぁ」

「うるせぇ、この八の字」

喰っちゃってるけど、よしなしの買ってきてくれた、すげぇ美味いメンチカツとカレーライスコロッケ。

 

こっちは、なっこが土産にくれた、生ハム。

一枚一枚ていねいに包装してあって、すげぇ美味かった。

 

バカ話して笑ってると、不意にヤツが来た理由を思い出す。

「つーかおめ、ステッチのやり方、聞きに来たんだべよ」

「おぉ、すっかり忘れてた」

てなわけで、ダブルステッチとシングルステッチを実演して見せ、ハギレで練習させる。

こういうのは、ウダウダ説明を聞くより、やってみた方が覚えるからね。

つーか、こういうのやってる時って、なんでクチビルが尖るんだろうね。

「やってみると、意外と簡単ですね」

「それになにより、コレだとコバ磨きしなくて済むんだ」

「おー! それはいいっすね! 俺もあれ、嫌いなんですよ」

とレザークラフトトークに花を咲かせていると、俺のケータイがなる。

「ぎゃはははっ! ムラタだ! そういやアイツのブログに、電話しろって書いたんだっけ」

笑いながら電話をとる。

 

「かみさん、呑んでるの?」

「おう、よしなしと呑んだくれてるよ」

「いいなぁ。つーかあれですよ。俺、もうタイア買っちゃいましたよ」

「なに? そーなのか。あに買ったん?」

などとタイアの話から、走りの話、乗り手の話と、結局いつものルートでバカ話に花を咲かせる。もちろん、よしなしもちょいちょい電話を代わっては、ムラタと話して笑ってる。んで結局、30〜40分くらいかな? 話し終わって電話を切ると、よしなしとナオミは主婦トークに花を咲かせていた。

最近のナオミさんのお気に入り、ネギ油の話だったか。

ま、よしなしも自分で料理するから、退屈はしてなかったんじゃねーかな。

 

言ってもふたりとも明日は仕事だ。

しかも、よしなしはアサイチに俺んちを出発して、職場まで100キロくれえは走るコトになる。なのでテキトーなところで切り上げ、連日宴会で呑み疲れの俺は、そのままベッドへ倒れこむ。よしなしはたぶん、マンガ読んでから寝たんじゃないかな。

そんな感じ、いつもどおりの楽しい宴会だった。

 

■五日目 15日水曜

―しんご―

 

「今日、かみさんち行っていいですか?」

「確認する必要性を感じない」

てなわけで、魂弟のしんごがやってきた。ちなみに魂弟とは、タマシイ的な兄弟の意だ。

何はともあれ、しんごだからね。

ナオミもまったく気を使わないし、俺も、疲れてるとかまるっきし関係ない。いつ来たっていつ帰ったってかまわないから、いちいち確認なんて要らないのだ。まぁ、それでも連絡くれた方が助かるけどね。「あれ買ってきてー」って使いっパシリに出来るから。

 

土産のビールを冷やしながら、とりあえずウチのモルツで乾杯だ。

そして呑み始めてしばらくしたら、ナオミはそのままPCや読書。なぜなら、しんごと俺の場合、GOやなっこのときより更に単車オンリーの話になるからだ。それも、タイアの話とかブレーキの話とか、ナオミが聞いてもわからない話を延々と。

しんごは当初、気を使って他の話題も振ってたのだが、俺がそれを許さない

そりゃそうだろう? なんたって現役も現役、バリバリの某所ランナーが聞かせてくれる話だぞ? もはや速さ的には手の届かないところにいるとしても、タイアやパッド、乗り方の話。いろんなことが参考になる。なにより、雰囲気を味わったり、意見を聞くのはすごく楽しい。

はい、そこのムラタとフラナガン。

よだれを拭け。

 

「こんだ、ピレリ入れようと思うんだよ。ディアブロコルサ」

「ストリートの方ですよね? あれ読んで思ったんですけど……」

「ふむふむ、なるほど。するってーと、ストリートよりは、むしろロッソのがいいかも?」

「逆にストリートなら、かみさんの好きなパワーワンとかでいいんじゃないですかね」

「ほほう、それはまた何でだ?」

具体例を挙げながら、色んなタイアの話を聞かせてもらう。もちろん、全部が全部しんごのインプレだけじゃないんだけど、誰かに聞いた話だって、その相手が相手だからね。クローズドサーキットとはまた違った、公道なりの視点での話は、本当に面白くてありがたい。

ここんとこ連続宴会で飲み疲れてたのも、逆に良かったようだ。

いつもなら嬉しくてガンガン呑んだくれちゃうところが、酒を控えめにして話メインだから長く話せる。しんごの必要な情報には俺の知ってる話をし、俺の欲しい話をしんごが聞かせてくれる。もちろんそう言う『必要性』みたいなのもあるけど、そんなことよりなにより。

しんごと呑んで話すのが、とにかく楽しくてしょうがない。

ダチと呑むってのは、つまりこういうことなんだよな。

 

タイア、乗り方、R1にケーロク、NSRにユリシーズ、ツーリングに峠に某所。

いや、単車の話だけじゃない。好きな酒の話や女の話、そしてもちろんバカで楽しいダチの話。翌日仕事なので、それほど深い時間までは呑まなかったけど、めちゃめちゃ楽しい時間をすごし、俺は気分よく寝床にもぐりこんだ。そんな五日目の話。

つーかタイア、やっぱパワーワンにすっかなぁ。

 

後半に続く

 

―インターミッション―

この絵を見ながら、「足つきなんて関係ない」って言ってみろ。

人間には、やれることとやれないことがあるんだ。

 

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