エンカイレポート
ゴールド・エクスペリエンス
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2011.05.05 六日目 七日目 ―彼と彼女のソネット―
正確には、前日の五月四日の話。レポートとしては五日目の続きになる。 龍神スカイラインを堪能して、そのまま三重のおーが家近くまでやってきた俺とフラナガンは、「きっとこのあたりだろう」という場所で単車を停め、おーがに連絡を取った。そう、「おーがんち泊まろう」と言っておきながら、家主には一切アポイントを取ってなかったのだ。 ま、俺とおーがの場合、いつもそうなんだが。
「もしもーし!」 「おう、かみ。どこ走っとるん?」 「なあ、おーが。○○○つーマンションを知っているか?」 「はぁ? なに?」 「○○○マンションだ。知らねぇのか?」 「知らん。そんで、それがどうしたん?」 「そこは、×××から入ってきたトコロにあるマンションなんだが」 「……ぎゃははははっ! アホや。アホがおる」 ×××は、国道からおーがの家に向かう時の、ランドマークである。
つわけで、そこからの道を聞いた俺たちは(本当にすぐ近くだった)、無事におーがの家へたどりつく。おーが家ではちょうどナオミが風呂に入っていた。なので出てきたナオミと入れ違いに、俺も風呂をいただく。入れ替わる時、ナオミは笑いながら、 「電動ファンの音と爆音がしたから、「かみと誰かが来た」ってわかったよ。誰と来たの?」 「フラ」 「なんだフラか」 えらい言われようのフラが、俺に続いて風呂から上がってきたら。 おし、晩酌もとい晩飯を買い出しに行こうじゃないか。 おーがのクルマでヤロウ三人、近所のスーパーへ買い出しに出る。酒や食い物(もちろんほぼ全てが揚げモノだ)、女連中に頼まれた葉っぱや果物を買って、とっとと戻ってきたら。各自おーが家の好きな場所へ勝手に陣取って、宴会のスタートだ。 突然のかみ来訪に喜ぶ、おーがの子供たち。 フラは別に喜ばれてない。 確認してないけど、きっとそう。 それに比べて、かみはこの家において、VIP扱いとなる。 ほらね。
禁断の果実、『山賊宴会』の味を知ってしまった、おーが。 これから先はきっと、同じくその味を知ってしまった連中と、中部および関西地区での山賊宴会を催すのだろう。なんたって中部には、最強最美味の山賊ダイニングチーム、『メタボ会』が存在しているのだ。ヘタすりゃいつの間にか、メタボ会に入ってるかも知れんぞコイツ。 関東が対抗するには、よしなしの得意料理、『イノシシ吊るし切り』しかない。
と。 俺のヘルメットを見つけた、おーがの長男UKTが、嬉しそうにかぶる。 それを見た妹のNNKが、自分もかぶりたいと言い出したので、ナオミのヘルメットをかぶせてみた。 ご満悦のおふたり。 ふたりは敬愛するボス、『かみ』の元に集結し、神妙な面持ちで指令を受諾する。 「いいかおまえら、自動販売機の下に落ちてる小銭をひろって来い」 「ラジャー!」 つーか、ふたりの後ろ姿が。 異常にかわいい。なにこの生き物。
チビらが寝床に行った後も、俺、フラ、おーが、飼い主ちゃん、ナオミの五人で呑んだくれる。 途中、フラの彼女と電話で話したり、そのあと席を外して彼女としゃべってるフラに暴言を吐いたりしながら、真面目な話やバカ話、昔話に琵琶湖宴会の話。久しぶりに、おーが夫婦との会話を楽しみながら、買ってきた酒をガンガン干してゆく。 やがて酔いが回った、ワルノリかみ&おーがによって、 ナオミが鼻眼鏡の刑に処せられる。 写真を見る限り、本人も喜んでるっぽいから、まあ、ほほえましい光景といっていいだろう。 いいだけ酔っ払った我々は、それぞれの寝床にもぐりこんで夢の世界へ。 そんなツーリング五日目の夜。
明けて翌朝。 五月五日はツーリング六日目。ツーリングしないけど。 仕事のない日は比較的、早起きのかみさん。起きるなり俺のトコロへやってくる『かみ信者』UKTを連れて、コンビニへ朝飯の買い出しにゆく。いつものように、かごの中へ朝飯やお菓子、ジュースなどを放り込みながら、「UKT、好きなモノ持っといで」つーと。 今までなら、「わかった」と欲しいお菓子を持ってくるUKTが、おずおずと。 「ねえかみ……NNKの分、買っていい?」 「ん? ああ、いいよ。どれが欲しいかわかるのか?」 うなずいて妹のお菓子を物色し始めるUKTに、俺は思わずニヤリとしてしまった。それこそ二歳だか三歳のころからよく知っているあのチビが、いつのまにか自分より先に妹のことを考える、一人前の『お兄ちゃん』になっていたのだ。 なんだか、やけに嬉しかった。 『割ったチョコレートの大きい方を妹に渡す兄を見て、「そうだ」と微笑んだ、北斗の拳のレイ』のような顔で、UKTのアタマをガシガシやりながら、「UKT、でっかくなったなぁ」と笑った俺は、同時に、「そりゃあ俺もジジイになるわなぁ」と、若干の寂寥(せきりょう)を禁じえなかった。 こんだUKTがもちっと大きくなって、グレ出すあたりが楽しみだ。 ダチのガキがグレて、親と仲悪くなった時。 『話のわかるオッサン』として人気を博すのが、俺の次の野望なのだ。
コンビニから戻ってダラダラしてると、おーがやフラも起き出してくる。 なんだかんだ昼過ぎくらいまでグダグダしたあと、フラが帰るというので、表に出て見送る。
「あれ、ユリシーズのスロットルの動き、ちょっとシブいなぁ」 「ああ、ホントちょっと動き悪いですねぇ。かみさん、潤滑剤でも吹いときます?」 「ん、ああ、そうだなぁ……って、いやいやフラ。わざわざ荷物解いて引っ張り出さんでもいいよ」 「いや、すぐ出ますから……あれ、これじゃないなぁ……あ、あった」 「さ、サンキュ……よし、これでOKだ。ありがとな」 「他には大丈夫ですか? 何かないですか?」 「……おめーさ、正直に言ってみろ。ただ帰りたくないだけだろ?」 「…………はい(ニヤリ)」 てな往生際の悪いやり取りのあと、フラはシブシブ帰っていった。
そのあとは、おーが家とかみ家がそろったときの、いつもの展開。 おーがはモンハン、ナオミはネット。 んで、俺とUKTが本を読んでると、ネットに飽きたナオミもマンガを読み始める。 この圧倒的なグダグダ感。ナオミがいるところは、必ずこういう雰囲気になる。 って、ゴーがよく言ってる。
やがて夕方近くなり、今日の買い出しに出かける。 今回は飼い主ちゃんの運転で、ナオミと俺がお供する。昨日、男だけで買いに行かせたら、見事にアブラモノだけを買ってきたことを懸念した女性陣が、『男には任せておけない』と、立ち上がったのだ。つわけで今夜は、魚系の夕飯&もちろん酒。 刺身や煮物、巻き寿司が中心の比較的ヘルシーな夕飯。 おーがは普段、酒を呑まない。ところが、ヤツの中でトップクラスに楽しかった琵琶湖の宴会が続いてる感じなのだろう。ヤツは俺がいる間、毎晩、晩酌していた。ま、結局のところ、酒の美味さってのは一緒に呑むヤツ次第ってことなのだ。 そらぁ、かみさん相手だもの、美味いに決まってるさ。
翌、五月六日の朝は、UKTが熱を出すところから始まった。 妹のNNKは元気に、幼稚園へ行ってきまーす! ホントは子供らが学校や幼稚園に出かけたあと、オトナだけで昼間っから呑んじまおうと言う、最低にして最高のステキプランが持ち上がっていたのだが、UKTが熱出して寝てるため、あえなく却下となる。それどころか、なんとなくみんなの体温を測ったら。 俺、ナオミ、飼い主ちゃんの三人は、見事に発熱していた。 バカは風邪引かないおーが、ムダに元気な大声を上げて主張する。 「あれやんな。体調悪いんなら、肉喰わなあかんやろ」 「おまえバカじゃねーの? まあ、言ってることには一理あるが」 つわけで、今晩の食事は肉になる。
おーがと俺で買い出しに出たのだが、ナオミはどうせ食えないので、ちょっと控えめにしてみた。 トンテキ、豚バラ、カルビ、シマ腸、ホルモン、ローストビーフ。 そして当然、赤ワイン。 俺としては、羊肉がないのが残念で仕方なかった。全ての肉の中で、俺は羊がイチバン好きなのである。ラムもマトンもみんな好き。なお、トンテキとは『ブタのビフテキ』つー意味なんだそうだ。ビフテキって言葉自体、イマドキ使わない言葉だと思うのだが、それはともかく。 トンテキは三重の名物だということになっている。 少なくとも、スーパーのトンテキコーナーには、そう書いてあった。 だが、おーが夫婦は首をひねりながら、「まあ、○○って有名店から話が広まったんやけど、俺らは別に名物だとは思っとらんなぁ」つってたので、大人の事情とか情報操作とか、そういう類のキナ臭い話らしい(特にキナ臭くはありません)。 少なくとも、『我が家のこだわりトンテキ』みたいのは、ナイっぽいよ。
じゅうじゅうと肉の焼ける音と匂いのすぐそばで、 ナオミさん、カンペキにダウン。デコに貼った冷えピタが、涙を誘うとか誘わないとか。 もっとも、飼い主ちゃんが作ってくれた雑炊を食べて、「美味しいー!」って騒ぎながら寝てたから、本人もそれなりに幸せだったんじゃないかと。元々、それほど肉好きってワケじゃないしね。それほど肉好きじゃない段階で、俺としては一喝したいところだけどね。
とりあえず、カルビや豚バラを焼いて食ったあと。 トンテキ投入。色がとても美しい。ま、肉は基本的に美しいものだけど。 「ここで、おーが家のこだわりトンテキを魅せてみろ」 「ぎゃははは! 知らんわ。いや、そうやな。塩コショウを手ですり込むのがポイントやな」 焼いてるときに? それはイロイロと、どうだろう。
肉を買ってくる時、俺とおーがの共通認識として、大量に必要だと思ったものがある。 もちろん、牛脂だ。 なんたって、『無料の牛肉の脂身』である。『無料』、『牛肉』、『脂身』と言う、三種の神器と言えばいいのか、三柱(みはしら)の神といえばいいのか、とにかく俺とおーがから冷静さを奪う、何かしら神的霊的なチカラが働くものであることは間違いない。 つわけで、ごろごろっと牛脂をもらってきていたのだが。 明らかに、調子に乗りすぎた。脂の池が出来上がってるじゃないか。 そして、なぜにその脂の中へキムチを投入するんだ、おーがよ。 「足らんか?」 いやいやいや、違うンだ。そういう事を言ってるんじゃないんだ、どあほう。 まず冷静になって、アタマのネジを締めなおせ。 肉と脂とキムチとビールで、カンペキにイカれたおーが。泥酔してかなり面倒くさいオッサンになる。嫁の飼い主ちゃんが半ギレになるくらい。普段なら誰より早く、むしろ光の速さでメンドくさいはずの俺が、置いてかれるくらい。 「おめ、メンドくさいところ動画に残してやろうか?」 「かまへんわ、そんなもん」 すると、眠ってたはずのナオミが起きだして、かすれた声で力説し始めた。 「おーが、あとでゼッタイ後悔するからね。アタシなんて酔ったところを録音されくぁwせdrftgyh!」 経験者の悲痛な叫びが、おーが家にこだました。
後半はちっともツーリングにならず、グダグダとおーが家で遊んでたが。 それもまた、走るのと同じくらい、楽しい時間だ。 とは言え、明日はさすがに帰らなくちゃ。
ナオミの熱が引いてなかったら、ココに置いてひとりで帰ろう。
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