エンカイレポート<番外編>

呑んじゃうもん倶楽部

2012.01.09-10 秩父の車窓から(その1)

 

「かみさん、秩父鉄道に乗りに行こうよ」

「行かないよ! つーかろろちゃん、電車だいっキライじゃん」

「いや、あそこは面白いんだ。国道299号の上を走ってるんだよ? 道が空撮みたいだよ」

「なにっ? そ……それは見たいかも……」

 

とまあ、ひょんなコトから、話が始まりまして。

「かみは歩かない」の妄言でおなじみ『かみさん』と、電車が大嫌いな『ろろちゃん』、40歳を越えたおっさんふたりは、秩父鉄道に乗って小さな旅へと出ることになりました。もっとも、このふたりのコトですから、ただ大人しく観光してるだけとも思えません。

はてさて、いったいどうなることやら。

 

当日の朝、まずはかみさんが柏駅から電車に乗ります。

スイカというプリペイドカードと、携帯電話の案内が発達したおかげで、乗り換えも簡単です。普段は、バイクばかりで電車に乗らないため、乗換えはほぼ100%反対方面に乗ってしまうコトで有名だったかみさんも、どうやら迷わずにサクサク進んでゆきます。

おや、かみさんがなにかブツブツ言ってますね。

「ふむ、電車てのは時間に追われると鬱陶しいけど、こうしてゆるーいカンジで出かけるときは、それほどイライラしないもんだな。通勤ラッシュも終わってガラガラだし、なんなら酒呑んだっていいわけだし、こういう風に出かけるのも、悪くないかも知れん」

要するに、かみさんにとっては、『酒が呑める』のが重要なようですね。

そんなダメ人間を乗せて、電車は走ります。

新松戸から武蔵野線に乗り換えて北朝霞。

そして朝霞台から東上線で川越へ。

川越駅といえば、かみさん、昔はよく柔道の試合で訪れていたのですが……

今ではすっかり様変わりして、どうやらピンとこない模様。

地元を離れて数十年ぶりの同窓会のような、ほのかなアウェイ感を感じているのでしょう。

不安そうな表情で、ろろちゃんを待ちます。

 

やがて、無事にろろちゃんと合流し、とりあえず駅の外へ。

もちろん、タバコを吸うためです。

今どきの駅は全面禁煙がほとんどですから、スモーカーのふたりは苦労が絶えないようですね。

おやおや、ろろちゃん。さっそくですか?

朝っぱらからビールとは、困ったひとですねぇ。

もちろん、ビールを買い込んできたのは、アル中のかみさんですけれど。

 

川越駅で、さらに酒とつまみを買いこんだ二人は、川越線に乗って東飯能を目指します。

「かみさん、バイクカタログを持ってきたよ」

「なはは、なんでまた。新しいバイク買うの?」

「あたりまえじゃないか。だって宝くじを買ったからね。もちろんボクは、3億円が当たるなんて夢を見るほどずうずうしくはないけど、いくらなんでも100万円くらいは当たるだろう? だから、それで125ccのバイクを買おうと思ってるんだ」

「どっからどうツッコめばいいのか、まったくわからないよ、ろろちゃん」

 

酒を呑み、ケタケタ笑いながらバイクカタログを眺めつつ、「ハスクがどうだ」とか「KTMがどうだ」などと騒いでるおっさんふたりに、平日の電車内にいる他のお客さんも、暖かいまなざしを送っています。

と、かみさんが何かに気づいたようで、嬉しそうに立ち上がりました。

「お、なんだこれ。バスみてぇ」

どうやら、ボタンを押すタイプの電車のドアを、初めて見たようですね。

40年以上も生きてて、いったいナニを見てきたんでしょうね、このひとは。

 

そんな風に遊んでいれば、一時間ほどの行程も、あっという間に過ぎ去って。

ふたりは東飯能駅に到着しました。

 

あらあら、またタバコですか。

乗り換え時間が数分しかないのにそんなコトしてると、電車に乗り遅れますよ、おふたりさん。

「ま、それはそれでネタだよね」

ひととして色々と終わってますよ、おふたりさん。

 

さて、東飯能駅からはおまちかね、西武秩父線(池袋線)です。

ウキウキしながら窓の方へ向いて座り、カメラを構える40オトコふたり。

「お、かみさん! ほら、299号線だよ!」

「おぉ、早くも!」

オッサンがはしゃいでるのは、あまりゾっとしない光景ですねぇ。

西部秩父線の横を、国道299号線が併走しています。

 

普段はバイクで走ってる道を上から眺めるのは、彼らには不思議な光景なんですね。

ろろちゃんも、とても嬉しそうです。

「あー! ここ知ってる! 俺、ここわかるよ! おー、こっから見ても曲がってる」

当たり前ですよ、かみさん。

ほらほら、そんなにはしゃがないで。

「うおー! 曲がってるなぁ。つーか空いてるなぁ! 走りてぇ!」

かみさんは曲がった道を見て、すっかりバイクに乗りたくなってしまったようです。

まあ、天気もいいですからねぇ。

 

普段なら、キッっと先をニラみながらアクセルを開けてゆく曲がり道も、今日は風景の一部。

 

ちょっと道が見えるたびに、ふたりは一生懸命カメラを構えてシャッターを切ります。

 

それじゃあ、ふたりと一緒に、もうしばらく西武秩父線からの299号を眺めましょう。

「かみさん、ほら、ここアレだよ。コンビニのトコ」

「おぉ、ホントだ。スタンドのあるところだね。いつもガス入れるか迷うんだよなぁ」

 

「ここはパッシングポイントだよね」

「や、俺はどこでも構わず抜いてっけど」

 

「おぉ、この辺は日陰に雪が残ってる」

「でも、ぜんぜん走れそうだね。もっと凍結とか残雪で走れないかと思ったよ」

 

「いいねぇ、曲がってるねぇ」

あたりまえですよ、かみさん。

 

「お、バイクだ。この寒空にがんばってるなぁ」

「ああそうか、駅のところなら休憩できるんだねぇ。今度はココで休憩しよう」

 

天気のいいワインディングを眺めてるうちに、ふたりともバイクに乗りたくなってしまったようです。

「おぉ、ろろちゃん見て! レンタルバイクの看板があるよ!」

あっても、すでにお酒が入ってますからね。

今日はのんびりと、景色を楽しんでください。

 

「芦ヶ久保だ! ろろちゃん、芦ヶ久保だってよ!」

「よく見てごらんよ。駅の下は、いつもの道の駅じゃないか」

「あ! ホントだ! すげぇ!」

別にすごくはないですね。むしろ気づかないアナタがすごいですよ。

 

「あそこの交差点、道の駅『あしがくぼ』に入るとき、曲がるところじゃん!」

かみさん、知ってる場所を違う角度で見たことが、よほど嬉しかったようですね。

写真を撮りながら、ろろちゃんもあきれてます。

 

「ところでさぁ、ろろちゃん。さっきから前の席のオッサンが、ちょいちょいこっちを見るんだよ」

「そうなのかい? まあ、僕らが騒いでるからじゃないかな?」

「だから、オッサンにカメラ向けたら、あわてて向こうを向いちゃったよ」

「ははは、やめなよー!」

相手が女性だったら、旅はココで終わってますよ、かみさん。

 

さて、次回はそんなふたりが、秩父で友人達と出会います。

酔っ払ったふたりは、ドコへ行って何をするんでしょう。

 

その2へつづく

 

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