GSX1300R隼
<ファーストインプレ>
準ノーマル状態
フロントフォークとリアサスを、それぞれ10mmほど低くした状態でのインプレ。
1)またがってみる。
またがった瞬間、『軽い』と感じる。それはもちろん、俺が重量級のクルーザを乗り継いできたからだろうけど、コイツの重心が低いのも一役買っている。ただ、ハンドルが低いのと
、俺の手足が短いのとで、実際に取り回すとなると、身体を覆いかぶせるようにしなくてはならない。
そのため、軽いと感じるわりには、取り回しはかったるい。
2)走り出してみる。
走り出すと、とにかくフラット。加速がすごいといっても、大騒ぎするほどじゃない。いい意味でも悪い意味でも刺激のない、開けた分だけ加速する感じだ。峠で攻め込むようなときは頼りになる武器だけど、普段の街乗りでは刺激がない分、ついつい速度が上がってしまう。
たとえばまったく同じ加速だったとしてもRIIIだったら、もっとカタマリ感というか、巨大な質量が制御しきれない速度へ飛び込んでゆくような、恐怖と刺激がある。これは、もっと遅いはずのV-MAXにも言える。絶対速度じゃない、刺激的な加速感ってやつ。
またVTXやM109Rのようにガンガン地べたを蹴っ飛ばしながら、身をよじるようにして加速していく面白さもない。折れ線グラフで言ったら、四発のイメージそのままの、まっすぐな右肩上がりの斜線ってイメージだ。『二次曲線的な』なんて言葉は、フォルム以外に使う場所がない。
ただ、その斜線の角度は恐ろしく急だ。
軽く吹け上がるもんだから、気持ちよくまわしてしまい、なんとなくメータを見て目ン玉が飛び出ることがある。ところが逆に、そのフラットな特性に慣れてしまうと、すり抜けの制御が、あきれるほど楽になる。楽しくなるんじゃなくて、ラクになるのだ。
例えば、今まで乗ってた怪物クルーザたちだったら、よく言えばメリハリがあると言うか、追い抜く瞬間に、アクセルをガンと開けて、ドンと出て抜かし、アクセルを戻せばエンブレで減速できる感じだった。ただのすり抜けが、やけに楽しいのだ。
それが、ハヤブサの場合、軽くて細くてパワーがフラットだから、思った時に、見た場所へ、イメージのまま突っ込める。もともとすり抜けは得意な方なのだが、こんなに楽じゃ下手になるんじゃないか? ってな余計な心配をしたくなるほどイージーだ。
ただ、楽だけどつまらない。ま、そのぶん危険が少ないわけだから、悪いことじゃないと思うけど、高速道路でも、国道のすりぬけでも、操ってる感が希薄つーか、シビレないつーか、ワクワクするようなすり抜けは出来ない。
3)曲げてみる。
曲がる。非常に良く曲がる。
納車までの間に、いろんなサイトを読んだんだけど、そこで書かれていたことと、実際に乗ってみたイメージはだいぶん異なる。レプリカのような硬さがない。かと言って高速コーナーで不安があるわけじゃない。またがったときは若干硬いような気がした足が、曲げ始めると驚くほどよく動く。
最近のマシンはみんなこうなのかと驚いたけど、借りて乗って峠を攻める機会のあったYZF-R1(現行の180ps)は、やっぱり昔のレプリカみたいに硬かったから、コレはハヤブサ特有の足のようだ。イメージ的には、スズキと言うよりむしろヤマハっぽい感じ。
俺の持ってる単車の中では、意外とランツァにイチバン似てる。もちろん、フロント突き出してケモノ仕様にする前のランツァだ。二次旋回からぐいぐいと曲がり始め、狙ったラインを綺麗にトレースでき、切れ込むことも逃げることもないフロントは、ものすげぇ安心感がある。
バンク角がないと聞いていて、しかも俺のは10mmほど低くなってるから、果たしてどうだろうと思ったけど、少なくとも今の段階では、不足はない。だらっとバンク角で曲がらないで、二次旋回狙いで早めに開けるように乗っていけば、曲がるし、楽しいし、気持ちいい。
サーキットなんかで、深くバンクさせたままダーっと曲がるようなときは、そりゃ足りないのかもしれないけど、公道の峠道だったら、そんな走り方をするところは少ないと思うから、これはコレでいいんじゃねーかな? ま、あとで不足を感じるようになるのかもしれないけど。
俺の身体が日本人平均を少し下回るので、もう少しだけハンドルを近くしたい気がするのは、M109Rの時と一緒。ま、本来、輸出用に作られてるわけだから、仕方ないと言えば仕方ない。ただ、最初に画策していたようなアップハンドルにはしない。
せっかく峠(やま)が楽しいので、コレをそのままに残したいのだ。
何もしないのが最高なんだろうけど、多分、もう少しだけハンドルを近くすると思う。
4)止めてみる。
止まる。
握った分だけきちんとブレーキが効くし、狙った分だけ減速できる。峠で乗りなれてからってことじゃなく、少し乗ったらすぐにイメージがつかみやすかったから、ブレーキの性能がいいんだろう。車体とのつじつまが合ってる感じがする。
コレで破綻するような走り方だと、きっと他の部分の限界も超えちゃってるはずだから、あんまり長生きできないかも。ま、ブレーキの限界まで攻めるっての自体は、いい悪いはともかく、カッコいい気がしないでもないけど。でもブレーキは丈夫な方がいいよ、絶対。
ブレーキ引きずりながら突っ込んで曲がってみると、これでも充分やれる気がする。が、やっぱり、きちんと減速を終わらせて、とっとと二次旋回に移ったほうが、安心だし、速いと思う。何より、その方がゼッタイ気持ちいい。
かみ仕様シャコタン
リアは40mmほどさがる。フロントは10mmダウンのままだから、必然的に少し上向きの状態になる。光軸がかなり上向きになるから、夜は迷惑かもしれない。いや、さすがにハイビームみたいにはならんけど、光軸はもう少し、何か考えた方がいいか。
スタイル的には、もちろんガンシブ。
ローアンドロングが似合う、唯一のフルカウルマシンじゃないだろうか。ケツ下げしてもデザイン的な破綻がない。まぁ、こういうのは最終的に個人の好みになるわけだが、あえて言わせてもらえれば、このカッコ良さがわからないなら、それは、わからない方に問題がある。
1)またがってみる。
鬼低。
タダでさえ重心が低くて軽く感じるハヤブサなのに、さらに車高が低く、両足べったりなので、ご機嫌に軽い。立ったまま股の下で左右にゆすっても、毛ほども怖くない。転ぶ気がしないし、何でもやれる気がする。もちろん、『するだけ』だけど。
取り回しは、もちろん楽勝。両足でしっかり地べたを蹴れるので、大抵の取り回しを苦もなく出来る。友人の女の子がまたがって、目を輝かせてたから、俺のシャコタン理論は間違ってないはずだ。とにかく、怖くない。これが何よりすばらしい。
2)走ってみる。
街を走り出すと、圧倒的な安定感に、思わずタンクにほおずりしたくなる。
シャコタンにすることで、相対的にハンドルの位置が上がってるハズなんだが、思ったほど感じられないか。でも、準ノーマル状態よりは確実に楽だし、まっすぐが面白い。ビッグスクータとは言わないが、ちょっと戦闘的なポジションのクルーザつー感じだ。
ただ、ドコドコ感とかは薬にしたくても持ち合わせがないので、景色を見ながらゆったり走るってのが、少し退屈かもしれない。でも、RIIIの時も思ったよりのんびり走れたから、これは慣れればやれるだろう。ポジションのキツさも、思ったより早く慣れたし。
バカ開けしなければ、燃費も想定内だった。
高速で120前後くらいをキープできる自制心があれば、リッター20ちかく走る。バカ回しすると、10くれぇか。最初から『こう走る』って決めておかないと、燃費の計算がばかばかしくなるくらい、バラつきがひどい。慣れればもう少し、コントロールできるかもしれない。
が、自分の心もコントロールできない俺には、わりと絶望的。
3)曲げてみる
笑う。も、ゲタゲタ笑う。
峠道のような高荷重状態の走りで、コーナリングしながらフロントが逃げてく感じは、完全にクルーザだ。M109Rでやってたときのように、身体をインに入れて、ケツをシートのイン側カドに、ドカっとあずけて曲がってやると、思わず足を前に出したくなる。
狙ったラインから、タイア一本か二本分くらい外側を通るフロントに遅れて、車体が真ん中を通り、最後にリアがイン側を通る感じは、イメージ的には内輪差だ。アンダーとかオーバーとか、なに言ってんだ、あんた? って感じで言うだけむなしくなる。
内輪差って言う感覚は、クルーザ乗り、あるいはシャコタンハヤブサに乗った人なら、きっと、うなずいてくれるだろう。まぁ、シャコタンハヤブサのユーザーの数に関しては、この際目をつぶる方向で。これから増えるかもしれないしね。
間違っても、バンクさせて曲がろうなんて野心を持ってはいけない。
キッチリ減速して、パーシャルでどっこらしょと曲げてやれば言うことを聞くから、走りの破綻っぷりも楽しむくらいの余裕で走ると、案外楽しい。ノーマルの時みたいに、早めにアクセルを開けると、フロントが外へ逃げてゆくから、試すにしても左コーナーではやらない方がいい。
あと、上はすべて、峠なんかでの話だ。
街中を走る分には、まったく何の問題もなく、普通に走れる。その上、足がべったりだから、全然、怖くない。地面が近いから、曲がるときも小型バイクかクルーザに乗ってる感覚で、近所にタバコを買いに行くとか、下駄代わりの扱いも出来る。やっぱシャコタンさいこー!
4)止まってみる。
別にブレーキ性能までシャコタンなわけじゃないので、当然、止まる。
リアブレーキを多めに使ってクルーザみたいに止まってやれば、問題なく止まる。むしろケツ下がりのせいで、相対的にリアブレーキが効くようになるので、街乗りでは重宝する。交差点をチマチマ走るようなときは、リアだけで走れるくらい。『だけ』は言い過ぎた。
でも、イメージはそんな感じ。
ハヤブサと思わないでクルーザのつもりで乗れば、思うほど違和感はない。
総じて、退屈だと言われている部分は、確かに退屈なマシンだ。
クルマの後ろについて走るなんて、出来ることなら永遠にしたくない。だけど、それ以外のバランスが、驚くほどよくまとまってる。準ノーマル状態のままでも、街乗りがそれほどしんどくないし、峠に行けば、めちゃめちゃ楽しく走れる。逆にシャコタンでも、峠で遊ぶことは出来る。
速く走ると言うより、楽しく走れると言うのが、最も特筆すべき点だと思う。世界最強と鳴り物入りで出てきたわりに、すべての部分がとがってなく、丸い。だが、丸いからつまらないかと言うと、さにあらず。許容範囲が広いから、乗り手の想像力次第で、何でも出来る。
俺のダートとかシャコタンは極端かもしれないけど、最高速アタック以外の部分が、これほど想像力をかきたてられるとは思わなかった。いい意味で、完全に裏切られたと言うか予想外のよさが多かった。いや、てめぇのだって贔屓目を差し引いても、ね。
それと、やめろ、バカだ、おかしいと言われていたシャコタンだが、これもやってよかった。
ノーマルから見れば破綻したと言えるハンドリングは、まさにクルーザそのものだったし、車高を下げることで
、ダート走行まで出来ることがわかった。ニュートラルな特性とあいまって、旅に出てみたいとも思わせる。最高速が単なる付属だと思えるくらい、すべての出来がいい。
コイツは一般的な意味じゃなく、真の意味で、可能性のカタマリだと、俺は言い切る。
単車に、試されてる気がするのは、久しぶりだ。
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