The 94th big machine club

2010.07.19 第94回でっかいもん倶楽部 in 霧降

―リハビリという名の修行(前編)―

 

「ナオミさん、頭痛薬ありますか?」

「あるよ、バファリンでいい?」

「ナオミさん、頭痛薬ありますか?」

「アナタはウコン飲みなさい」

朝っぱらからそんなやり取りのあと、俺たちは痛む頭を抱えながら、単車のそばに立った。

 

コトの起こりは、日曜日の夕方だった。

月曜日にマルと『霧降へツーリングに行こう』つー話になっていたので、早めに風呂へ入り、ストレッチを済ませサイトの更新でもしようかとPCの前に座ったところで、突然、ピンポンが来客を告げる。開けてみると、ドアの前にはRが立っていた。

「この家にカギがかかってるって、珍しくないですか?」

「ナオミが風呂に入ってるから一応な」

珍しいオトコの登場に、『明日ツーリングだから』と酒を控えるつもりだったコトなど、すっかり心の引き出しに仕舞ったかみさん、ビールを引っ張り出してくる。ウチのエアコンは故障中でほとんど効かないので、網戸、扇風機、ビールなどの冷却装備は欠かせないのだ。

「カンパーイ、お疲れちゃん。今日はどうしたよ?」

「実はですねぇ……」

Rと飲んだくれながら話し込んでいるうちに、いつの間にかビールがワインに代わり、俺もRもカッツンカッツン杯を空けてゆく。いや、この時はそんなつもりはなかったのだが、あとで確認したら、かなり飲んでた。んで、いい具合に酔っ払った俺たちは、アチコチに連絡を入れ始め。

気づいたら俺のリハビリツーリングが、わりとアレな人たちで席巻されるコトになる。

「おかしいなぁ……なんでこんなことになったんだろう」(呑みすぎです)

 

頭痛に苛(さいな)まれながら単車を跨ごうとすると、Rが、

「かみさん、CBR乗ってみます?」

「おぉ、乗ってみたい!」

つわけで、高速のインターまで、Rと単車を交換して走ったのだが……

いっやスゲェわCBR。

なんつーかね、すべてのツクリがホンダなんだよ。ギアの入り方もノチッ、ノチッと小気味良く、『誤差のない装置がキチンと噛み合ってる感じ』つーのかな。ちなみに俺のケーロクだと、隙間が多くてがちゃん、がちゃんってカンジね。ヤレてっからね。ほっとけ。

低速トルクもハンパない。

俺のケーロクもSSではトルッ感の強い方だと思うけど、CBRの『どっからでも加速する』感じにはかなり惹かれた。ケーロクより一速上で走れる。柏インターの入り口まで、16号をちょこっとすり抜けただけだが、あまりの乗りやすさと違和感のなさに、正直、かなり欲しくなった。

「CBRすげぇいいなぁ。こんなにいいとは思わなかった。かなり欲しい」

「いいですよねぇ。いや、ケーロクも面白いですけどね」

気ぃ使うなR、俺は泣かないから。

 

ポンコツETCが効かないので、チケットを取って高速に乗り、二台で東北道を目指す。

「ゆっくり行きましょう。時間はあるし、タイアももったいないし」

つーRの言葉に従って、上限200スピード(1スピード=1/2時速)くらいで進む。気力を削られないで走るとなると、このくらいが無理のない速度だろう。二日酔いと、うだるような暑さでヤラれ、ガソリン補給に寄るはずだったSAの、ヒトツ手前のPAに寄る。

「わり、なんか飲まして」

「あ、俺も飲みます。って言うか飛ばしすぎですよ。200行ってるじゃないですか」

「なんだろう。正論なのに聞く気がしない。 」

「いや、みんな勘違いしてますけどね、俺、普段は飛ばさないんですよ。ヤる時だけです」

「それは信じる。ただ問題なのは、君が『飛ばしてない』という速度が俺にとっては……」

「もっと、のんびり行きましょうよ」

俺に『呑みすぎだ』と言われた時のナオミの気持ちが、ちょっとわかった。

つわけで、そこからは150スピードくらいで、のんびりと上河内を目指す。

 

上河内に到着すると、マルのケーロクや、ネットで見覚えのあるゼファーが停まっていた。

マルゾーにアイサツ代わりのバカ話しつつ、ゼファーの乗り手『カミナリさん』の姿が見えなかったので、とりあえずお茶を買いにSAの中へ。出てくると、黒いつなぎを着た優しそうな笑顔のヒトが、Rやマルと歓談している。俺もひょこたんひょこたん近づいてって、まずはごあいさつ。

「こんちわーかみです」

「こんにちわ、カミナリです」

「いやー、キャスタから話を聞いてて、ずっとお会いしたかったんですよ」

 

そこから四人でダベりつつ、「じゅんが来ねぇなぁ」言ってたら、突然、背の高い男が現れた。

「あれ、なにやってんだ、おまえ」

「ちょ、じゅん! いつ来たんだ?」

「二十分くらい前ですかねぇ」

「ぎゃはは、なんで様子うかがってんだよ」

ひと笑いしたら、また五人で駄弁る。

俺とマル、じゅんのケーロク三羽烏は、それぞれの単車の話をしたり。基本的にはもちろん楽しい時間なんだが、ただひとつ、会話の端々でみんなの口から呪文のように出てくる言葉が、「暑ちぃ」。いやホント、気持ち悪くなるくらい暑かった。

ま、俺とRは二日酔いもあったんだろうけど(アナタはむしろ、そっちがメインです)。

 

やがて出発しようと言うことになり、みんなでガソリンを入れて走り出す。

スーパーキチガイ速度ではないけど、250hs(ハーフスピード=1/4時速)上限くらいかな? それなりの速度で一気に矢板まで。フツーにSSについてくるゼファーに大笑いしながら、楽しく走って高速を降りると、そこからマルゾーの先導で、まずは前哨戦の舞台を目指す。

 

下道を、クルマを避けながら走るんだから、基本的にはかったるい。

だが、久々のRや、お初のカミナリさんもさることながら、ケーロクが三台そろって走るのが楽しくて、俺はメットの中でニヤニヤしてしまった。ケーロクの持病と言うかお約束、『エンスト』も、俺とじゅんがそれぞれ一回づつ、やらかしたしね。

峠の入り口でいったん停まり、一服しながらダベリング。

「カミナリさんっておいくつなんですか?」

「今年41ですよ」

「えぇ? じゃ、もしかして44年生まれ?」

「ええ、そうです」

「ぎゃはははっ! 同級生だ」

「そうなんですか?」

「俺もマルも、44年生まれの40歳ですよ」

「カミナリさん、若く見えますねぇ」

「俺は、どう見てもおっさんだけどな」

「にゃはは、ひがむなクソマル」

「ところで、やっぱり『かみさんとマルさんが先頭で走る』のがいいでしょうね」

「俺が先頭ぉ? いや、途中の分岐まで、どんどん行っちゃってよ」

「俺らが先だと、目の前でひどくレヴェルの低い争いを延々と見せられることになるぞ?」

なんつって笑ってたら。

「それじゃ、俺はハンデを貰いますね。まだケーロク三回目だし」

「ちょ、じゅん、ずるいぞ! 待て待てっ! あ、行っちゃった」

ツッコむ暇さえなく、アップハンのケーロクで走りだすじゅん。

そのすぐあとを、ツーリングラーダーの集団が走りぬけていった。「ああ、詰まっちゃったなぁ」と思いつつ、マルゾーに向かって「おめ、早く準備しろよ」つーと、振り向いたマルゾー。ニカっと笑って「おめーはよぉ、いつもそうやって焦るから、ガシャーンやらかすんだよっ!」

とりあえず、ヒトコトもないです。

 

マルゾーを先頭に走り出した。

言ってもこの道は、かつてケーナナでマルのブラバを千切り、『vsマル戦』の記念すべき初勝利を得た峠だ。逆に言えば『初めてマルゾーに勝った場所だから嫌いじゃない』だけで、せまっ苦しくて荒れた路面は、正直、走りやすいとは言えない。いや、はっきりと走りづらい。

ただ、そんな道だから速度レンジは低いので、リハビリとしては悪くないはずだ。

ブラインドが夏草でさらに見えづらく、走りづらくなってる荒道を、マルのケツを突っつきながら走っていると、いろんなことが一気に戻ってくる。ブレーキをナメながらの一時旋回。アクセルオンで意識をリアに向けながらの二次旋回。バンクを少なくして、早めの立ち上がり。

「よし、感覚が戻ってきた」

マルは前より速くなってたが、まだ千切られるほどじゃない。抜くのこそ狭い峠だから難しいけど、インにアウトにノーズを突っ込んでイジワルするくらいは出来る。もっとも、そんな俺のミラーには、余裕どころか退屈してんじゃないだろうかってくらい気軽に、Rのライトがチラチラ写る。

ま、バケモノのことは放っておいて、まずはリハビリに専念だ。

正確に言うと、マルいじめに専念だ。

ツーリングライダーに追いついて道を譲ってもらったり、この道にしては珍しく多いクルマをかわしながら走ってゆくと、心の中の雑味がすうっと消えてゆく。濃い緑の中をエグゾーズトノート(排気音)を響かせながらダチと走り回る楽しさに、思わず笑みがこぼれる。

「にゃははは。マルゾー、四苦八苦してるなぁ」

俺より一速を多用し、一段高いエンジン音で駆け抜けるマルゾーの後ろ姿を眺めながら、長いこと出来なかったケーロクとの対話を楽しむ。OK、OK。ゼンゼン無理してないし、何があっても対処できるだけの余裕を持って走れてるぞ。もう大丈夫だな。

 

やがて道が分かれるちょっと広めのところに、じゅんが停まって待っていた。

そのまま停まらず、身振りでじゅんに道を示したマルが、さっきよりちょっと速度レンジの高い道へ入ってゆく。一回シフトミスしたせいで、加速が追いつかずに少し離れたが、そのあとすぐにリカバリして、マルゾーの背中を追い詰める。やっべ、スゲェ楽しい。こりゃ日塩(もみじライン)が楽しみだ。

と。

道がT字路にぶつかって終わるところで、俺の横にじゅんが突っ込んできた。

要するに『俺とマルをまとめてぶち抜く』ためにすっ飛ばしてきたら、その前に道が終わってしまったのだ。そう言う悪いことを考えているから、罰が当たるんだぞ、じゅん。つーか、カミナリさんの走りも見てみたいから、順番変わってくれねぇかなぁ。くれねぇんだろうなぁ、俺のリハビリだし。

「くっそー、あともう少しあれば抜けたのに」

「ぎゃははは。イジワルすんなよ」

「かみさん、途中まで俺のアップハン乗ってみます?」

「ヤだよ、欲しくなっちゃうから」

 

そこから並んで走り出し、日塩の入り口でいったん休憩。

停まった瞬間、全身から汗が噴き出す。

今日はとにかく、ひたすら暑い

みんなで木陰に移動して、一服しながら少し駄弁る。

「おかしいなぁ、ここはもっと広いはずなんだけど。FDで二速全開ドリフト……」

「じゅん、それゲームの話だろ」

「つーかよ、今日はかみのリハビリじゃねーのかよ。なんで俺の修行になってんだよ」

「いやいやマルくん、キミもずいぶん速くなったと思うよ?」

「くっそ、てめぇ……」

「わはははっ! かみさんスゲェ上から目線だ」

「よし、それじゃひとつマルをぶち抜いてやるか」

「つーかよ、クルマ引っかかったとき、前のヤツが引き離すのはナシな?」

「ち、わかったよ。そのルール飲んでやるよ。つーかさ、おめーのマフラー、クソうるせぇ」

「すげーパンパン言ってますね」

「あれか? ミスファイヤリングシステムなのか?」

「ぎゃははは、すげー、さすが栃木」

ま、マルはエンペラーには入れないだろうけど。

ダチとバカ話して笑う。最高に楽しい時間なんだが、しっかし、クソ暑い。

「飲み物があるところまで行こう」

話が決まって、また走りだす。日塩に入って速度レンジが上がっても、特に怖いことや、違和感を感じることがない。思ったよりも走りを覚えてる身体に満足しつつ、相変わらずマルゾーを突っついて走る。つってる俺も、じゅんに突っつかれたりしてるんだが。

 

梅雨明けの連休だけに、日塩にはずいぶんクルマが走っていた。

それをかわしながら走ってゆくのだが、さすがに数が多くてめんどくさい。最初こそ頑張ってたマルも、段々、抜きどころが来るまで待つようになっていた。「ま、普段クルマの多いところを走ってないから、仕方ないわなぁ」と思いながら走ってると。

ばしゅん!

俺らを一気に抜き去る赤黒のアップハンケーロク。そのすぐ後ろに続いて白黒のCBRが、するするっと抜いてゆく。もちろん、じゅんとRだ。悪魔ふたりが行ってしまったので、マルと俺、それにカミナリさんの中年トリオが第二集団を形成する。第二つーか最終集団だけど。

ここでようやく、俺はミラーに写るカミナリさんの走りを、ちょっとだけ見ることが出来た。

直線ではマシンの差で多少引き離すことがあっても、ちょっとクルマに詰まれば間髪いれずに追いついてくる。その走りは綺麗でアツいし、その速度は俺の知ってるゼファーのそれじゃない。同い年のヤツがそんな走りをしてるのが、もう、うれしくて仕方ない。

「う〜む、これでもちっと空いてれば、カンペキなんだけどなぁ」

まぁ、逆にクルマで詰まることが、うれしくてオーバレブがちの俺を冷ましてくれてるとも言えるか。

 

日塩の真ん中くらいにある、茶屋みたいなところで休憩。

ジュースを買って単車のところまで戻り、木陰で涼みながら話をする。

「Rとじゅん、スパっと行ったな」

「あ、って思ったときは行かれてた」

「へっへー! 俺は『引っかかったら前は行かない』ルール、うなずいてませんからねー」

「かみさん、脚は大丈夫ですか?」

「うん、今んところ大丈夫だよ」

「じゅんさ、ああいうとき、ドコ見てるの?」

「前のクルマのウインドウから、向こうを見てるんです」

「ああ、クルマのウインドウ越しかぁ。右は?」

「木立のスキマ、縁石のR、あと前のクルマの挙動です。対向が来れば寄りますから」

「最悪、隙間は必ず出来ますよ。わざわざ挟もうとするやつはいませんから」

「なるほどー」

「つーか、カミナリさんのゼファーおかしいよ。俺の知ってるゼファーじゃない」

「キャスタ君の方が、速いですよ」

今日はカミナリさんと言う初めての方がいたので、俺とマルの得意技『ののしりあい』で、笑いを取りながら仲良くなってゆこうと考えていたのだが、カミナリさんは穏やかな笑みを浮かべて、俺やマルみたいにでしゃばって騒ぐことがない。精神的には確実に、俺らの数倍オトナだ。

年齢が同じなことも手伝って、この辺でもう、ゼンゼン普通に会話してた。

「こんな風にみんなと走ると、いろいろ勉強になるなぁ」

「ひとりじゃどうしても、限界がありますからねぇ」

「いや、いや。今日はマル君、頑張ってるよ。みんなは退屈してるみたいだけど」

「うるせー! これ以上へこますなっ!」

「でた、上から目線」

「ははははっ」

 

「カミナリさん、じゅんのアップハン、またがりました?」

「またがらせてもらいました。もう少し高ければ、俺も行けそうですね」

「マルさん、またがってみます?」

「どれどれ……う〜ん、これだとまた、走り方がわかんなくなりそうだ」

「ま、カスタムするよりウデを磨かないとね、マル君」

「わかってるっつの。やかましんだ、おめーは」

 

「暑いなぁ。やる気が萎えますねぇ」

「このあと、霧降だよ。そんで赤城……は遠いなぁ」

「俺は霧降を走ったら、宇都宮でギョーザを買って帰ります」

「赤城、行きたいなぁ」

「なはは、R先生、すっかり無気力になっちゃってる」

「それじゃマルくん、ヒトツみんなの目の覚めるような走りを……」

「あー! うるせー!」

さて、それじゃこんだぁ、日塩を下ろう。

 

俺が前、マルが後ろで走りだし、しばらく走るうちにマルの姿がミラーから消える。

「へへん、どんなもんだいっ!」

ご機嫌ですっ飛ばしてっと、後ろからエグゾーストが聞こえてきた。ミラーを見れば、顔はケーロクだがマルではない。購入順番で言うと、ぁゃちゃん、俺、マル、ムラタに続く五人目のケーロク乗りにして最速のケーロク乗り、じゅん様だ。

赤黒のカウルとアップハンが、ミラーにくっきり写ってる。

「つーかやけに姿がよく見えるなぁ……ああ、そうか。アップハンだからだ」

じゅんは背が高くて手が長いので、フツーに乗ってても上体が俺らより起き気味になるのに、さらにアップハンにしてるもんだから、えらい勢いで上半身が立ち上がってるのだ。俺やマルみたいなチビが乗ったケーロクと比べると、同じ単車のはずなのに、別の単車に見えるくらい。

「ははは、なんかすげーニョロニョロっぽいぞ、じゅん」

失礼なことを考えて笑ったら、ちょっと肩のチカラが抜けた。

ちなみにニョロニョロ。

これがバイクに乗ってる絵を想像しちゃったんだから、そりゃチカラも抜けるつー話だ。

しかし、チカラが抜けたからといって、状況が変わるわけじゃない。

さっきまで俺がやってたことをそのまま、今度は俺がやり返されるのである。まさに今回のリハビリツーリングは、リハビリという意味では最大の山場を迎えたわけで。じゅん先生の得意ワザ(?)、ベタづけプレッシャーにひぃひぃ言いながら、日塩の下りを駆け下りる。

それでもビビって固くなったりはしてないので、キチンとアクセルオンで走れる。

コーナリングでベタ付けされて、直線でアオられて。

「くっそ、じゅんのヤツ、抜く気がねぇな。イジメて遊ぶ気だ」

苦笑いしながら、それでもイキ過ぎずに余裕を持って走ることができた。「まぁ、全力走行したって離せる相手じゃないし、それなら走りを見てもらって、あとで感想を言ってもらおう」という、非常に建設的な、もしくは単にヘタレな発想があったのである。

日塩後半、いいだけ突っつかれながら、楽しく走りきった。

 

後半へ続く

 

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