The 94th big machine club

2010.07.19 第94回でっかいもん倶楽部 in 霧降

―リハビリという名の修行(後編)―

前編はこちら

 

料金所でお金を払ったら、さぁ、今度は霧降高原だ。

霧降までの道を、マルゾーが先導しながら走る。クルマを抜くのがメンドウだったりするが、大渋滞ってわけじゃない。マルゾーも、普段はあんまりやらないすり抜けを頑張って先導してゆく。やがて、霧降への入り口を左折したあたりから、クルマの数が減り、道もいい具合になってきた。

マルのケーロクのエグゾーストが高まり、気合が乗ってきたのを感じる。

今にして思えば、気合は気合でも、ちょっと違う気合だったのだが。

「さぁ、じゅんにいじめられた分、マルゾーに仕返しだ」

こっちも気合を入れて走り出し、マルゾーのケツにつける。しばらく様子を見ながら、抜きどころを探していたらクルマに引っかかった。ありゃ、このタイミングだとマルゾーしか抜けないじゃんか。それじゃ、とりあえずこのクルマをパスしてから、あらためてどっかで勝負を……

 

ォォォォォォオオオオオオン!

 

「ずるいぞ、マルゾー!」

マルのヤロウ、てめぇで散々「クルマに引っかかった時に行くのはナシ」言ってたくせに、自分が抜けて俺だけが引っかかったのを確認した瞬間、思いっきりアクセル開けてすっ飛んでいきやがった。『尻に帆をかけ』とか、『脱兎のごとく』てな表現そのままの、見事なまでの遁走っぷり。

「くくく……あんのヤロー」

マルの背中に苦笑を浴びせながら、次のカーヴでクルマをパスし、追撃開始だ。

とは言えRに教わったりして学んだ俺は、イキナリアクセル全開で追ったりはしない。全ての場所でマルより速く走るコトに集中すれば、霧降に着く前に追いつくことができるだろう。リスキーなブレーキでつめることはせず、とにかく早く車体を起こして早く加速に入ることを心がける。

程なくマルの背中が見えた。

あわてるな、あわてるな。いつも、ここであわててバカ開けするから、次のブレーキとコーナリングでつんのめるんだ。マルを見るな、自分の走りに集中しろ。追いつくことを信じて、今のリズムをキープするんだ。思ったよりオチてないから大丈夫。必ず追いつける。

比較的冷静にそんなことを考えながら走り、やがてマルに追いついた。

「ひゃははは。コレでまた、マルをいじめる材料ができたぜ」

マルとランデブーしながらそんな風に笑ってると、やがて視界が開け、霧降高原に到着した。

 

霧降高原の大笹牧場は、えらい人出だった。

あまりの暑さと人の多さに、ちょっとココロ萎えはじめる面々。

「暑いなぁ。とりあえずジュースでも飲むか」

「だったら牛乳飲みましょうよ」

「いいねぇ、それ魅力」

みんなで高原の冷たい牛乳でのどを潤し、さて、飯はどうしようか。

「食わなくてもいい感じですかねぇ」

「そうですねぇ」

なんとなくダルダルしながら、単車の元に行ってダベる。しかし、それまで暑さと頭痛と妙な体調の悪さを訴えて(ま、俺も二日酔いでしんどかったんだが)元気のなかったRが、ここで急に「飯を食おう」と言い出した。みんなで中に入って、焼肉やジンギスカンを喰うことにする。

マルとカミナリさんとRが牛肉を食って、俺とじゅんがジンギスカンを食った。

結構おいしかったけど、それよりもやたら牛乳が美味かった。

 

んで、みんなで肉を焼きながら色んな話をしてるうち。

「俺の周りって、同い年くらいで走ってるヤツが少ないんですよ。上とか下は結構いたりするんですけどね。だから、今日は楽しいです」

カミナリさんの口からそんなセリフが出た瞬間、俺はやけに嬉しくなってニヤリとしてしまった。つーか、この段階で『今日のリハビリは達成された』と言っていいだろう。走りもそうだけど、楽しいオトコと出会えて、彼が俺らと走ることを「楽しい」と言ってくれたことで、「かみ復活」は成ったのだ。

あと何年でも、生きてる間はずっと走ってゆけるよ。

 

飯を食い終わったRと俺が、Rは汚れたカウルを拭きに、俺はタバコを吸いに立ち上がる。

「足は大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。正直、もっとシンドいかと思ったけど。むしろ二日酔いのがきついな」

「俺もなんか、体調が悪いです」

「あの白ワインが悪かった」(悪いのは自分です)

暑さと満腹で完璧にスイッチが切れ、まったりモード全開で草の上に寝転がった俺は、地図を引っ張り出して眺めたり、Rがカウルを拭いてるのを見ながら、タバコに火をつける。この段階で、俺のアタマの中から『赤城山へ行く』という選択肢が消えた。

「つーか、CBRいいなぁ。すんげぇカッチリしてるよ」

「面白みには欠けるかもしれませんけど、機械として見たら、ホンダはいいですよね」

「いいねぇ。まぁ、俺は当分ケーロクだけど、次はCBRもいいかも」

Rとのんびりダベっていると、喰い終わったみんながやってくる。そこでダラダラしながら、バイクの話やこの先のルート、今日は来てない連中の話をした。とりあえず、じゅんがやたらと赤城山や群馬周辺に行きたがってるので、そのガッツを打ち砕かなきゃならない。

「マルゾー、赤城行くんけ? 俺は行かないぞ」

「う〜ん、絶対混んでるだろうしなぁ」

「え〜行きましょうよ。赤城山、走ってみたいですよ」

「俺は宇都宮から高速で帰ります。もともと途中離脱のつもりだったんで」

「俺は何でもいいですよ」

「バッカ、じゅん。おめ、赤城ぁすんげぇ遠いぞ? 混むし」

「じゃあ、筑波山は?」

「じゅん、おまえ距離とか方向とか全然わかってないだろ?」

「遠いんですか?」

「ここらは地図の高さで言ったら、ビーフラインの終わり、高萩あたりと一緒だよ」

「結構、北にきてるんですねぇ」

なんか、じゅんの無邪気さがカワイくなってきて、ここらで俺の心の方が折れた。

「あー、わかったよ。マルちゃん、俺も赤城山まで付き合うよ」

「俺、行くとか言ってねーンだけど」

「ちょっと、トイレ行ってきます」

カミナリさんが席をはずしてしばらくすると、マルゾーが鼻をひくつかせてクンクンしながら(雨の匂いを嗅いでいるんだろう。栃木県民ならみんな出来る)、「これで風が吹いてきたら、一気に降って来るだろうな」とつぶやく。すると、風さえ吹く間もなく、イキナリ暗雲がたちこめ。

予言どおり、ざんざん降って来た。さすが野生児。

取るものもとりあえず、焼肉屋のオモテのテーブル(屋根つき)まで避難した俺たちは、ちょっとガッカリしながらも、雨のおかげで気温がさがったのにホっとする。いや、冗談抜きでさっきまでは、全員、軽く熱中症気味だったのだ。

「霧降、まだ走ってないのに残念だなぁ」

「でーじょーぶだ。雨が上がったらすぐに乾くよ」

「じゅんは雨が降るとダメなんだよな」

「そんなことないですよ」

「じゃあ、攻めるんだな?」

「ヤです」

バカ話して笑ってると、トイレに行きたくなったので、マルゾーに場所を聞いて歩き出した。ところが、トイレが結構遠くにあるので、歩いていくうちにちょっと脚が痛くなってくる。「ありゃぁ、ヤバいかな。でもまぁ、じゅんも雨で心が折れたみたいだし、赤城行きはなくなったな」

 

トイレを済ませて帰ってくると、じゅんとマルが笑ってる。

「かみさん、かみさん。ほら、あそこ」

「ん? なに?」

「トイレ、すぐそこにあったのに。レストランにトイレは基本じゃないですか」

「がはは、バーカ」

「チクショー、おめーら……ってはい? あ、ああそうですか。すいません」

オモテなので油断してたら、「ここは禁煙です」と店のヒトに怒られた。

「マルゾー、タバコ出すな。ここは禁煙だってよ」

「じゅんは吸ってるじゃん」

「もう、消しましたよ、ほら……『バキっ!』……うわ!」

ナナメに座ってたじゅんのイスの脚が曲がった。

「あー! 壊したー!」

「壊れたんですよ。事故です、事故」

まるっきしガキの会話だが、そんなのがヤケに楽しい。

やがて雨が小降りになってきた。なのでタバコを吸いたい俺は、単車のそばまで歩いてゆくと、一本火をつけて吸い込む。そのうち降ってるか降ってないかわからないくらいになり、みんな単車のそばまで降りてきて、単車を囲みながらダベる。

牧場の牛も、雨でひと息ついたカンジだ。

 

「カミナリさんのタイヤは、横まで溝があるから、雨でもフルバンクできるんですよね」

「ははは、カンベンしてくださいよ。レインタイヤじゃないんですから」

「あ、アンダーブラケットのドクロがイッコ減ってる」

「軽量化です」

「はははっ! ドクロ一個分ですか?」

「カウルのネジもプラスティックにしたら、ハンドリングが軽くなりましたよ」

「ははははっ! それはないでしょう」

「ホントですって。ネジ全部集めて持ったら、結構重かったですし」

「ああ、カミナリさんも俺と同じで、ココロが弱いヒトなんだね。メンタルが弱すぎる」

「ははははっ」

 

「じゅんはウエットでも攻めるんだよな?」

「カンベンしてください。滑って横向いたまま、牧場に突っ込む自信があります」

「カミナリさん、SSには興味ないんですか」

「ほらきた、カミナリさん話聞いちゃダメだ! って俺の話を聞いてないじゃん!」

「お、岩がもう乾いてるぞ」

「おー! 道も乾いてる! すげー!」

バカな単車乗りが集まって、バカな話を始めたら、時間なんぞいくらあっても足りゃしない。

「雨の匂いがする、そろそろ出るか」

なんなんだ、お前の鼻は。

 

結局、赤城行きは中止して、霧降を降りたところから高速に乗って帰ることになった。

「かみさん先頭で行ってください」

「あいよー」

「道も乾いてるし、まいっか」と気楽に引き受けて、霧降高原道路を走り出す。

カンカン照りで熱を持っていたアスファルトは、雨がやむなりすっかり乾いてしまった。俺は気分よく走りながら、タイアが路面を喰う感触を楽しみつつも、すぐ後ろにRが走ってるので、「あんましヌルいところは見せられないぞ」と、クルマをかわしながら気合を入れ始める。

「おー、すっかり乾いてるなぁ。んじゃヒトツ、バシっと気の効いた走りを……ぬぁ!」

イキナリ、路面がぬれてる部分に出っくわし、肝っ玉を縮めるかみさん40歳。

それでも乾いたところにタイアを乗せようと四苦八苦してると、やがて全面が濡れはじめた。高原の上の方は、イッコも乾いてなかったのだ。前を走るクルマのタイアがしぶきを上げてる絵を見て、かみさん、カンペキに意気消沈。やる気メーターが見る見る減ってゆく。

こうなったら、もう、『Rにイイトコ見せよう』とかの話じゃない。

早々にヘタレた俺の走りを見て、あきらめたのだろう。いつの間にか後ろに来ていたじゅんが、俺をスパッとかわしてゆき、続くRも片手を挙げて抜いてゆく。俺はマル、カミナリさんと団子で走りつつ、ちまちまとクルマを抜いたり、ウエットにビビッて抜けなかったり。

 

ちょっと下ったところで、Rとじゅんが工事信号に捕まっていた。

俺がもう、前に出る気がないのを察したRは、ここでターゲットをカミナリさんに変更する。

「カミナリさん、前を走ってください」

うなずいたカミナリさんは、信号が青になると同時に、先頭に立って走り出した。そこにRとじゅんが続き、俺とマルはヘタレて後方をちんたら走る。すると、コーナーいくつかでカミナリさんたちに消されてしまった。マシンの性能だけで前を行ってたことが、如実に露呈してしまったわけだ。

「カミナリさん、やるなぁ」

同い年のカミナリさんが速い事が嬉しいような、己のへたくそさが悲しいような。

複雑な気持ちで、すっかり消されてしまった背中を追いながら、峠道を下ってゆく。ちょっとしたソロツーリングで下るうち、もう、クルマに引っかかっても、なかなか抜く気持ちが出てこない始末。そこでマルゾーが追いついてきて、あとはふたりでゆっくり走った。

峠を下った先の信号で、待ってたRたちに追いつき、そこからガソリンスタンドへ。

「みんな同じところでガソリン入れてるから、燃費がわかりますね」

「マルは一速でぶん回してたから、イチバン悪いだろう」

「うっせーな、いいんだよ。一速で加速すると気持ちいいんだから」

「ま、それはわかるけどな」

燃費比べをして笑ったりしつつ、全員給油がすんだら、後は高速に乗って帰るだけ。

 

日光宇都宮道路に乗って最初のパーキングへ入り、そこで最後のダベリングだ。

山の下まで下ってくると、やっぱりクソ暑い、キチガイ天気。

「かみさん、かみさん。シュールなカンバンがありますよ」

「ぎゃはははっ! これはヒデぇ。つーか悪いのはこの運転手だよな」

アホなカンバンに大笑いしたら、ジュースを持って休憩場所っぽいところへ行き、木陰に入ってお茶を飲みながら、みんなで気の向くまま、まったりと色んな話をした。

「やー、今日はリハビリに付き合ってもらっちゃって、ホントありがとう。楽しかったよ」

「いや、こちらこそ楽しかったです」

「かみさん、全然フツーに走れてましたね」

「楽しかったです。ありがとうございました」

「おめーのリハビリつーか、俺の修行だったけどな。でも、みんなと走ると、すげぇ楽しい」

「つーか遠いんだよ、栃木はよ」

「だから、普段はそっちに行けねーんだよ。ここから行くと、どこも遠いんだ」

「ははは、次は伊豆ですね」

「い、伊豆かぁ……伊豆は遠いんだよなぁ」

「海老名までですでに、ちょっとしたツーリングだもんな」

「でも、今回は『皆さんに遠くまで来てもらっちゃった』からなぁ」

 

「あ、覆面だ」

「ナンバー○○○○じゃね?」

「いや、ナンバーまでは見えませんけど」

「な、なんでわかるんですか?」

「だって、コッチは覆面なんて一台くらいしか走ってねーもん」

「ぎゃはははっ! ホントかよ」

「白バイなんか、いねーんだぞ」

バカ話は終わらない。

 

「じゅん、若い連中に結婚を勧めてるらしいじゃねーか」

「結婚はいいですよー」

「隣のヤツは、そうは思ってないけどな」

「結婚したら大変だぞー。これからわかるよ、きっと」

「そうですか?」

「子供できたら、『私が乗れないのに、あなただけ乗るの?』言われんぞ」

「そ、そしたらサーキットに連れて行きます」

「出かけるの大変なんだぞー」

「いいか、実はカミナリさんだって、さっき密かに嫁さんへの土産を買ってたんだからな」

「ははは……」

「ははは、密かに買ってるのに、バラしちゃだめじゃないですか」

 

時間的にはちょっと早めだけど、みんな暑さでやられてるので、この辺が潮時だ。

「それじゃ、帰りますか」

誰かが言って、全員が立ち上がったところで。本日のCrazy Marmalade でっかいもん倶楽部は、その幕を閉じることとなった。俺のリハビリだってんで、マルとふたりでちんたら走るつもりが、いつの間にか、最速のオトコや最速のケーロク乗り、すばらしきゼファー使いまで集まって。

えらい楽しいツーリングになった。

最後の方で脚の重さはちょっと感じたけど、ぜも、そんなの全然気にならないくらい、笑って走った、ステキツーリングだったよ。俺のせい(と太陽のせい)で、距離的にはそんなに走れなかったけど、ま、栃木まで来るだけでちょっとしたツーリングだし、そこはカンベンしてもらおうかな。

「今日は、ありがとうございました」

「楽しかったです。また行きましょう」

「今度はナリさんも来れれば、かみさんと、ナリさんと、カミナリさんで面白いですね」

「んじゃな」

 

挨拶をしてそれぞれ走り出してバラけ、途中で覆面を見つけてゆっくり走ったりしつつ、東北道に合流。東北道があまりにも混んでいたので、俺は途中の北関東道の分岐で、ホーンを鳴らしてみんなに別れを告げ(気づいたのはじゅんだけだったけど)、がらがらの北関東道を走りだす。

途中で、すっ飛ばしてるベンツを見つけて遊んだりしながら。

気持ちよく走れたこと。

楽しい連中と話したこと。

みんなで大笑いしたこと。

思い出してかみ締め、ニヤニヤしながら走り続けた。

みんな、楽しい時間を本当にありがとう!

帰ってきて、ちょっとケツが痛かったけど、脚の方はもう大丈夫。

また楽しいツーリングをしようぜ!

 

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