The 88th big machine club

2009.12.06 第88回 でっかいもん倶楽部 in 伊豆箱根

―スカイライン・スカイライン(前編)―

 

本作品は、写真こそ実際のツーリング写真ですが、レポートの文章そのものは、創作小説サイト【神々】の作品であり、ツーリングの内容および登場人物の詳細などは、すべてフィクションです。実際の公道では安全運転を心がけましょう。

なお、本当のツーリング内容に関しましては、別サイト「かみの全国温泉めぐり」や、「かみの旨いもの探訪」をご覧ください。ナウなヤングのハートをガッチリとキャッチする、ステキな観光情報が満載です

 

前日から親の敵(かたき)のように降り続けた雨もやみ、一転、空は快晴。

とは言え季節は冬だ。降った雨がそう簡単に乾くはずもなく、「今日は路面が濡れてるだろうなぁ。まともに走れるのかなぁ」と、心に立ち込める暗雲をなんども振り払いながら午前六時、ぐっしょりと濡れたケーロクを引っ張り出し、同じく濡れた路面をぼんやりと走り出す。

柏から高速に乗り、常磐、首都高、東名と流して走ってると。

海老名の手前数十キロのところで、白いバイクが走ってるのを見つけた。ヘルメットの中でにやりと笑う、かみさん40歳。いや、白いバイクと言ってももちろん警察ではなく、前日、新車を買って雨の中を大阪から帰ってきた、しんごのニューマシン、デイトナ675だったのだ。

「おぉ、白青のデイトナか。キレーだな、やっぱ」

こちらに気づいたしんごに軽く手を上げ、そのまま一緒に海老名まで向かう。

速度を出さないところを見ると、どうやら慣らしは終わってないようだ。もっとも、大阪からなら500キロくらいしか走ってないはずで、それも当然と言えば当然。「路面がウエットだから、攻められるはずもない。だったらデイトナで行って慣らしを終わらせよう」と言う腹づもりなのだろう。

バカだなぁ。あのメンツで飛ばさないわけないじゃないか。

 

海老名に着くとすでに、アンダーライン君とミサイル君が到着していた。

赤いのがアンダー君のT‐MAXで、青いのがミサイル君のニンジャ。

二人に手を上げてアイサツしつつ、先にスタンドで給油を済ませた。それから合流して、バカ話をしつつ後続を待つ。程なくスタンドでサス調整していたRの友達、ラトビア人のアオス君も合流する。やがて、じゅんのR750、ナリさんのケーハチ、次々集まってきた。

さらに『今日はお見送りだけ』のなっこもやってくる。

左からアンダーライン君、ミサイル君、しんご、奥がナリさんで手前のダウンジャケットがじゅん。んで、画面から逃げるように写ってるのが、入院中のCBRの代わりに、代車のFTRでお見送りに来た、なっこ。アオス君は俺の後ろに居るのかな。みんなでしゃべってると、最後にRもやってきた。

 

しんごのデイトナ。色使いとか細部の造詣がすごく綺麗だ。やるじゃん、トライアンフ。

 

初めてのスカスカを思い出しながら、しばらく色んな話に花を咲かせつつ、最後の参加者マーちゃんが来るのを待つ。あのころ俺はハヤブサに乗っていて、某所で鮮烈な経験をしたあと、Rとふたりで伊豆箱根を走ってイロイロ教えてもらい、満を持してスカスカに参加した。

そしてそこで、強烈な体験と喜びを手にしたのだ。

アレから一年半以上たった現在、イロイロ乗り換え紆余曲折しながらも、ついに「相棒」と呼べる単車、ケーロクにめぐり合えた俺は、果たして自分で思うほど成長しているのだろうか? 単純なツーリングの楽しさのほかに、俺にはそんな楽しみ(ドキドキ)もあったりしたのである。

左からナリさん、ミサイル君、アンダー君、なっこ、しんご、R、アオス君。

結局、マーちゃんは来られなかったので、これに俺と、写ってないけどじゅんを加え、お見送りのなっこを差し引いた八人が、今日のフルメンバー。アンダー君とは初めて走るのだが、彼は元からRの友人だし、アオス君もこないだ走ったときはおとなしい印象だったけど、危なげない走り。

そして残りはRを筆頭に前回のスカスカメンバーであり、さんざ一緒に走って、俺が一度は(場合によっては何度も)コテンパンに伸(の)されたことのある連中だ。どう考えても、楽しいツーリングにならないわけがない。唯一の不安要素は路面くらいのもんだ。

もっとも、天気もアホほど晴れてきてたから、午後にはそんな不満もなくなるだろう。

 

やがて、じゅんを先頭に、若干ウエットな東名高速を走りだす。

じゅんと走るのは久しぶりだから、うれしい反面、

「ウエットだし、じゅんはレースタイアだけど……きっと関係ないんだろうなぁ」

と思ってたのだが、さすがにウエット路面だけあって抑えて走ってくれたため、このメンツお決まりの鬼アタックにはならなかった。しんごが慣らしだったのも大きな要因だろう。ヤツが1000ならぜってー飛ばすから、釣られてナリさんとじゅんがすっ飛んでいく、つー構図が目に見えるようだもの。

んで、俺はポツンとひとり旅ね。ほっとけ。

Rがアオス君たちを待って前に出てこなかったので、ここではじゅん、俺、ナリさん、ミサイル君が先頭集団を作る。御殿場目指して200超えくらいで走るうち、事件は起こる。じゅんはマフラーをアクラポヴィッチに交換して、音が静かになっていたのだが、ココで早速、そのネガな面が出た 。

俺とナリさんのステキな排気音に道を譲ったクルマが、じゅんをひっかけそうになったのだ。

先頭を走るじゅんのアクラが静か過ぎた(本人談)ので、存在に気づかなかったのだろう。もっとも、すり抜けやる連中はその辺を計算に入れて走ってるので、急激な針路変更にも余裕を持って対処できる。イキナリ近寄ってきたクルマをあっさりよけて、何事もなかったかのように走るじゅん。

一瞬、「あっ」っと思った俺は、「さすが」と安心してヤツの後に続いた。そしてもちろん、俺のミラーにはナリさんのライトが「いじめですか?」ってくらい大写しだし、後で聞いたらミサイル君もニンジャをよじらせながら、ぶっ飛ばしてついてきてたらしい。

ホント、楽しい連中だぜ。

 

東名を降りてほどなく。

じゅんが長尾峠に向かう途中の、ドライブインみたいなところに入った。「ここで後続を待つのか」と思いながら、ケーロクを駐車場に入れようとしたとき、俺の目の前に豪奢な景色が飛び込んでくる。思わずヘルメットの中で「うぉー! キレー!」と叫んでしまった。

目の前には、霊峰富士がその勇姿を見せる。

 

晴天の下、わが国を象徴する霊峰の姿に、ほかの事を忘れてしばらく魅入る。

 

みんなで富士の写真を撮ったりしながら、後続を待ちつつダベる。

「なぁ、かみ。なっこ、見送りだけじゃなくてココまで来ちゃうかもなぁ」

「いやナリさん、さすがにそれはないですよ。いくらアイツがおバカだつっても」

「来たらおもしろいんだけどなぁ」

「でもアイツ、代車のFTRでしたからね。濡れた長尾峠なんて最速かもしれませんよ」

なんて言いながら笑っていると。

あっさりやってきた、おバカな妹。

大爆笑の中、ナリさんが「さすがっ! 漢(おとこ)だなぁ」と声を上げる。

すまん、なっこ。

「いや、女の子です」と言い切れなかった兄を許せ。

 

少し休憩をとった後、『仕事があるのでさすがにここでお別れ』のなっこに見送られつつ、俺たちは最初のワインディングである、長尾峠に向かって走りだした。箱根を目指して国道を折れると、長尾峠はたっぷりと濡れた路面で俺たちを待っていた。

先頭のじゅんがペースを作ってくれるので、「おっしゃー! 走るぜー!」と逸(はや)ってるうっかりかみさんも、さすがにイキナリすっ転ぶこともなく。濡れた路面を、充分にマージンを取って走りながら、それでも時々リアが滑ったりしてたから、俺が先頭なら飛んでたかもね。

てなわけで無事、長尾を走りきることが出来た。

箱根スカイライン入り口……だったと思う。

 

RのCBR、しんごのデイトナ、アオス君の10R。

トイレ休憩をしたり軽くダベったりしたら、さぁ、箱スカ〜芦スカ〜伊豆スカをつないで走ろうか。

つっても走り始めてみれば、やっぱりそこそこウエットの箱根スカイライン。オマケに霧まで出てきた。仕方ないので、「レースタイアのじゅんが行けるなら、俺も行けるだろう」と言う、非情に論理的な根拠の元、ブレーキを直線で終わらせてから、なるべく穏やかに曲がる。

もちろん、本来の俺の走り方とは遠いので、「気持ちいい!」って曲がれるわけじゃない。

それでも久しぶりにみんなと走るのが楽しくて、ウエットに凹まされ気味だったテンションが、だんだん上がってくる。もっとも、じゅんが前で抑え目に走りながらペースを作ってくれてるので、暴走転倒するほどじゃない。遅れても、直線で何とか追いつけるだろうってアタマがあるから、気も楽だ。

まさに1000cc様々ってなトコロか。

 

「くっそ、これで路面がドライだったら最高なんだけどなぁ」

楽しい中にそんな悔しさも感じつつ、箱スカから芦スカに入る。

走り出して二つ三つ目くらいの登りの左だったか、もやもやっと白いものが目の前にあふれ出したと思ったら、俺たちはそのまま、真っ白な濃い霧のスープの中に飛び込むハメになった。とにかく前を走るクルマをパスしようにも、先が見えないのでかなりめんどくさい。

先頭のじゅんが、よく見えない前を探るために、伸び上がったりアタマを低くしてみたり、色んな格好で乗っている。一番しんどい前を行かせておいて申し訳ないんだが、その動いてるサマが、なにやら単車の上で踊ってるように見えるもんだから、思わず笑ってしまった。

笑うと身体の力が抜けて、リラックスできるから楽しく走れる→笑う→リラックスのいい循環。

視界の悪さや、それをものともしないペースの割には、まったくと言っていいほど、怖くなく走れる。もっとも、時々現れるウエット路面で神経を使うし、ペースとしてもみんな全開走行とは程遠いから、そう言う意味でのストレスは、全員にあったのだろうが。

 

芦スカを走りきり、一般道を走って伊豆スカへ向かう。

その一般道がソコソコ乾いてて、これが結構たのしい。伊豆スカへの期待感が高まってくる。サクサク走り抜けて伊豆スカイラインへ着くと、じゅんが「つなぎの道がイチバン楽しいってなんだよー!」と笑った。なはは、やっぱ同じ気持ちだったんだと、俺も思わず笑ってしまう。

200円上限キャンペーン中の料金をまとめて払ったら、今度は伊豆スカ。

確か、じゅん、R、俺、ナリさん、ミサイル君……ってな順番だったと思う。それ以降は見る余裕がなかったのでわからない。こないだのランチ以来のRの背中に、「そうそう、あんな風にリラックスして楽しく乗らなくちゃ」と、改めて思わされる。楽しくなけりゃ、単車乗る意味がないからね。

もっとも、楽しんで乗ってるったって、Rとじゅんだ。

本来なら相当頑張らなきゃ、あっという間に姿が見えなくなる。だが、時々現れるウエット路面や行き先を阻むクルマのお陰で、とりあえず姿を見失わなくてすんだので、ちょっと嬉しかった。それに後ろを走るナリさんとのランデブー走行が、これまた楽しくして仕方ない。

厳しくも楽しいライディングを満喫しているうちに、亀石に到着。

速度そのものは、速いとは言えRやじゅんとしては抑え目だから、それほど疲れなかった。

だが、ウエット路面とドライ路面が混在していたので、やたら神経を使い、そっちで疲れてしまった。全部濡れてればペースも変わらないんだろうが、ちょこっとでもドライなラインがあれば、そこにタイアを乗っけてアクセルを開けないと置いていかれるからね。

ここらですっかり、汗をかくほど暖まった。

しんご、アオス君、アンダーライン君チーム。

今回はとにかく、しんごが停まる度に悔しそうにしているのが、俺的に面白かった。本人いわく、「何回、『もう慣らしなんかやめちゃおうか』と思ったかわかりませんよ。そのたびに、右手を押さえるのに苦労しました」だそうだ。ま、R1000で来なかった自分が悪い。

しんごとアオス君。アオス君はオトナシメの人で、日本語は結構通じる。

 

芦スカの濃霧からは想像もつかないほど、天気は極上のピーカン。

なのに路面がところどころ濡れてるってのは、なかなかストレスだ。と、Rが「この先の温泉に浸かって昼飯を食って、午後、路面が乾いてからもう一度走りませんか?」と言う珍しい提案をした。いや、Rは結構、温泉ツーリング行ってるみたいだから、ヤツが言い出したことが珍しいわけじゃない。

珍しいのは『俺にとって』と言う意味だ。

自慢じゃないが、俺は走るオンリーなツーリングばっかりで、温泉ツーリングなんてほとんどしたことがない。思い出せる限りで、ミチル君と初めて走ったときくらいか。なので逆に「温泉行ってみたいな」と興味が出てきた。Rに「行こう、行こう」と二つ返事でうなずき。

なんと、このメンツでの温泉ツーリングが決定。

つわけで我々は亀石を出ると、伊豆スカの終点までRの先導で走り出した。

 

ま、何度も書いたが、もう一度書いておこう。

今日は路面が乾いてたり濡れてたりしている。

伊豆スカもこの辺になれば、八割がたは乾いてるんだが、逆に言えば二割は濡れているのだ。俺は「コンディションの悪い峠も嫌いじゃない」とよく言うが、それはあくまで低速レンジの林道チックな峠道の話で、伊豆スカクラスの高速レンジともなれば、話はだいぶん変わってくる。

案の定、Rの後ろで走り出してほどなく、

「う〜んと、おかしいなぁ。Rのタイアより俺のタイアの方が、ウエットには強いハズなんだけどなぁ」

首をかしげる展開になってきた。ま、そうは言ってもRが無謀とかそういう話では、もちろんない。単純に、コルサスリーだろうが2CTだろうが、俺が思ってるよりずっとウエットグリップがあるってことだ。話が迂遠 (うえん)か? ま、平たく言うと、ウエットにビビッて、俺が開けられてねーんだ。

自分でも悔しいんだから、言わせるな。

それでも、なんとか姿を見失わずに走れた。途中でクルマに引っかかることが多かったとか、Rが本気で走ってないつーのは置いとくとして、じゅんの時と違って直線でのアドバンテージがない分、ひとコーナーごとにじわじわ離されはするんだけど、それに焦らないで走れたのがよかったんだろう。

今までなら焦って追いつこうと直線でガバ開けし、次のコーナーのアプローチでビビってしまってリズムを崩し、結果的に千切られてたからね。それと、ケーロクに乗り換えてからこっち、走るときはいつも『よりスムーズに』ってのを心がけてきたのも効いてるのかな。

スムーズを心がけるってのが、滑りやすい路面と相性がいいんだろう。

伊豆スカの出口で、Rに

「かみさん、ウエット速いですね」

と笑顔を向けられ、ニヤけてしまうのを抑えるのに、かみさん、かなり苦労したよ。

 

後編に続く

 

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