solo run
中部戦線異状なし
2011.08.13 一日目 柏〜榛名湖 ―eisuke夜会―
今回のツーリング、その最初の目的地は、すでに決まっていた。 群馬県は榛名湖だ。 そこで山賊宴会をやってから、そのまま走りに出る寸法である。連休前の最後の土曜日、わらわらと患者さんがやってくるのを捌(さば)きつつ、手が開いた時にミクシィを確認してみると、朝八時だかの段階で、すでにeisukeさんが現地到着してる。 後から来る我々のために、場所取りをしてくれてるのだ。 いやまあ、俺らのためでもあるけど、きっと「待ちきれなかった」ってのもあるだろうね。 気持ちはよくわかる。痛いほど。 仕事が終わるや否や、取って返して荷物を積み込み。 今回も下道で行ってみようか。
16号をぐるり回って、クソ暑い中、群馬を目指す。 17号に入って、「う〜ん、軽く気が遠くなるくらい暑いなぁ」とボヤいてたら。 関東有数の酷暑地帯、『高崎』『熊谷』なんて文字が出てきて、余計に暑くなった。 クルマと一緒にちんたら渋滞してると熱的にもたないビューエルなので、知りうるテクニックの全てを駆使して、ひたすら単車を前に進める。この場合のテクニックは、『技術』ではなく『手管』と翻訳してくれると判りやすいだろう。要するにすり抜けた。 経験値&道幅の不足により、16号よりすり抜けしづらい17号を、ひたすら前へ前へ。
やがて県道に入り、「あと少しで榛名湖」となったあたりで、コンビニへ入る。 「もしもし、eisukeさん。この先って酒を買うトコありますかね?」 「曲がり出したら、もうないよ。見つけたところで買っておいた方がいい」 その助言どおりココで氷と酒を買い込み、榛名湖へ向かって県道をゆく。 山や川が見えてきたら、榛名まではもうすぐだ。
渋滞すり抜けで溜まったストレスを、山間部のワインディングで開放しながら。
「くっそ、みんなもう呑んでるんだろうなぁ」 ぶつくさ言いながら、榛名湖へ繋がる県道28号を抜けると。 どっかんストレート。 一般的なツーリングルートだから、きっと通ったことがあるヒトも多いだろう。榛名湖までのストレートが抜群に気持ちいい、県道33号へ出る。この突き抜けるド直線は、いつ見てもため息が出る。特にこんな青く晴れた空の下では。 33号へ出るとすぐに、写真左の道を入って、榛名湖周辺へ。
湖畔を見回しながら走りつつ、一度、eisukeさんに電話を入れて場所を確認したら。 小さな丘を抜けてしばらくゆくと、見覚えのある単車が停まっていた。 よしなしのGSと、ろろちゃんのF800Sの間に、ユリシーズを放り込む。 BMWのビューエルサンド。 道の反対側、湖畔のあたりを覗き込んでみれば。 なにやら怪しげな連中が、巨大な屋根テントをふたつも張って、怪しい儀式の真っ最中。 よしなしに迎えられて湖畔へ降りてゆくと。 eisukeさんの新兵器、ダッジオーブンに火が入っていた。 なんでも丸鶏をそのまま蒸し焼きしてるんだそうで、期待感はイヤが上にも高まる。 よしなし、ろろちゃん、マルの三人。ダメ人間そろい踏みで、すでに出来上がってやがる。 ろろ 「かみさーん! ごめんねー! ラム食べちゃった」 よし 「マグロのカマ焼きも食いました」 マル 「バーカ、バーカ!」 こっちも負けてらんないので、とっととキャンプベッドを組み立てた。
それからeisukeさんにドッペルギャンガーのテントを借りる。 コレはアウターシェルが独立式なので、前々から「参天の代わりにならないか?」と目星をつけていたテントで、今回、eisukeさんに貸してくれと頼み込んであった。まず借りて使ってみて、実際の使い勝手を検証しようと企(たくら)んだわけである。 かみ 「張っといてくれたんですね! ありがとうございます。でも、インナー要らないっす」 えい 「あ、インナー要らないの? それじゃ、今、外しちゃうね」 ろろ 「はははっ! せっかく張ってくれたのに、インナー外せとか、なんてワガママなんだ」 マル 「バーカ、バーカ!」 借り物のドッペルギャンガー(アウター)に、荷物を放り込んだら準備完了。 さぁ、呑むぞ!
湖の向こうに、ゆっくりと陽が傾き始める。 もっとも、対岸のこちらでは逆にテンションが上がり始めているのだが。
えい 「丸鶏できたよー!」 一同 「うおぉぉぉぉぉ! すげぇぇぇ美味そうっ!」 ダッジオーブンが開かれた瞬間、あたりに美味そうな香りが流れ出す。ラム酒や香草のフレーバーが鼻腔をくすぐり、口の中によだれが湧き出してくる。蒸し焼きにされて軽い焦げ目がついた鶏と、その周りの野菜や香草のカラフルな色合いが目にも楽しい。 腹すかせてる俺だけじゃなく、もう腹いっぱいと言ってた連中まで、目の色が変わってきた。 目の前で鶏が引っ張り出され、eisukeさんの巨大なロゴスグリルに置かれたら、もう限界。山賊どもは我先にと鶏をむしり、ガツガツ喰ってゆく。「美味めぇ!」「やべぇ!」「こ、これは!」などと、やかましい悲鳴を上げながら、あっという間に食い尽くした。 と、eisukeさん。 「じゃ、ガラはこっちに頂戴! ダシをとってスープを作るから。明日の朝、雑炊にしよう」 「うおぉ! それはいい!」 ステキ企画にまたも絶叫。 ダッジオーブンには、山賊どもの食癖を物語るように、野菜だけが残された。 が、この野菜もそのままでは終わらない。
それはともかく。 グリルではさらに、肉とエビ、厚揚げなんかが焼かれてゆく。 よし 「俺らもう、おなかいっぱいですよ。かみさん、喰ってください」 えい 「そうそう、どんどん食べちゃって! 他にもまだまだあるから」 ろろ 「まだ、カルビもあるからね」 マル 「うー、腹が苦しい……けど、エビは喰いたい……あ、うめぇ! ろろちゃんも食いな」 なんだか、やけに羨ましくない「あーん」だ。
かみ 「いやぁ、美味いなぁ。俺、何も買ってこなかったから助かるなぁ」 ろろ 「あはははっ! 『お客さんは要らない』とか言ってて、自分がお客さんじゃん!」 かみ 「違うよ。『俺以外の』お客さんは要らないんだよ。俺は甘やかして欲しいの!」 よし 「ぎゃははは! サイテーだ!」 かみ 「ばっかおめ、みんな持って来るばっかりだから、消費する人間が要るだろ!」 マル 「おめーはホント、どーしよーもねーな」 かみ 「うるせぇ、誰が言ってもおめーにだけは言わせん!」 美味い飯を食い、美味い酒を呑み、ダチとバカ話して笑う。 そして、ふと見回せば。 美しい景色に包まれた、最高のロケーション。 シアワセを満喫しながら、ホントに何の気なく、残った野菜をつまんでみる。 そして、俺の時が止まった。 「うおぉぉぉぉぉ! 美味めぇぇぇ! なにこのタマネギ! なにこのジャガイモ!」 鶏のダシと、香草やラムの香りをたっぷり吸った野菜が、とんでもなく美味い。俺は大騒ぎしながら、今までの山賊宴会ではありえないほど野菜を食い続けた。もっとも、『宿敵ニンジン』だけは、ろろちゃんに、「かみさん、ニンジン美味しいよ」と言われても、決して手をつけなかったが。 ニンジンとは、間違いなく前世で何がしかの因縁があるのだ。 いや、生なら全然、フツーに食うんだけどねニンジン。
やがて天照大神(アマテラスオオミカミ)が、美しい残照と共に山々の向こうへ隠れ。 大国主命(オオクニヌシノミコト)が統べる、夜の世界がやってくる。 もちろん、山賊宴会はますます絶好調。 eisukeさんが、ガソリンランタンに火を灯す。 そして、その足元をよく見てみれば。 大量の薪(まき)が用意してあるじゃないですか。 えい 「もう、食い物はいいでしょ? 焚き火にしよう。かみさん、どんどん燃やしちゃって」 かみ 「おまかせくださいっ!」 ろろ 「やりすぎちゃだめだよー!」 よし 「無理だよ、ろろちゃん。かみさんだもん」 マル 「おめ、暑いからあんま燃すなよな」 かみ 「(`▽´)(`▽´)(`▽´)(`▽´)(`▽´)」 いいだけ燃したった。
調子に乗ってガンガン焚き火を燃やしつつ。 かみ 「お、いつの間にか、よしなしが寝てるぞ! ヤロウの脚ぃ、燃やしちゃれ!」 ろろ 「それはいいけど、こっちが熱いよー! かみさん燃やしすぎだよー!」 マル 「バカ、熱ちぃつってんべな。よしなしだけ燃やせよ」 かみ 「うっせーな、離れりゃいいだろ! よしなしを燃やす、いいチャンスなんだ」 よし 「起きてますよ! つーかホントに熱い!」 えい 「がははは、よしなしくん気をつけて。ろろちゃんもマルちゃんも、距離あけた方がいいよ」
バカ話しながら呑んだくれつつ、まったりした時間になる。いつの間にか、カンペキに寝オチしたよしなしを横目に、マルやろろちゃん、eisukeさんと話をしながら、楽しく酒盃を傾けていると…… 突然。 アタマからバサっと、うすい網状の袋をかぶせられた。同時に背後で声があがる。 「かみ、つかまえた!」 ろろちゃんの顔色が変わる。マルやeisukeさんも一瞬、凍りつく。よしなしは寝てる。 同時に、俺は驚いた。 網をかぶせられたことじゃなく、声でわかったその犯人が、『今、ここにいること』に。
振り返りざま、予想通りの顔をその場に見つけて、俺は相好を崩した。 「UKT! やっぱりUKTか! なんでここにいるんだ?」 愚問だ。 この少年の父親は、ワルノリに歯止めが利かないことでは人後に落ちないのだ。 後ろに立ってニヤニヤ笑ってるその父親に、俺はニヤリと笑い返した。 「バカじゃねぇの! フツー来るか? わっざわざ三重からよぉ」 立っていたのは四日市に住む長年のダチ、おーがだった。 「そら来るやろ。山賊宴会やってる聞いたら、じっとしてられるか!」 言い放ったおーがは、そのままスタスタと歩いてゆくと、右手を差し出しつつ、 「eisukeさんですか? おーがです」 「やー、どうもどうも! eisukeです!」 「はじめまして……ゆうてもネットで話してるから、初めてな気はしないですが」 「ははは、そうだねー!」 おーがとeisukeさんが挨拶してる間に、闇の中からさらに人影が現れた。 おーがの愛妻、飼い主ちゃんだ。娘のNNKももちろんいっしょ。 ちなみに右のUKTが持ってる棒は、俺を捕らえた捕虫網である。
ろろ 「おーがさんだったのかー! いやービックリしたよー!」 マル 「がはは、相変わらずバカだなおめ」 おー 「ろろちゃん、久しぶり! マル、なんで琵琶湖に来んかったんや!」 マル 「なにおめ、ずいぶん前の話を」 ろろ 「かみさんに網がかかった瞬間、驚いたのと脱力したので、一瞬、真っ白になったよ」 えい 「脱力した?」 ろろ 「なんでまた、よりによってイチバンめんどくさいのにカラむんだよー! って」 かみ 「なにをう!」 えい 「ぎゃははははっ! そりゃそうだ」 よし 「う……あ……? あれ、ヒトが増えてる」
三重からおーが一家の乱入で、宴はさらにヒートアップ。 すっかり陽が落ちた湖畔に、笑い声が響く。 かみ 「eisukeさん、そのイス、座ってみていいですか?」 えい 「あはは、いいよー! すごく座りやすいよ」 かみ 「ちょ、なんだコレ! やべぇ、ハンパねぇ気持ちいい! 立てる気がしない」 よし 「あはは、まさにダメ人間の絵ですねぇ」 かみ 「ばっか、すんげぇ気持ちいいぞ! マル、座ってみ!」 マル 「つーかよ、おめーは何につけ大げさなんだよ。どれどれ……」 マル 「こ、これは……なんだこれ、すげぇ気持ちいい」 かみ 「だろう?」 マル 「コレに座ったらダメ人間だっつーなら、俺はダメ人間でいい」 よし 「あははは!」 まあ、座っても座らなくても、ダメ人間には変わりないけどな、おめーは。
真夏だってのに、しかも暑い暑い言いながら、盛大に火を焚く山賊ども。 いやまあ、正確に言えば、火を焚いてるのは主に俺なんだけんども。 ドンドコドンドコと太鼓の音が聞こえてきそうな光景が、たまらなく心地よい。 「ところで、おーが一家は腹が減ってないのか?」俺が聞くと、おーがは間髪いれず、「なにがー! せっかく七輪を買って来たんやぞ? そら、焼くやろ」と、持ってきた食材を七輪で焼き始める。とは言え七輪デビューしたばかりだけに、炭を起こすのがまずひと苦労。 焚き火で炭をおこしているのだが、まだまだ焼き上がりには時間がかかりそう。 なのに飼い主ちゃんや子供たちは、もうだいぶんお腹を空かせている。
と。 eisukeさんがニカっと笑って、「鶏がらスープで雑炊を作ってあげるから、ちょっと待ってて」と、相変わらずの甘やかしっぷり。それで思い出した鶏スープの存在が気になったので、俺も近くまで寄ってみた。すると、なにやら鍋の周りに漂ういい香り。 かみ 「ちょ、なんすかこれ! めちゃいい香りがするんですが」 えい 「美味そうでしょ?」 かみ 「美味そうなんてもんじゃねーっすよ! 飼い主ちゃん! ちょっとこっち来てみ」 飼い 「なに? どれどれ……おぉ! コレはステキ! いい香りやん!」 えい 「もう少し待っててね……ちょっと味見してみよう」 「ちょっと薄味だけど、いいダシが出てる。ご飯を入れて、雑炊にしよう」 やがて出来上がった雑炊は、ふわりと優しい香りのする絶品だった。 かみ 「やべぇうめぇ! UKTとNNKにも食わせてやろう」 飼い 「コレは美味しいわ! おーが、あんたも食べる?」 おー 「俺は七輪で忙しいんよ」 えい 「熱いから気をつけてねー!」 コッヘルに入った雑炊を、ろろちゃんやマルにも味見させると、みんな「美味い美味い」と騒いでた。だが熱いので、チビたちはなかなか食べられず、コッヘルを置いて冷ましている。と、そこに近づいた彼らの父親が、ものすげぇ当たり前っぽい顔して、雑炊を食った。 おー 「まあ、美味いに決まっとるわな」 かみ 「ちょ、おーが! おめ、子供の食い物取るんじゃねーよ!」 おー 「大丈夫やて。子供らには俺の焼いた食い物があるんやから」 だから心配なんじゃねーか。
突然、雨が降りだした。 もっとも、今回はeisukeさんが事前にテントを張ってくれていたので、まったく問題ない。 みなでテントの下へ集まると、楽しい宴はまだまだ続く。 真ん中にあった焚き火は、横へどかして俺の担当。 マル 「かみ! あんま燃すんじゃねーよ! 火が木の枝に届きそうじゃねぇか」 かみ 「雨ぇ降ってんだから、燃さなきゃ消えちまうだろうが!」 ろろ 「消えてもいいんだよー! そんなに寒くないんだからさー」 よし 「ダメだ、まったく聞く気ないや、あのヒト」
炎と宴に、子供たちは興奮気味。 ドッペルギャンガーに入れた俺のコットに転がって、ふたりで楽しそうに遊んでる。そして大人たちは、もっと興奮気味に、呑んで笑って色んな話をした。群馬のeisukeさん、埼玉のろろちゃん、茨城のよしなし、栃木のマル、三重のおーが一家、そして千葉の俺。 美事にばらばらの地域から集まった山賊どもは、みんなニコニコと嬉しそうだ。 「いいなぁ。やっぱり酒呑むなら、コレが最高だな」 俺は焚き火を燃やしながら、幸せを噛み締める。
やがて、さすがに酔いと眠気が襲ってきた。 みんなが笑って呑んでる声を聞きながら、「俺、そろそろ寝るわ」と断って、テントの中にもぐりこむ。今までと違って土足でそのまま中に入れるから、メンドウがなくていい。「こりゃ、いいや。やっぱ買うしかねぇだろ、このテント」などと、ご満悦でつぶやきながら、コットに転がると。 俺は心地よい眠りの中に落ちていった。 この日は結局、夜中にえらい雷雨だったらしいのだが、まったく気づかなかった。
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