solo run

能登ツーリング

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2008.04.29 まだ見ぬ能登へ

 

RocketIIIで諏訪湖へ行き一泊。今まではそれが俺のイチバン長いタンデムツーリングだった。

短くても五日間、マシンはメガスポーツGSX1300R隼、しかも初めてゆく能登半島。不安要素とまでは行かなくとも、何かしら想定外のことがあるかもしれないと言う危惧は存在していた。事前にタンデムを練習したりと、いつになく慎重だったのには、そう言う経緯があったのである。

なんてカキモノっぽく始めてみたが、走り出しちゃえばなんでもOKになるのはいつものことだ。

 

「早朝に東京を抜けたいなぁ」

というしょっぱなの予定がイキナリ頓挫した午前9:30、俺は今回の厄介な企画を持ち出した主犯のタンデマーNを乗せて、柏を後にした。柏インターから常磐道に乗るなり、気持ちよくアクセルを開ける。ハヤブサはふぉぉ〜んとインラインフォアの官能的な排気音を……

あれ? なんか加速が鈍くねー?

最初の高速で、イキナリNの存在を忘れてた俺は、ゴキゲンに180まで引っ張ってから、加速の鈍さでそれを思い出す。あーそーだ。今回は大荷物乗っけてるんだっけ。しぶしぶとアクセルを戻し、120まで減速。クルージングしつつ、前走する車を避けながら走る。

ふとメータを見るといつの間にか160。

『このくらいならまぁ、問題ないかな?』と、かつてマルにタンデムで160出された時はぶっ飛ばしてやろうと心に誓ったことなどさっぱり忘れ、上限160と言うマイルールを設定する。 常磐から外環を抜け、関越に入ってもだいたい160ペースを崩さず、高坂に到着。

さすがにまだ元気なので、マメにブログ(旧マーマレ)の方を更新してたら、サイト用の写真撮るの忘れてたので、あっちから流用だ。それにしても、気温が高い。まぁ信州方面に向かうので、暑さは心配ないだろうし、天気がいいのは気持ちいい。嬉しくて顔がにやけてくる。

 

100kmくらいごとに休憩を入れ、200kmごとに給油。

そんな感じで次に行くPAを決めて、走りだす。もちろん俺だけでトントン決めちゃってもいいんだけど、せっかくだから解らなかろうが何だろうがNにも地図を見せて一緒に次のPAを探させる。本当は『高速は一本道、距離はだいたい決まってる』から一緒に考えるまでもない。

でも、そうやって参加した方が、ツーリングは絶対面白い。

ずーっと行き当たりばったりや、お客様ツーリングが多かった俺も、『わからない』と投げないで、地図を見ながら先の地形や気温などをある程度推理しつつ走るようになって、もっとツーリングが面白くなった。できればNにもそれを味わってもらおうと思ったのだ。

なにより、参加してる感覚がより強くなるから、理屈ぬきで楽しいのだよ。

 

関越道を、藤岡ジャンクションから上信越へ抜ける。

すると、上信越道に入ってすぐに、渋滞があった。いくらゴールデンウイークだっつって、上信越が入りっぱなから混んでるなんてさすがにおかしいわけで、事故渋滞だろうなぁと思ってたら、案の定、数キロすり抜けたところで、バイクとクルマがヤらかしてた。

『これからツーリングだろうに、可哀想だな』

と心で十字を切って、上信越を西へ。さっきの事故の画が効いてるのだろうか、なんだか普段より車がバイクの動向に気を使っているようだ。やたら道を譲ってくれるので、すり抜けるのは逆に危ないと判断した俺は、追い越し車線を車がどくまで待ってから抜く。

初夏の空気が山に入って冷たくなってきたところで、二回目の休憩PA『横川』に到着する。

バイクもこんな感じ。東名とはやっぱり数が違うね。走りやすい。

 

Nのほほには、メットのあとがくっきり。メットにもファンデーションがくっきり。

すっぴんで行きゃいいじゃんって思ったら、日焼け防止用の化粧なんだと。ま、そりゃ基本的に女の化粧ってのは男のためにするもんじゃないわけだがね。女同士の目とか、肌の防御が主目的だつーんだから、世の男にとっちゃさびしい話ではある。

 

いよいよ道がくねくねと曲がり始めた。

高速は本格的に山間部に入り、気温もぐんと下がり始める。それでもSAで停まると直射日光は痛いくらいだし、じりじりと汗ばむ。ツーリングには最高の天気だ。お肌的には真夏より良くないらしいけどね。ま、俺にはお肌関係ないから、どうでもいいんだけどね、そんな話。

ハイウエイオアシス、小布施で休憩と飯の時間。

 

長野に入ると、さすがに山がきれいだ。

空気がもう少し澄んでて、真っ青な空だったらもっと気持ちいいんだけどなぁ。

 

 

小布施で食ったカツカレーとおろしそば。もちろん、俺がカツカレー。

『いちおう揚げたてのカツ』にボンカレー的なモノがかかってる。こないだのツーリングで、ナリさんと『揚げ物はもたれる』って話をしてたのに、すっかり忘れてイキオイでカツカレー食ったら、これがまぁ、消化しないことしないこと。内臓の経年劣化をしみじみと感じさせられた。

もう、安いアブラもんは控える(全面的に控えましょう)

 

カツカレーの消化を待ってたら日が暮れそうなので、重たくなった胃袋を抱えてハヤブサをまたぐと、ガラガラの上信越道を気持ちよく走りぬけ、ついに北陸道へ入った。入ってすぐの名立谷浜PAで休憩しながら地図をにらみ、Nとこのあとのルートを考える。

さすがに蟲も多くなってきた。マットブラックは蟲の張りツキがハデだから、こんどはウレタンクリア吹ける普通のブラックにしようかな。それとも夏に向けてもっと明るい色にしようか。今回でもすでに照り返しでけっこう暑かったし。白かクリーム色なんてのがいいかもね。

ヒトの単車の色なんてどうでもいいよね。

 

北陸道の残り行程70kmを走り抜けたら、滑川で高速を降りて一般道へ。

国道8号線は多少混んではいたが、広くて走りやすく、すり抜けもしやすい。ただ、あとで聞いた話ではこの辺は時々取り締まりをやってるそうだ。俺は幸いにも遭遇しなかった。強くなってきた日差しにちょっと辟易しながら、富山東と言う駐車場に入る。

道の駅みたいな施設ではなく、トイレがあるだけの広い駐車場だ。

 

マッチョポーズとかキメてるトキほど、実はけっこう疲れてるわかりやすい俺。

 

山々は美しいはずなんだが、どうも空気がね。でも、秋に来たら綺麗でも寒いよねきっと。

 

この辺のくだりは動画に納めてあるので、二日目のレポートでまとめて披露する。

 

8号から160号に入ってすぐ、氷見市あたりのコンビニで休憩。

ツーリングファルコンは、ナンバープレートも良い子仕様になってる。

でも、走りの方はそうも行かない。俺的には普通よりおとなしく、こないだの伊豆箱根に比べたら止まってるような速度と走り方だったのだけど、この辺の人はあんますり抜けとかしないみたいで、結果的には悪い子走りになってた。俺だったら、すり抜けしないなら単車乗らないけど。

むしろタクシー乗るね。

維持費考えたら自家用車よりタクシー最強。

 

160号を北上すれば、今日の目的地、七尾市の和倉温泉まではすぐ。

160号は富山湾に面した海沿いのワインディング。ここは能登立山シーサイドラインと呼ばれる景色のいい道路だ。とはいえ、小さな漁師町の中を通ったりもするので、それほど速度を上げられるわけじゃない。いわゆる快走ペースで、海を見ながら走る。

撮影、タンデマーN。

 

せっかくケツあげたのに、近すぎてただアップになっちゃってる悲しい画。

つーかたとえ自分のだろうが、ヤロウのケツに用はないのだ。

 

こんな感じで、右側がずっと海。

 

タンデマーに加減速のショックを与えないよう、細心の注意を払ってスムーズな走りを意識する。具体的に言うと、ブレーキやアクセルをあまりハデに使わずに、直線からコーナリン グへつなぐときもエンブレを避けて基本パーシャル。体重移動もハデにはできないから、基本リーンウィズ。

速度を殺さずにコーナーへ侵入し、パーシャルで旋回して、アクセルじわりで脱出。

タンデマーの快適さのみを考えた、思いやりにあふれるすばらしい走りだと言えるだろう。

もちろん後ろのNが、1mgの恐怖もない、快適なタンデムライフを送れたことは言うまでもない。たとえ『その速度が3ケタに達して』いようが、『カメラ構えて片手のときにステップ擦るまでバンク』されようが、俺の思いやり運転の前では小さな問題に過ぎない。

そんな小さな結果ではなく、大切なのは心なのだ。

 

見よ。海も俺の思いやりあふれる運転をほめ讃えているようではないか。

 

湾が右へと曲がりこむあたりで、160号は左へと曲がりこむ。

 

車の少ない国道を快走すれば。

 

最後の休憩場所、道の駅いおりに到着。

 

ここで富山湾とは別れを告げ、七尾市に向かって七尾南湾を走る。

 

七尾駅周辺の軽い混雑を抜けたら、今日のというか今回の宿、和倉温泉に到着。

ホテルは、俺にはちょっとキレイ過ぎる、おしゃれなところだった。落ち着かない。

 

七尾南湾もよく見えるオーシャンビューホテル。

だが、個人的にはそれよりも手前の採石場がすげぇ気になったり。

 

ソソルねぇ。

あぁ、やっぱランツァで来ればよかったかなあ。

まぁ、ランツァでタンデムじゃ、ここまで来る間に軽く三回くらい死ねるけど。

 

とりあえず風呂に入り、オーシャンビューより俺に効く薬を投入する。

良かった、買いに行かなくて済んだぜ。

 

海を見ながらカンパイしようとしたら、外の空気が気持ちいい事に気づいた。

 

 

なので、ベランダに出て呑(や)ることにする。

ヒトクチ目が胃にしみこんだら、急に疲れが出てきた。

さすがに慣れないタンデムは、堪えるようだ。

ビールを飲みながら、半分眠りつつ、ベランダの眺めを堪能する。

 

屋上庭園があるチャペル。間違いなくブライダル目的だね、これは。

 

なんつってると、陽が赤く染まってきた。

そろそろ、俺の時間だ。

食事場所と言うか飲める場所を探して、温泉の周りを徘徊する。

Nが『ここがいいんじゃないか』いう店があった。お食事処ってネーミングとか、つまみメニューが外に書いてないところが俺の琴線にはふれないので、どうも気が進まなかったのだが、そろそろアルコール的に限界だったので、とりあえず入ってみることにする。ま、ダメだったらすぐ出りゃいいんだしね。

 

んで、入ってみると中のメニューにはつまみが並んでいる。

『ほら、大丈夫じゃないか』的にふふんと勝ち誇るNを尻目に、とりあえず『利き酒セット』と言う俺好みのメニューを注文。あまりたくさんは頼まずに、軽く様子を見ることにした。単車の走りや地図では当てにならない俺の勘も、こと酒処に関しては鍛え抜かれたセンサーなのだ。

地酒の利き酒セット。悪くはないけど、個人的にはピンとこない。パンチが弱いかな。

 

刺し盛りも微妙。悪くないけど、わざわざ能登まで来る意味はかなり薄まる系。

強いて言えば、Nの注文した焼酎の名前『ファラオ』が、俺の心をガッチリキャッチしたことだけは、特筆できるだろう。どうせなら『ナイル川の水で仕込んだ』くらい書いておいてくれれば完璧だったのに。でも味はたいしたことないから、こっちで探してまでは買わない

 

「ほれ見たことか」

と今度は俺が勝ち誇りつつ、この店を速攻で辞すると、次の店を目指してまたも徘徊する。すると、今度はよさそうな店を発見。電光カンバンなんかが観光地の寿司屋っぽい感じでパっと見は微妙なんだけど、地酒セットとファラオの力で鋭くなった俺のレーダーにはビンビン来る。

入ってみると、客は誰もいなくて、オヤジが暇そうにしている。

本来なら『失敗したか?』と思ってしまうようなシーンだが、俺は自分のレーダーに絶大の信頼を置いているので、自信を持ってカウンターに座る。んで、Nがオススメを聞いたりホワイトボードに書かれたオススメを見たりしてるうちに、俺はさっさと酒を注文。

冷蔵庫には、一種類の酒しか入ってない。

『寿司や肴はともかく、酒の方に限って言えば、今回はバクチになったかな?』と思っていると、オヤジいわく『これしか置かない』そうなので、どれどれ、ソコまで言うなら飲ませてもらおうじゃないか。期待しながら待ってると、冷えたグラスと一緒に出てきたのが

谷泉

これは俺が今まで呑んだ酒の中でも、かなり上位にランキングされる。

クセは少なく、甘さもなく、料理とあわせるには非常に呑みやすい。かといって上善如水みたいな線の細い酒じゃなく、強い印象のある酒だ。やたらクセがありゃいいとか、呑みづらいほどいいなんてころの俺にはわからなかっただろう『杜氏の意思』みたいのを感じる。

飲み手としての練度が上がった今になって出会えたところに、運命的なものを感じなくもない。

 

前の店で軽く食ってはいるので、寿司ではなく肴を注文する。

サヨリ刺、赤西貝、トリ貝。

サヨリも新鮮で旨かったが、赤西貝の歯ごたえに、Nは完全にKOされてた。貝類が大好きなヤツだけに、食いつきっぷりがハンパじゃない。俺が谷泉で大騒ぎし、Nが貝で大騒ぎし、入ってものの数分で、ふたりとも完全にこの店のファンになってしまった。

店の名前? 二日目のレポートを待て。

 

左がカタバイ貝、サヨリをとばして奥が本バイ貝。手前はトリ貝。

食ってる端から、オヤジがいろんな物を出してくれる。Nが貝好きとわかったので、バイ貝を二種類出してくれたわけだ。俺は人見知りとかしたことないし、Nも愛想良く話せる方だが、ふたりともお愛想ではなく、本気でこのオヤジと、奥さんである『おかあさん』が気に入ってしまった。

そして、気に入った人間と呑むとき、俺のボルテージは絶好調になる。

 

オヤジと能登の話から始まって色々と喋るうちに、気に入ってもらえたのだろうか。

お腹いっぱいだつってるのに、次々といろんな肴が顔を出す。

左から、くじら煮、真子の煮物、西貝のつぼ焼き、たけのこと蕗(ふき)の煮付け、手前がカレイのからあげ。山菜類は全てオヤジが自分の足で採ってきたモノ、煮付けはおかあさんの手料理で、店の商品と言うよりは、自分ちのおかずになるのか。

肴はまだまだ止まらない。

刺身は忘れた。左上のおちょこに入ってるのも忘れたけど、なんかの酢の物。ふだん、まず酢の物は食わない俺が、アホみたいに食った。真ん中の黒いのは、イカ墨とわさびで和えた塩辛。まさに酒盗つーくらい酒が進む。右はほとんど喰っちゃってるけど山菜のてんぷら。自家製漬物にはゆずが利いてる。

旨い酒と旨い肴で、満タンになるまで胃袋を満たし、泥酔しつつも幸せに顔がにやけて超ゴキゲン。オヤジと遅くまで話し込み、ゲタゲタ笑ってるうちに、昼間の疲れが出たのか、さすがに眠くなってきた。んじゃ、帰って寝ようかなと、おあいそしてもらうと。

おいオヤジ、12000円てなんだ?

俺は自慢じゃないが寿司屋でそんな安い金額で済ませたことはないぞ? そして今日は、今まで寿司屋に行った中でイチバン、呑んで食ってしてるぞ? あれか? ひとり12000円づつってことか? なに? 間違いなく『ふたりでいちまえんにせんえん』だと?

唖然とする俺の横でNが『ちゃんと取ってくださいぃ〜』って悲鳴を上げてた。

 

「てんぷらや、煮付け、からあげ、注文してないのに勝手に出したんだから」

屈託ない笑顔でそう言うオヤジに、これ以上押し問答する愚を知った俺は、同じくにやりと笑う。

「ご馳走様です。本当においしかった。明日も来るね」

ま、ありがちなセリフではあるが、オヤジはまだ俺をよく知らない。

俺は社交辞令なんて言わないのだよ。

すでに腹の中では『ある方針』が、この段階ですでに決定していた

 

今回の旅の間は、毎日この店で喰うぜ。

 

こうして一日目は、ご機嫌にふけていった。

 

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