solo run

風に吹かれて

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2010.08.17 四日目(前編) 山口〜鳥取

―デコとショート、そしてオリエンテーリング―

 

朝、出勤するドルフィーと同じ時間に起きて、デコと一緒にコナコーヒー(たぶん)を一杯。

もんすげ、あま〜い香りのするコーヒーだが、砂糖を入れない限り、別に甘くはない。

今日はデコと一緒に、ヤツの帰り道の途中まで、ワインディングで遠回りしながら走る。山の中をいいだけ曲がって、デコはそのまま自宅へ。俺は昨日の話に出てた、米子の『大山(だいせん)』まで走る。大山までのルートは、地図を見ぃ見ぃ思い付きだ。

 

ドルんちのワンコは、えらいキッチリ躾けられてた。

これはオスワリしながら、マテをしてるとこ。ビタっと固まったまま、ドルが許すまで動かない。

伏せたままのマテも、しっかり出来てた。たいしたもんだ。

 

デコマルキュー、もとい、M109R。

1800ccのVツインに仕込まれたピストンは、世界最大のボアを誇る。

現存するクルーザの中では、ロケットスリーに次いで強力なパワーユニットを積む、重量級のパワークルーザだ。もっとも俺は富士山でSSとヤれるスポーツスターを見ちゃってるから、クルーザだろうが、やっぱり『パワーより車重とハンドリング』って、すっかり宗旨替えしてっけどね。

とりあえずマルキューは、もちっとバンク角が欲しいよなぁ。

 

ダベったりワンコと遊んだりしつつ、それじゃ、そろそろ出ようか。

「んじゃドル、またな!」

「また、いつでも遊びに来てください!」

アイサツをかわし、デコとふたりで走り出す。

国道2号線は、そこそこの混みっぷり。

そこから国道376を右に折れ、鹿野を抜けて9号線にぶつかるまで一緒に走る。

9号でデコは南へ俺は北へ、それぞれ別れるのだ。

 

376号線は国道とは言え、山間部を抜けるワインディングだ。

つーか「黄色いガードレールってどうなんだ?」思ってたけど、緑の中に入ると悪くないね。

 

やたら直線の写真が多いのは、曲がってる時は写真撮ってないから。

グネグネと曲がる道は、クルーザで攻めるのにちょうどいいくらいの曲率。SSだと若干スピードレンジが高すぎちゃうかな。そんなワインディングを、ステップを擦らないようにあまりバンクさせず、その代わり思いっきりシートのふちに座って、さらに上体を内側へ入れる。

ハンドルがハンドルだけに、上体を入れると手が伸び切っちゃうけど。

「もう10センチ身長がありゃ、もちっと上手く……いやいや、イイワケだ。ヤレるはずだ」

ま、一般的にクルーザは、ヤレなくていいんだけどね。

 

フューリィを曲げることに専念しながら、気持ちのいいワインディングを駆け抜ける。

ただ上体を入れただけじゃダメだが、ブレーキリリースでひょいっとバンクさせ、重心がタイアのイン側へ乗ったらアクセルオン。リアサスが沈んで、気持ちよく曲がってくれる。このあと大山で面白い乗り方を試すんだが、とりあえずこの段階では、ドカっと座ってイン荷重のコーナリング。

ブレーキできっかけを作り、こじらずセルフステアで曲げてやる。

「へへへ、気持ちいいな。見た目より曲がるよなコイツ。シャフトなのにサスも自然だし」

本日も、目の覚めるような美しい青。

そしてもちろん、この時間ですでに、ヤんなるくらいクソ暑い

 

俺越しのデコ。

今まではケーナナだったり新ブサだったりしたから、こうして並んで走るのは、実は初めて。

 

ミラーの中のデコ。

離れたかなと思っても、立ち上がりでぐんと詰められる。マルキュー、やっぱ速ぇや。

 

途中、暑くてのどが渇いたのと、タバコを吸いたいので、一服できる場所を探す。

すると菅野ダムの先だったか、民家っぽいトコに販売機とベンチがあったので停車。

ま、ジュースでも飲みながら一服しようぜ、デコ。

「かみさん、俺、ちょっと戻って便所に行ってきます」

つわけで、ここでタバコを吸ってコーヒーを飲みながら、デコの帰りを待った。

程なく帰ってきたデコと、改めて休憩しながらダベる。

ワインディングは気持ちいいけど、それにしても暑い。すでに日焼けした腕が、さらにジリジリと痛む。だったらジャケット着てくりゃいいようなもんだが、今回は基本的にまったりツーリングなので、あえて持ってこなかったのだ。ちなみにヘルメットもそのために半ヘルにしてある。

こいつでワインディングすっ飛ばす程度の速度なら、まぁ、それほど問題なかったかな。

半ヘルはちょっと疲れるけど。

 

一服したら、さて、走り出そうか。

相変わらず気持ちよく曲がるワインディングをすっ飛ばしつつ、フューリィと対話しながら、あるいはミラーに映るデコの姿を見てニヤリと笑いながら、楽しい時間を過ごした。やがて山間部を抜け、道は本格的に直線になる。空の青、山の緑、畑の黄緑が美しい。

ま、要するにワインディングを抜けたから、景色を見る余裕が出てきただけなんだが。

 

やがて市街地に入ったあたりで、大きな道路とぶつかった。

どうやらここらで、デコとはお別れだ。

9号とぶつかるちょい手前のコンビニで、休憩&最後のダベりんぐ。

今回の山口は『デコ紀行』つってもいいんじゃないだろうか。もちろんドルやゆっちょむとも、しゃべって笑ったけど、今まで『そこまで突っ込んだ話をしてなかった』り、『俺がすっ飛ばすんで一緒に走ってなかった』りしたデコと、色々話して、ちょこっとだけど一緒に走れた。

そしてあらためて、山口組の中ではイチバン俺と近いなって印象を持った。

ガラの悪さとかね。

「この先スタンド少ないですから、そこで給油してった方がいいですよ」

「おう、さんきゅ。んじゃよ、また走って呑もうな!」

つわけで、デコとのツーリングは、ちょっと短めだけどココで終了。

山の緑と空の青がまぶしい中、気持ちいいワインディングをクルーザ同士で攻めつつ、デコは俺の背中を見ながら、俺はデコをミラーで見ながら、お互いが同じ空間で走ってることを認識しつつ走る楽しさを感じた。ソロもいいけど、つるんで走るのも楽しい 。

今度は山口組みんなと、美しい景色やワインディングを楽しみたいもんだ。

 

さてと、それじゃぁ大山(だいせん)に向けて走ろうか。

ほら、やっぱり黄色のガードレールは単独だとアレだけど、緑や青と並ぶと悪くない

 

緑が、太陽を吸って黄緑色になってる。

 

これは野坂堤かな?

このへん、よく覚えてないんだよな。わき道に行ってハマった気もするし。

下の写真は、上の写真を取ったときにフューリィを停めた場所。

写真を撮って振り返ったら、なんだか緑の中のフューリィが良かったので、撮ってみた。

でまあ、それはともかく。

クソ暑くてボーっとしながらルート決めしてるので、この辺の記憶が定かじゃない。

ほら、明らかに9号とは思えない道を走ってる。

もし、これが国道9号なら、たぶん当初の予定通り、そのまままっすぐ走ってきてるんだろう。んで、これが9号じゃないなら、262あたりから直接、海沿いを狙って走ってるうちに道に迷って、気づいたら9号に逆戻りしてたとか、たぶんそんな感じの話だと思う。

覚えてないから、きっとあんまり楽しい道じゃなかったんだろうね。

 

これはまぁ、たぶん9号線。

なんでかって、このあと道の駅『シルクウェイにちはら』に行ってるから。

つわけで、シルクウェイにちはらに到着。ここは、初めてデコと出会った場所だ。

「あん時ゃ、ガラの悪いのがいるなぁって思ったんだよな」

なんて思い出しながら、アホほど照りつける太陽を避けて、東屋みたいな喫煙所へ。タバコを吸い終わったら施設の中に入って、冷房で外から身体を冷やし、飲み物で中から身体を冷やす。それでどうにか、アタマがハッキリしてきたので、この先のルートを考えた。

「う〜ん、山陰をぐるっと回って米子てのは、やっぱりどう考えてもかったるいよなぁ」

それでも山間部を抜けるよりは、間違いなく時間的に早いだろう。だが、地図上の距離や時間ってのは、俺にはあんまり重要じゃない。重要なのは体感時間、体感距離なのだ。ビーフラインを駆け抜けると大して遠くない高萩が、常磐道だとやたら遠いのと同じシステム。

楽しいと、時は早く進むのだ。スタンドとか関係なく。

 

「よし、県道312から、国道488に出て、県道314、172と繋いで、国道191だな」

俺がいったい何の呪文をブツブツつぶやいてるかつーと。

赤い矢印方向へ走って海に出るルートをやめて、青い矢印の方向へ抜けようつってるのだ。

なんでかって、そっちが大山のある米子の方角だから。

んで、その青ルートの、具体的な道順ってのが。

さっきの呪文、「312〜488〜314、172と繋いで191」なのである。

道の名前をわざわざ声に出して呪文のように唱えるのは、国道や県道の数字カンバンを、地図を見ないで確認できるから。地図を見ただけで判った気になって走ると、「あれ、312号線でいいんだっけか?」ってなるんだよ俺の場合。

そしてもうひとつ。

こんだけ複雑なルートを行くつーことは、当然、迷う確率が飛躍的に跳ね上がる。でも迷いたくはないから「おかしいな」と思うたびに、停まって地図を開いて確認する。だから、進むのに時間が掛かる。つまり、距離は遠回りでも、国道一本で走る方が効率的なのだホントは。

むしろ、そのために国道とか高速ってのがあるのだ。

だけどその、地図を開いて確認しぃしぃ走るのが楽しいんだから仕方ない。純粋に単車を操る楽しさや、美しい景色の中をのんびり走る楽しさとは違う、オリエンテーリングみたいな楽しさ。これもまた、俺がソロツーリングを愛する理由のひとつだ。

みんなと一緒じゃあ、さすがにこんなアホなこと出来ないからね。

 

つわけで、ルートが決まったら走り出そう。

まずは国道9号をちょっと戻り、国道187から、さっきの呪文の一つ目、県道312へ入る。

いや、コレが312の写真かどうかは俺にもわかんないけど。

 

山間部は、国道でさえ微妙なカンジなのだから、もちろん県道はすぐにこうなる。

ここらはもう、とっくの昔に島根県だから、よけいに道が悪いのかもね。

山口の道のよさは、ちょっと異常。むしろチート。

時々停まっては、木陰で単車のエンジンと、俺の身体やドタマを休めつつ。

 

見つけたきれいな景色に、ちょっと見入ったり。

狭くて荒れた林道みたいな道を、時々間違えてUターン。そんな時、今まで乗ってきた単車の中でも最長を誇るフューリィのクソ長いホイールベースは、さすがにちょっとジャマだ。狭い舗装林道でえっちらおっちら切り返しながらUターンしてると、その自分の姿が面白くなってくる。

「くくく、しっかしバカだなぁ俺。なんでわざわざ、こんな道を選んで走るんだろうな」

もちろん、こんな風に楽しい気分になるからだ。

 

狭かったり荒れてたりする道を、のんびりゆったり景色を見ながら走りぬけ。

国道191号へ出た。

「ココからは少し速度が稼げるぞ。それにしても大山ってどんな道なんだろうなぁ……」

まだ見ぬ大山に思いを馳せながら、国道を走り出してすぐのこと。

あまりにも突然に、それはやってきた。

「くっそ、マジかよ。ここで来るかっ!」

わめきながら俺は、目に付いた駐車スペースの木陰に、フューリィを滑り込ませる。

さっきまで青かった空が、急に泣き出したのだ。

 

中編へ続く

 

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