エンカイレポート

ゴールド・エクスペリエンス

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2011.05.03 四日目(後編)

―七色の楽園―

 

すっかり陽が落ちて、あたりが闇に包まれた。

山賊の時間だ。

そして山賊宴会といえば、忘れちゃいけない人間がいる。 まだ宴が始まってすぐのころ、よしなしに電話して「今、琵琶湖まで200キロのところで、渋滞にハマってる」と言う、軽く絶望的な連絡をしてきた、我らがキャンプリーダーPOPOさんだ。

茨城から琵琶湖までやってきたリーダーが、今回のキャンプに乗ってきたのが。

写真:POPOさんブログ

シボレー・コルベット。

少なくとも、七輪を積んでキャンプに来るマシンではない。

が。

それを聞いたおーがの嫁、クルマ大好き飼い主ちゃんが、悲鳴を上げながら飛んでゆく。

やがて帰ってくるなり、ナオミの肩をばんばん叩きながら、「コルベットのシートに座らせてもらっちゃった!」と大喜びしてたそうだ。その嬉しさを伝えたかったのだろうが、残念ながら飼い主ちゃん、ナオミさんのコルベットに対する認識は、『なんか平べったいクルマ』だ。

カンペキに伝える相手を間違えてるよ。

 

リーダーの設営&キャンプ準備は、もはや芸術の域。

 

全ての作業をモノの十数分で済ませる。

見ていた人が唖然としてたそうだ。

俺は酔っ払って騒いでたから見てないけど、POPOさんの手際は知ってるから驚かないよ。

 

琵琶湖の向こうに明かりが見える。

ひとりでキャンプしてれば、きっと幻想的な光景なんだろうけど、周りで山賊が騒いでるからね。

そのうち、ひとりで来てみるのもいいかもしれない。

 

おーがの娘NNKは、色んなひとがいる場所で、色んな美味しいものを食べて大興奮。

しかも、大好きなかみの膝の上だしね。

そして、NNKを抱いた俺が見ているのは、ヘッドランプをつけた、よしなしの後頭部。

俺を笑い殺す気か。

もね、これはホント、モザイクかけようか迷ったよ。とりあえず、見た瞬間に大爆笑して、そのあともずっーとからかってたら、最後にはさすがのよしなし先生も半ギレで、「もういいよ!」と怒ってた。でも、ワルノリかみさんとムラタには聞こえない。

酔っ払いはしつこいのだ。

この日はとにかく、みんながずっと笑ってて、必ずどこかで爆笑が起きてた。

 

パンダちゃんにマッサージしたら、マスターに「これ、覚えて」とか無茶なオーダーをしてた。

マスターはもう、何かを諦めたっぽい顔になってるね。

 

夜の闇を引き裂いて、単車の爆音が響く。

こんな時間に、こんな怪しげな連中のたむろする場所へ躊躇(ちゅうちょ)なくやってくるんだから、もちろん関係者に決まってる。やってきたのは、地元に住む変態M109R乗りの、『わこ〜ちゃん』だった。マルキューから新マックス、そして新マルキュー買いなおし。

この車暦だけで、脳の構造がどっかおかしいことは、誰でもわかるだろう。

左がわこ〜ちゃん。右はメタボ会のオサム君。

わこ〜ちゃんが来たとき、俺はもう、カンペキ出来上がってたから、今回はそんなに話せなかった。朝になってもう一度来てくれたときに、ちょこっと話せたくらいだったかな。次に会うときは、もっと色んなことを話したいね。

 

POPOさんのガソリンランタンは、むちゃくちゃ明るい。

しかも柔らかい光なので、こんな感じの『明るいのにいい雰囲気』になる。

山賊どもも、さすがに呑み疲れたのか、ガソリンランタンの明かりの周りで、穏やかに談笑している。いや、話を聞いてたわけじゃないから知らないけど、そんな雰囲気だよね? それと、この光に照らし出されると、食い物が倍くらい美味そうに見えるから不思議。

不思議ランタン。

 

NNKにすっかり懐かれて動きの取れない俺と、ヤザワに憑依されたムラタ。

サンバディズナイッとか言ってそう。

そして万が一言ってても、俺は聞いてなさそう。

 

メタボ会ゾーンは、激ウマ料理が人を呼び、人口過密になっていた。

『亀八の味噌でうどん』とか、ちょっと殺人的な料理を作るもんだから、あっという間に、中毒者が蔓延(まんえん)してる。ともっちさんには、『この味噌で関東を制覇する』野望でもあるのだろうか。と勘ぐりたくなるくらい、亀八の味噌は美味い。

甘いのあんま好きじゃない俺が、「甘いのに美味い」つってんだから、本当に美味いのだ。

 

このころになると俺は、酔っ払って騒ぐのもひと段落。

ちょっと離れたところから、みんなを見たりしてた。

たくさんの笑顔を見ながら、今、自分がこの空間に居る幸せをかみ締めてるうちに……

 

いや、この話は最後に書いておく。

 

んで、おセンチな気分も長くは続かないのが、かみさんのいいところ。

来たときから気になってたモノへ、俺の心からゴーサインが出る。なお、このゴーサインは呑んだ酒の量に比例してスイッチが軽くなる性質を持ってるので、俺と一緒に呑む人は覚えておくと、何かと役に立つぞ。主に、要らんことを始めた俺から逃げる時に。

つわけで心の声に従い、木登りをはじめる41歳。

なんか、俺のアタマが見当たらないんだけど、誰か知らない?

 

木登りおっさんの消えた頭部には、誰もビタイチ目をくれず、宴はまだまだ続いてゆく。

前半から呑んだくれてる、よしなし先生とムラタは、すっかり真っ赤っか。

後ろでは飼い主ちゃん、ナオミ、パンダちゃんの女子会が開かれてる。もちろん聞いてたわけじゃないから、今、写真を見て適当にでっち上げてるだけだ。本当はたぶん、酔っ払って他愛のない話をしてるんだろう。

そしてそれが、とても楽しいってコトだけはわかってる。

 

不思議ランタンの明かりの中、まったりモードで談笑してるね。

俺はたぶん、この時すでに酔いつぶれてるか、別の木に登ってたと思う。

あと、OTOさんがだいぶん酔っ払って、軽くぶっ壊れてたのは覚えてる。

 

おーがは普段、酒を呑まない。俺やマルが遊びに来た時くらいのものだろう。

仕事がらみの鬱陶しい飲みばかりなら、誰だって酒なんか好きじゃなくなる。俺だってきっと嫌いになる。ところがこの日、おーがは初めて、『長い付き合いじゃなくても、会ったばかりでも、気持ちのいい男たちと呑む酒ってのは、こんなにも美味いんだ』ってことを、身を持って知った。

おーがは目をキラキラさせて叫ぶ。

「なんやこれ。なんや、この最高の空間! なにこの楽しい村っ!」

ちょっと自慢させてもらえれば。

俺はもう、何年も前から、こんな宴会ばかりやってるんだぜ。

 

この後もずいぶんと騒ぎ、呑み、しゃべり尽くし。

たぶん日付が変わるか変わらないかくらいに、俺とナオミはテントに入って、シュラフにもぐった。他の連中も、ある者は寝たり、ある者は起きてしゃべったり、いいだけ呑んだりと、みな好き勝手にやってたようだ。そしてそれは、まさにこの宴会のメインテーマであり、イチバンいいところ 。

俺は幸せな気分で、どうにも重くなってきたまぶたを閉じる。

最高の夜は、こうして更けていった。

 

 

明けて翌朝。

二日酔いのアタマを振りながら、のこのこ起きてみると、

大部分の連中が撤収を終えて、帰り支度を整えていた。

 

リーダーは相変わらずの七輪で、朝からコーヒーを沸かしている。

ちゃっかり、ナオミももらってる。

一度起きて水を呑んだ俺は、もう一度シュラフにもぐって二度寝をかます。

当然、今日一緒に走る予定の、ムラタとタカシは待ちぼうけ。

タカシ、ムラタと、こちらは今日のうちに帰路へつくろろちゃん。

 

マスター、かっくん、ポコさん、そしてメタボ会の皆さん、楽しい時間をありがとう!

 

と、俺が寝てる間に話がついたらしく。

持って帰ろうとしていたゴミを、地元のボランティアの方が引き取ってくれた。

ありがたい話だ。

 

最後に集合写真を撮ったら。

帰るもの、走るもの、それぞれの方角へ走り出した。

 

 

山口のダチ、デコがてめぇのブログで、「琵琶湖あたりで呑むか」と声をかけた。しかし、本人は仕事で来られなくなった。つっても最初から、企画じゃなくて『声をかけただけ』だから、責任もへったくれもない。本来なら、話としてはそこで終わりだ。

だが、『かけられた声』に反応し、行く気満々になった茨城のバカが、話を引き継いだ。

引き継いだつっても、よしなしはただ、自分のブログで『3日の夕方、琵琶湖でキャンプする』と書いただけ。そして、同じくデコの言葉に反応していたバカどもが、それにパクっと食いついた。あとはバタバタと参加者が増えてゆく。連鎖反応ってヤツだ。

気づけば日本各地から、アタマの悪い連中が集まり倒し。

 

大宴会。

 

企画立案もなく、仕切る人間もいない。ひとりひとりが、ただ、てめぇ勝手に集まって、酒呑んで騒いだだけ。誰も気を使ったりしてくれない。誰も『楽しませて』なんかくれない。自分で居場所を見つけて、あるいは作って、自分で楽しむだけ。

そんな中、みんなが最高の笑顔で笑っていた。

『誰のおかげ』でも、『誰のせい』でも一切なく。

全員が全員、『自分が』行きたいから集まってきた。『自分が』呑みたいから飲んだ。『自分が』騒ぎたいから騒いだ。『自分の』やったことだから、後片付けした。そして、全員が撤収したあとには、ゴミのひとつも落ちてない。

俺がずっと夢見ていた宴が、そこに、現実としてあった。

 

俺はあの夜、呑んで騒いでるバカで気持ちのいい連中を遠くから眺めて。

いいか、笑うなよ?

不覚にも、涙が出たんだ。

 

本当に楽しい時間だった。

それぞれ勝手に集まっただけだから、礼なんて言うのはおかしいかも知れんが。

それでも、心の底からありがとう。

生まれて、生きて、単車に乗って、俺と出会って、笑ってくれて。

 

またいつか、どこかで。

こういう形じゃなくても、もしかしたら差し向かいででも。

また、おまえらと呑めることを、心から願う。

 

 

五日目に続く

 

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