solo run

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山国志

2008.08.15 周防(すおう)の国の三豪傑 その一

 

ひとり旅の朝は、バカみたいに早く目覚める。

なので日が昇りきる前に撤収の準備をし、日が昇ったところで濡れたものを乾かしながら、タバコをすったりトイレに行ったり、こまごまとした準備。あわてずのんびり、ゆっくりと時間を使う。普段なら面倒でやらないようなことが、旅の朝には充実した儀式に感じるから不思議だ。

まぁ、俺のドタマのつくりが単純なだけなんだけれど。

 

ごみも残さず片付けたら、さぁ、出発だ。

 

途中のコンビニで、朝飯を食う。

ざるそばと山賊おむすび。

西でしか見かけないコンビニ『ポプラ』には、この旅の間中、お世話になることになる。

 

起き抜け30kmほど走ったら、道の駅『シルクウェイにちはら』に到着。

ここで凸(でこ)ちゃんと待ち合わせてるのだが、なんでこんな軽トラの影に置いてるかというと。

 

天敵がいたから。

なんかジロジロみられてたので、いやな感じがしてあんな所に停めたのだが、それでもヤツらには足りなかったようだ。まっすぐこっちへ向かってくると、R1000の周りをぐるっとゆっくり徘徊して、休憩所でタバコを吸ってる俺の方にもじろりと視線をくれて、ことさらゆっくりと去っていった。

もちろん、中指立てるなんて下品なことはせずに、笑顔で見送ってやったことは言うまでもない。

 

デコちゃん待ってる間に暇なので、ヘルメットのダクトから侵入した蜂の屍骸を掃除した。

屍骸は簡単に掃除できたんだけど、そんなことよりもはずした内装の臭さに、しばし唖然。

「これは早急に対策が求められるなぁ」

とゲッソリしていると。

 

デコちゃん登場。

初めて会うデコちゃんは、最初俺に気づかずに暑さでしかめっ面をしてたので、こりゃぁトッポいヤツなのかな? もしかしたらひと悶着あるか? などと笑顔で身構えてしまったが、俺が「よう、暑いねぇ」と声をかけると、「あれ、かみさん。いつのまに!」と言いながら相好を崩す。

その人懐っこい笑顔に、俺は一瞬でこの男が気に入ってしまった。

 

さて、それじゃあ一緒に走ろうか。

つわけでとりあえず軽く走ることになったのだが、デコちゃんが『国道を中心にしたおとなしいルート』を選択しようとしたので、早速、異議を唱える俺。だって地図を見たら、曲がりくねって楽しそうな県道とか農道が山ほどあるんだぜ? これを無視するのは酷だよ。主に俺に対して。

つわけで「こっちの曲がった道を行こう」と提案すると、「俺はこっち走ったことないから、かみさん先導してください」という話になる。地図を見直し、デコちゃんのアドバイスも参考にして、大体の見当をつけたところで、俺が先になって走り出した。途中、詰まった車をいつものようにぶち抜きながら

「あ、もしかしてデコちゃん、あんますり抜けとかしないかな?」

とミラーを確認。

 

普通についてきてるので、これなら問題なかろうと、少し抑えつつも、あまり遠慮しないで走る。

ちなみに上の写真は、最近得意の走行中フリーハンド撮影の、後ろ撮りバージョン。

 

津和野の温泉街を抜けたら、あたりをつけてた県道13号へ出て、走り出したのだが。

これまた大正解。

山口県にいる間中ずっと思ってたことなんだが、こっちは高速よりも下道のワインディングがめちゃめちゃ楽しい。広くて走りやすい道が伊豆箱根並みの高速ワインディングを形成し、そのワインディング同士を、グネグネと節操なく曲がる筑波パープルラインクラスの道がつないでるのだ。

つまり、いろんな種類のワインディングを、延々と走っていられるのである。

スーパースポーツに乗ってて、これほど楽しいことがあるだろうか? いやない(反語)。関東だとワインディングへ行くまでの道がひどく退屈だったりするが、こっちではそれが筑波山や赤城山クラス。さらに気持ちのいい広い道は、それこそトップエンド200オーバーの高速ワインディング。

曲がり道特捜隊にとっては、よだれがリッター単位で流れ出すような道ばかりだ。

 

曲がって曲がって絶好調の大ご機嫌になりながら、M109Rのデコちゃんが離れると、それを待って少し休憩。デコちゃんが来たら、また走り出して、曲がる、曲がる、曲がる。何度繰り返してもなかなか終わらないワインディング三昧に、俺はもう、軽く狂気さえ帯びてくる興奮っぷりだ。

このT字路で明らかに違うとわかってるのに、

「デコちゃん、まっすぐ行こうよ、まっすぐ」

と無謀な提案をする俺に、デコちゃんは苦笑しながらもうなずく。ここ読んでて俺の性格なりはわかってるから、あきらめも早いんだろう。冒険の予感にワクワクしながら細い道を走り出すと、残念ながらあっという間に道が終わってしまった(残念なのはドタマのほうです)。

デコちゃんに、『俺が道に迷うシステム』を見せられたのが、唯一の収穫か。

しかし、その途中で面白いものを見つける。

なんか祭りでもやってるのかなぁと思ったら。

 

ちょ、カカシ!

なんと、『カカシ祭り』という、需要の方向性が見当たらない黒ミサチックな祭りが、ひっそりと開催されている。ひっそりつーか誰もいない。国道沿いに大量のカカシを 車座にしてただ漠然と置いてあるだけなのだ。何がしたいのか、何をどうすればいいのか、俺にはカイモク見当がつかない。

この町の平穏を、今はただ祈るばかりである。

 

カカシショックの後も、曲がり道はまだまだ、わんさか?がっている。

結局、萩までおそらく30km以上、そんな快適ワインディングを駆け抜け、萩から国道191号線に乗る。普通ならこれでワインディングは終わっちゃうところだが、山口をナメちゃいけない。 首相を何人出したと思ってる。ここから国道を南下して行く先には、まだまだワインディングがあるのだ。

道路族をナメんな(いろいろと問題発言です)。

ここは、萩あたりかな?

 

デコちゃん。

俺の強引なワインディング優先の計画にも文句言わず、ワインディング入った瞬間に置いていかれても文句ひとつ言わず笑顔で付き合ってくれる 、やさしい男だ。そしてデコちゃんの先導で国道を抜けたら、山口の誇る名所、秋吉台のカルスト台地が俺を待っていてくれた。

そう、俺が去年二回も訪れておきながら、雨と霧でまともに走れなかった曲がり道である。

 

秋吉台の入り口で休憩。去年とは逆側から走ることになる。

 

デコちゃん。

一服入れたあと、「ここからは一本道なんで、かみさん、好きに走ってください」とデコちゃんが言ってくれた。曲がり道特捜隊としては当然、二つ返事でぶんぶんとうなずき、ここからは一切デコちゃんを気にしないで走り出す。この日はじめて、アクセルを一速で全開にした。

とたんに、ふわりとフロントを持ち上げるR1000。

内心ちょっとビビりつつ、少しアクセルを絞ってフロントを落とした後は、秋吉台のワインディングロードをガンガン攻める。点在する車をかわしながら、ついに気持ちよく晴れた念願の道を、ガキみたいにはしゃぎながら攻め、何台か車が詰まったら、いったん停めて景色を写真に収める。

That's カルスト台地。

 

完璧にピーカンではないけど、それが逆に暑すぎなくて走りやすい。

 

絶景を眺めてるうちに、前がクリアになったら。

 

また、走り出す。

 

攻めて、撮影。攻めて、撮影。

繰り返しながら、秋吉台を満喫した。

 

秋吉台の出口で、タバコをすいながらデコちゃんを待つ。

この後は、去年、野宿してるところを警ら中のオマワリに職質された、思い出の道の駅「みとう」へ。そこで待ってるはずの山口が生んだ最強のバカ、ゆっちょむと一緒に走るのだ。アレから一年ちょっと。思えばあの時はまだ、ゆっちょむの本当のバカさを知らなかったのだなぁ(遠い目で)。

 

秋吉台を越えてデコちゃんがやってきたら、さぁ、道の駅へ向かおう。

道の駅「みとう」に到着し、国道から右折して入ろうと右折レーンを走ってると、対向から一台の単車がやってきた。俺らの目の前で曲がり、片手を挙げながら道の駅に入っていったその単車は、ZZR1200という、名機ZZR1100の後継機にしてはあまりに不人気だったマイナー車。

ま、正確な後継機はZX12Rだろうから、1200はまさに時代の生んだあだ花だ(言いすぎです)。

もちろんそんな変態バイクを駆るのは、山口最強の変態、ゆっちょむだ。

「お−す!久しぶりぃ!」

「どーも!」

簡単な挨拶を交わすと、そのまま三人でバカ話ダベリングタイム。もっとも、会うのは一年以上ぶりでも、しょっちゅうネットで会話してるからね。あんまり久しぶりのイメージがない。言っちゃえばデコちゃんなんてはじめて会ったのに、向こうは俺のコト知ってるし、俺もすぐデコって呼んでたし。

PCとかインターネットってのは、便利なツールだね。

 

しばらくしゃべったら、どこかに走りに行こうという話になるのは、単車乗りなら当たり前。

ゆっちょむのバイク便みてぇなZZR1200に先導してもらって、観光名所、角島を目指す。

 

カメラを向けると、必ず何かやらなきゃ気がすまない、ゆっちょむの芸人魂。

 

空が、気持ちよく晴れ上がってきた。

ゆっちょむとデコ(この辺から表記が呼び捨てになる)は、俺が雨男だとかとんでもない言いがかりで俺を責める。「かみさんが山口に来ると、必ず雨じゃないですか」言うのだが、基本的にその土地の天気の責任は、その土地の人間に帰結する(そんな説はありません)。

どう考えても責任は山口組の三人にあると思うのだが。

 

しばらく走って、件(くだん)の『角島』に到着。

地元の人間ならではの絶景ビューポイントに案内してもらい、単車を降りて海の方を見た瞬間

強烈に美しい、自然と人工物のコントラスト。

一瞬、言葉を失った俺は、心から浮かんでくる賞賛の言葉をそのまま口にした。

「やっべ、最高速アタック向きの、すげぇいい道じゃん」

すぐさまゆっちょむが、ゆっちょむの分際で俺に突っ込みを入れる。

「かみさん、普通、この景色を見た人は、真っ先に『綺麗な景色だなぁ』とか言うんですけどね」

だから、最高速向きのすげぇ綺麗な道だって言ってるじゃん。

 

橋の両脇、本土側の左には、遊歩道と絶景が広がる。

 

右側には、プライベートビーチみたいな美しい浜。でも、ここで泳ぐのは有料なんだそうだ。

 

絶景ビューポイントにて、デコとバカ。

 

んで、しばらく景色を堪能したら、ゆっちょむの先導で角島に向かう。

「あちらに見えます一番高いのが、私の中指でございます」

くらいは言ってるはずだ。こいつ、ホンキで最高にステキなバカ(@mioちゃん)だから。

 

橋からの海は、しまなみ海道で見慣れたはずなんだが。

ここの海は、強烈に蒼(あお)い。

ちょっと胸が締め付けられるくらい美しく、蒼い。

 

でも上を走ってるのは、やっぱりバカ。

 

お盆でキチガイ沙汰に渋滞してる中をすり抜け、なんとか角島に到着。

とにかく、クソ暑い。しかもヒトが多いからイラってすることがある。だが、それを補ってありあまるほどの眼福、『水着のねぇちゃんたちのしどけない姿 』にヤロウ三人で鼻の下を伸ばす。つーか連写モードにして、逮捕されるくらい撮りまくってやりゃよかった。ゆっちょむが買いそうだし。

ここでイカ焼きだの串焼きだのを食ったら、さぁ、とっとと帰ろう。

大勢のヒトが鬱陶しいし、暑いし、酒飲みたいから。

 

給油をして、途中のコンビニで休憩を入れる。

 

デコ先頭に、本日の宿であるヤツの家まで。

山口はとにかく、どっちを見ても海か山だから、ただ漫然と走ってるだけでも気持ちいい。

しかも。

会ったばかりなのにそうとは思えない、えらく気持ちのいい男。

去年、数時間話しただけで、会うのはまだ二回目なのに、かわいくてしょうがない弟分。

そんなやつらと一緒に走ってるのだ。普段ならギブアップしかねない、ポジションのきついスーパースポーツで、車の後ろをおとなしく走ってるだけって状況なのに、もう、楽しくてしょうがない。 買ったばかりなのにすでにかなり汗臭いヘルメットの中で、俺はにやけを止められなかった。

天気もいいし最高だな。

 

と思った矢先、がっちり雨が降ってきた。

「やっぱかみさんが山口に来ると、雨が降りますねぇ」

と、相変わらず見当違いのヌレギヌを押し付けるゆっちょむの先導で、なんかの施設にあった屋根つきの駐輪場に入る。高校生くらいのお兄ちゃんが、ジャイアニックに自転車を停めて携帯をいじってたのだが、俺らが入ってくると驚いて自転車を移動し、場所を空けてくれた。

まぁ、坊主頭のガラ悪いふたりと、明らかにどう見てもちょっとかわいそうなヒトの三人組だ。

無理もない。

 

駐輪場で雨宿りしながら、デコは携帯で天気の情報、ゆっちょは仕事の電話、俺はぼけっとしながら、しばらく雨のやむのを待つ。 ヤロウ三人で雨宿りしながらくだらない話をするのだが、それがまた楽しい。そのうち小降りになってきたので、チャンスとばかりに走り出した。

 

デコの住むあたりは海沿いだからか、こんな風景が続く。

なるほど、今まで走ってきた山口の道ならスーパースポーツがいいけど、ここならクルーザの方がハマるだろう。つーかデコの後ろ姿を見てたら、なんだかクルーザが欲しくなってきたよ。リセールバリューの高いハーレィでも買ってみようかね。半年くらい乗っても、値段落ちないだろうし。

でも転がしてベコベコにしたら、さすがのハーレィも値段下がるけどね。ほっとけ。

 

ようやくデコの家に到着したら、ズカズカと入り込み、嫁さんへの挨拶もそこそこに風呂を借りる。

上がったら、交代で風呂に行ったゆっちょむなんぞフルシカトで、とっととビールオープン。

いや、俺だってデコが「かみさん、ビールどうぞ」言ってくれた時に、一回は「いや、ゆっちょむ出てからでいいよ」って断ったんだぞ? 鋼鉄の意志を持って。なのにデコが「ま、いいんじゃないっすか?」つーんだもん、そりゃ、「ま、そうだな」って呑むだろ、普通?(鋼鉄の意志、弱すぎです)。

デコと乾杯して呑み、風呂から出てきたゆっちょむともう一回乾杯したら、さぁ、宴の始まりだ。

 

もう出来上がってる、ゆっちょむ。

俺は、今回のツーリングに出て初めての屋根のある場所での宿泊であり、かつ、夜なのに明るい場所で呑んでるもんだから、完璧にリラックスしてしまって、poitaさんの得意技を繰り出す。 平たく言うと、早々に横になりながら呑んだくれたのだ。初めての家なのにそんな気がしない家で。

これがまた、気持ちいい。

うれしくなった俺は、酔っ払ってまたいつもの、電話攻撃を開始する。標的はよしなし、ナリさん、なっこ妹、ミチル君、フラ公、mioちゃん、N。まるで多国籍軍を髣髴(ほうふつ)とさせる連続攻撃を繰り出す、かみ38歳@テレフォマニアック。AUへの貢献度は計り知れない(スズメの涙です)。

 

喰って、呑んで、しゃべって。

ハイテンションで騒ぐ時間が過ぎると、その後には穏やかなくつろぎの時間がやってくる。まるで古いダチの家で呑んでるかのように、それぞれ思い思いの格好で座り、あるいは横になる。TVをみたり携帯いじったりしながら、思い出したようにバカ話をして、けらけら笑う。

酒も美味いが、こんな時間はホントに美味い。

やがて呑み疲れ、しゃべりつかれて、誰からともなく眠ろうという話になる。

 

三日目の楽しい夜は、こんな風に幕を閉じた。

 

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