solo run
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山国志
2008.08.17 周防(すおう)の道、奥出雲(おくいずも)の月
さて、また、ひとり旅だ。 ダチとすごす時間は最高だけど、それと同じくらい、ひとりの旅も楽しい。まずは昨日、雨で行きはぐった羅漢へゆこうか。朝一番、ドル邸を辞したあと、通勤ラッシュなのか軽く渋滞気味の2号線を、昨日ドルに先導された道を思い出しながら、俺はゆっくりと走り出した。 朝もやの向こうに山が見える。川の水もきれいだ。山口は本当に俺の心をそそる。
途中、工事の看板に待ち時間が出てたので、カウントダウンよろしく、3、2、1、GO! 朝から元気だな、俺。
山々は、今日も美しい。
天気も上々だ。
しばらく走ってると、どうにも『道が違う気配』がしてならない。 正確には、青カンバンに出てくる地名が、明らかに羅漢方面ではない。 停まって位置を確認すると、どうやらここは国道187号線の、県道12号線との分岐近く。 つまり、ものすげぇ早い段階で道を間違えてたことになるわけだが、ひとり旅にそんなことはたいした問題じゃない(そこは素直に反省しましょう)。地図を見ると、 とりあえずこの先にある県道42号線が延々と20kmほど曲がりくねってるので、まずはそこを走ってみることにした。 田園風景の中を走る道は心地よく、知らないうちにアクセルを握る手がゆるむ。
こういうまっすぐな道ではのんびり走って写真を撮り、曲がりだせば楽しく攻める。 「朝からこんなに楽しくていいのかなぁ」なんて思いながら、風景を楽しみ、道を楽しみ、止まって地図を見ながら次のルートを探すことを楽しみ。旅に出てから何日か経ってるのもあいまって、俺はもう、一生こうして生きてゆきたい思いに駆られながら、県道42号をひた走る。
県道307に入り、匹見峡の看板が出てきたあたりから、道が林道チックになってきた。 もっとも、急ぐ旅じゃないし、速度を落として景色を楽しみながら走ればいい。そんな走り方をするときは、さすがにR1000は走りやすいとは言えないけれど、軽くてパワーがあるから、3速か4速に放り込んでやれば、後はオートマで走れる。道は山を越えくだり始めた。 と、道沿いに沢が流れている。 朝、ツーリング、沢とくれば、やはりやってみたいことがあるだろう? なので、ちょっと広がった場所に単車を停める。
こういう場所は、朝だと特に気持ちいい。
沢の水を汲んで。
「せっかくだから」と持ってきたオプティマスでお湯を沸かす。 それから、ふだん家で使ってる、『一杯づつパックされた、使い捨てのドリップコーヒー』を出す。
お湯を注ぐのが難しく、ドリッパーからあふれたお湯まで入った、『コーヒー的な何か』の完成。 携帯いすに座って、朝の空気と鳥の声を楽しみながら、ゆっくりとコーヒーを呑む。スタイルだけ真似てみたのだが、思ったより気持ちよく、おいしい。クセになりそうな勢いだ。ストーブ持って来て正解。今度はランツァにつんで、もっと山の奥の人知れぬ沢の水で飲んでみたいね。
てな感じで『コーヒーより酒』な男が自分に酔っていると、ドコドコとVツインの音。 いかにもな大量の荷物を積んだハーレィが、俺の前に停まる。こっちを向いたおじさん、「この先も、ずっとこんな調子?」「いや、もう2.3キロ行けば、広い道に出ますよ」「そっか、よかった。ずっとこんなかと思って不安になってたんだよ」「ははは。それじゃ、気をつけて」「そっちもね。それじゃ!」 荷物満載のハーレィのおじさんは、楽しそうに走っていった。 「あぁ、やっぱりクルーザもいいなぁ」 R1000のセパハンを少しだけ恨めしげに見てから、俺も後片付けをして出発しよう。
国道191とぶつかったトコにある、道の駅『匹見峡』で、タバコとトイレ。 天気は上々と言うよりクソ暑い。なので、少しでも涼しそうな八幡高原めざして191を東へ走り、10kmほど走って307号を北東へ。ところが、思ったほど涼しくないので、そのまま国道186を東へ。途中で地図を見ると、県道40号の説明に「アップダウンが楽しい」と書いてあり、快走路の表示。 迷うことなく40号へ入り、ひたすらワインディングを楽しむ。 国道へ出て、軽く落ち着いた道を走りながら、道の駅「舞ロード千代田」へ。
どぶろくは、甘いのが多いんだよなぁ。
ここでまた地図を見ると、ダムがあるじゃないか。「ダムの周りは楽しいんじゃないか」と、いや、今までの道も十分楽しいのだが、ワインディングをたくさん走るうちに、さらに貪欲と言うか、もっともっと、と言う気持ちになっていたので、土師(はじ)ダムに向かって走り出す。 ダムの周りの道を快走し、国道に出たところで、飯を食うことにした。 もちろん、今回の俺の最大の味方、ポプラで買う。わざわざポプラを探し出した。 そう言えば、ここはもう広島県だ。 なのでお好み焼きを買ってみた。 コンビニの粉モノは決しておいしくない。さすがの広島、さすがのポプラもこの定説は崩せなかった。要するに、あんまり美味くなかった。まぁ、ワインディングがこれだけあれば、名物なんぞ喰わなくても俺的には問題ない。それよりどこを走ろうかと、地図を見て美味そうな道を探す。 と、県道29号の部分に「峠越え」と書いてあった。 その先も、そこそこグネグネしてるから、「これならよかろう」と乃美までの10kmほど29号を走った。山陰によくあるワインディングで、それほど印象深い道ではない。と言うことはつまり、『関東で言えばめちゃめちゃ美味しい道』ってコト。ホント、このあたりはSSのためにあるような道ばかりだ。
広島に来たんだから、尾道まで行ってみよう。 お腹いっぱいの俺の脳裏に、突然、そんな言葉がひらめく。きっと高校生のころ好きだった原田知世のせいだ。俺は大林宣彦監督の『時をかける少女』『さびしんぼう』『転校生』、いわゆる尾道三部作で初めて、尾道と言う地名を知ったのだ。大林作品、あんまり好きじゃないけど。 ま、アテのある旅じゃないし、ひらめきにしたがって国道375号を南下。 ガンガンすり抜けて山陽自動車道の下をくぐり、山口組いわく「すげぇ混んでる」国道2号線に出る。つーかね、山陰山陽の人間はワインディングに恵まれすぎてるだけじゃなく、交通量にも恵まれすぎなんだね。さんざ脅かされた2号線は、関東のレヴェルじゃ混んでるうちに入らない。 途中、ポプラが見つからなかったので、仕方なくイレブンに入って休憩。
2号線を150〜160くれぇですっ飛ばしながら東へ向かっていると。 瀬戸内海だ。 このまま、しまなみ海道を渡れば四国は目の前だ。一瞬、このまま四国へ行こうかと思ったが、まだ山陰山陽のワインディングを堪能しきってないし、なにより海沿いは暑い。夏に野宿するなら涼しい山の方がいいに決まってる。なので尾道バイパスから184号を北に折れ、そのまま山を目指す。 さようなら、原田知世さん。
走ってる途中、道の駅の名前がステキだったので、入ってみた。 道の駅『クロスロードみつぎ』 でも、この写真ではわからないけど、誘導が出るくらいクソ混んでたので、人ごみの嫌いな俺はタバコ一本吸っただけで、すぐにここを後にした。184号を行くと戻っちゃうし、486も北へ向かわず岡山方面に行ってしまう。なので、486を途中で県道24号に乗り換え、北の山間部を目指す。 20kmほど北へ走り、国道432にぶつかったところで、さらに北へ。 上下(じょうげ)と言う珍しい名前の町で、コンビニ休憩。 ここからさらに北上する。 途中の道の駅にも寄ってみたが、ここらじゃまだ暑いから寝たくない。日も高いしね。
ここは庄原の手前あたりかな?
きれいな景色には事欠かないが、さすがに見飽きてきた。 ただ、道が広くて走りやすいのはありがたい。途中に、日本一小さい自然科学博物館、別名『モグラ博物館』なんてのがあり、めちゃめちゃ興味をそそられたんだが、この段階で4時前くらいなので、「今からじゃゆっくり見れないだろう」とあきらめ、さらに北へ向かう。
休憩のときに地図を見ながら「おや、ヤマタノオロチ伝説の息づく渓谷なんてのがあるじゃないか。シリアルナンバー八百万飛んで一のかみさんとしては、やはり大先輩の伝説の地は見ておかないとなぁ」とかくだらないことを考えてたので、目標は奥出雲あたりに決まっていた。 で島根県との県境手前に着いたとき、まだ時間的に余裕があった。ツーリングマップルに『高原風景グッド』とダービー・ザ・ギャンブラーみたいな言い草で書いてあったのを見て、県道110号に入り込んでみる。道も曲がってそうだし、期待できるかなぁ……
うん、ごめん。散々きれいなワインディング走ってきて、シメにこれはヤだ。 とっととUターンして、国道432号を走る。 すると、三成(みなり)あたりの街中で小高い丘を発見して、そのまま上ってみた。 なんか運動公園らしい。 「見晴らしもいいし、ここで寝てもいいかなぁ」 とも思ったのだが、まだ日もあるし、もう少し走りたい気もしたので、さらに先を走ってみる。
廃線かな? ちょっと雰囲気があっていい。 しかもこの辺は、軽い高速ワインディングだから、すっ飛ばせる。 432号を安来の方へ向かって走っていると、ソバ屋を兼ねる駅があると言うので行ってみた。 亀嵩(かめだけ)駅は、先代の駅長さんが駅で手打ちソバを打ってたのが評判になって、ソバ屋を兼ねる駅として全国的に有名になった。映画の舞台にもなったことがあるそうだ。まぁ、正直俺にはどうでもいい情報なんだけど。
出雲のソバは割子。 大盛り頼んだら、三枚のところが四枚来た。 好きなソバで腹を満たしたら、二日目に見て感動した宍道湖あたりまで抜けちゃおうか。「あの夕日にギリギリ間に合えば、今度こそあそこで一泊してもいいな」なんて思いながら走っていると、道の駅があった。「入ってたら夕日に間に合わないかもなぁ」なんて思いながら、建物を横目で見ると。
よし、入ろうか。 酒蔵と書いてあったら、かみ@酒の神さま的に入らないわけには行かない。中に入ってお土産つーか今晩のお酒を物色してたら、思いのほか疲れが出てることに気づいた。なので宍道湖の夕日はあきらめて、ちょっと早いけどここで一泊することにしよう。
温泉スタンドがあったけど、これはポリタンとかもってきて詰めるやつだと思う。 ここで裸になって温泉浴びてたら、確実に通報されるだろう。 「ネタ的には美味しいけど、撮影係がいないんじゃダメだ」 とアサッテの方向で自分を納得させたら、単車を裏の駐車場に停めて、今晩の宿を作る。 作るつーか引っ張り出す。
「酒蔵の裏ってのも、なかなかオツだねぇ」と、今日一日酷使してきたR1000を停め。
マットとかお泊りセットを引っ張り出す。 バイクから垂れてるヒモは、バッテリにつないだ携帯電話の充電器だ。
ちなみに、川を挟んで向こうからは、俺の姿が丸見え。
ま、俺は気にならないけどね。むしろ向こう的にメイワクかも知れん。
さて、それじゃあここから、ひとり酒を楽しむかみさんの変遷をたどってゆこう。 まずは、まだ日も高い夕方。 ちょっと疲れてるかな? でも、一日中ワインディング走ってるから、幸せそうだね。
ペットボトルにガストーチの炎をぶちかまし。
コップを作る。
日本酒の酒蔵の裏で焼酎を出す。空気読む気もさらさらない暴挙。
つまみは唐辛子味噌。ご自慢のチタンスプーンで食す。
めんどくさくなっちゃうと磨かないから、事前に歯ブラシも用意。 もちろん、歯磨き粉なんて持ってきてないから焼酎で磨く。俺の開発した、『磨いた後も、酒だけは美味しく呑める』と言う、アカデミックにしてノーベル賞チックなアイディア。超天才じゃね?
やがて、出雲の夕日が空を染め。
ひとり宴会スタート。 せみの声やクルマの通る音なんかさえ、心地よいBGMだ。
途中、飽きたらお茶パウダーを入れてお茶割にしてみたり。 少し目がイキはじめてる。 やがて。
泥酔。 ヘッドランプのつけ方まで間違っちゃってる。 狙いじゃなくて素でやってるところが悲しい。
.呑んだくれて、トイレに行きたくなり。 トイレから帰ってきたら、ちょっと幻想的な感じだったので撮ってみた。 ただの蚊よけキャンドルなんだけど。
「気持ちいいなぁ」 つぶやきながら、大きく伸びをして転がると。 空には、出雲の月。 心地よい夜風の中で、月を相手に。 俺は至福の時間を過ごす。
ひとり旅は、いい。
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