solo run

風に吹かれて

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2010.08.21 七日目(後編) 志賀草津〜十日町〜帰宅

―みんな、走れ!―

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コントラストのくっきりした風景が、目の前に広がる。

相変わらずの青と緑で、もう少し飽きてもいいようなもんだが、いや、実際ここに来るまでは、「絶景はおなか一杯」って感じだったんだが、空気の澄み具合とか緑の艶(つや)がものすげぇ綺麗で、やっぱり感嘆の声を上げてしまう。

美しいものは美しいんだから仕方ない。

 

景観を見るための簡易駐車場……つーよりすれ違い用の退避に近い場所で停車。

 

停まってじっくりと、美しい風景を愛でる。

 

振り返れば、今まで走ってきた道。

 

眼下に広がる風景。

 

走り出して一週間、汚れてくたびれてはいても、元気な相棒。

ちなみにココ、渋峠は日本の国道の最高地点らしい。

「あれ? イチバン高いのは塩山のあたりじゃなかったっけ?」

と思ったが、アレは『日本最高所の車道』で、国道でも県道でもなかった。

歩道も含めちゃうともちろん、富士山が最高所。

 

写真を撮って一服したら、気持ちのいいワインディングを走り出す。

ハイアベレージの高速コーナー、ツイスティな低速コーナー、そして駐車場や施設があって人通りも多い観光区間。いろんな顔を見せながら、志賀草津道路は志賀高原を駆け抜ける。俺の方も、背中を丸めてリーンウィズですっ飛ばしたり、ハングオフで遊んだり、クルマの後ろを走ったり。

いろんな走り方で、フューリィとの対話を楽しむ。

ソロってのは(基本的には)比べたり競ったりする相手がいないから、こうして純粋に単車とのコミュニケーションを取れるのが楽しいし、自然とそういう走りになる。それで『何かがわかる』とか、『もっと上手くなる』とか、そんなことはどうでもいい。

楽しい相手と呑んでるトキ、「もっと上手に会話を」なんて思わないだろ?

アレと同じだよ、要するに。

 

そんな風に楽しく走ってると、フューリィが「ハラ減った」と言い出した。

コイツはタンクが小さい(それでも12リッターは入るし、燃費もいいんだが)ので、貧乏ランプがついて(残り3リッター)から走れる距離が、頑張って75キロ。普通で60キロくらいか。 志賀草津道路の残りが15キロくらいだから、そのまますっ飛ばしたってガス欠にはならない。

が、オレンジのランプがついたままってのは、精神的に落ち着かないのも事実。

仕方なく、クルマの後ろについて、低燃費モードで走る。

しばらくは「面白くないから、やっぱ飛ばそうかなぁ」なんて思ってたのだが、やがて道がツイスティになると、コレはコレで面白いことに気づいた。そのうち例の、『重力魂』に火がついちゃったかみさん。くだりに入るとエンジンを切り、位置エネルギー走行して遊ぶ。

静かな高原に、タイアが路面を転がる音と風切音だけが聞こえる。

「せっかくだから写真も撮ろう」と、試しにその状態で『片手撮影』を試みたが、さすがにコレはちょっと危ないか。いざってトキにアクセルが使えないのは怖いし、少なくとも俺のウデマエだと、カメラに気を取られて突っ込みかねないのでやめる。

被害のわりに、ネタとしてそんなに面白くないし。

 

そんな風におとなしく走ってると、千葉ナンバーのドカ(たぶん)に追いついた。

彼はクルマを追い抜かないようで、俺に追いつかれても速度を上げる気配はない。こっちも下りだと無音になるシステムを採用中なので、車間をしっかりとって、『突っつく気がない』ことをアピール。競うでもなく、一緒に走るでもなく、ただ、偶然行き会ったヒトとしばらく走る。

たったそれだけのことでも、この気持ちのいい景色の中だと、妙に楽しい。

「千葉ナンバーだから、今までどっかですれ違ってたり、これからどっかで出会うかもな」

そんな想像してひとりニヤつきながら、彼が観光区間で姿を消すまでそうして走った。

やがて、志賀草津道路もそろそろ終わる。

道の駅「北信州やまのうち」に到着。

特産のりんごジュースが名物らしいが、俺はりんごアレルギーなので飲まなかった。

暑いので、フューリィから降りて日陰に入り。

愛機と景色を眺めつつ、地べたに座って一服つける。

と、携帯が鳴った。着信を見ると患者さんからだ。急に容態が変わる可能性のあるヒト、連絡事項が多いヒトには、携帯の番号を教えているのだ。「ありゃ、なんかあったか?」と、最悪、この場から直帰する可能性も考えながら、電話に出る。

すると、電話口で足りる用事だったので、ひと安心。

患者さん的にも、ツーリング的にも。

 

軽く肝を冷やしたところで、また地図を見ながら先を考える。

家の中で地図を見ながら色々想像するんだって楽しいのに、今は「面白そうだ」と思ったら、即座にその場所に走って行けるんだから、俺にとって『これ以上の幸福な状態』ってのは、そうあるもんじゃない。ハナウタ満載で、地図を眺める40歳。

ま、ゴキゲンなオッサンつー絵がどうこうって話は、この際、不問に付していただきたい。

 

ココまで来れば、新潟はすぐそこ。

だが、海沿いはきっとフェーン現象の餌食になってるだろう。もうこれ以上、クソ暑いのはゴメンだ。今は帰って来て冷房の中でレポを書いてるからともかく、このときは一日中ギラギラ灼(や)かれて、日焼けに体力を奪われまくった、熱中症イーシャンテンなのだ。

「山側に行ってみるか」

決めたら、時間もアレだし走り出そう。

スタンドで給油し、東から北へと直角に曲がる国道292号をそのまま走る。

と、時々、ものすげぇありえないタイミングで出てくる合流車に、肝を冷やされる。

「あっぶねぇなぁ。なんか、わざわざ待ってから、ギリのタイミングで出て来てるっぽくねーか? ここらのタイミングってのは、これがデフォルトなのか? それとも俺が、何がしかのローカル・ルールを知らないだけなのか? もしかしてコイツら、単車を見たことないのか?」

失礼なことをぶつくさ言いつつ、国道117号へ。

 

視界が開け、遠景には山々。まーっすぐ走ってるだけで気持ちいい。

が、時刻はそろそろ三時半。

連日、張り切りまくってる猛暑が、今日も俺とフューリィを襲う。

もはや日陰じゃないと停車したくない。

一番ツラいのが、逃げ場所のない信号待ちってな状態だ。

なので色んな道を探すドコロじゃなく、とりあえず涼しいだろう山に向かって、117号をひた走る。途中までは、わりと混んでいたのだが、野沢温泉の看板が見えたので、「あそこを越えればきっと、観光的なクルマはいなくなるだろう」とアタリをつけて走る。

 

やがて、野沢温泉を越えると。

一気に道がガラ空きになった。

こうなると曲率のゆるい117号は、クルーザで走るには、すげぇ楽しい道になる。

景色のいいまーっすぐな道から、時々、高速コーナー。そしてまたまっすぐ。

 

ひたすらその繰り返しなのだが、これがたまらなく気持ちいい。

オフ車だと高速レンジ過ぎるし、SSだと曲がりがゆるすぎて、アベレージがとんでもないことになるだろう。メガスポやツアラーなら楽しいだろうけど、同時に免許の心配をしながら走るコトになりそう。つわけで、ここはぜひともクルーザ乗りに走って欲しい道である。

直線まったり、コーナリングばひゅん! 気持ちいいよー?!

少なくとも俺は、今回走った中で最もクルーザに合う道だと思う。

なので、写真撮りすぎた。

しばらく、117号線の絵を楽しんでもらおうか。

 

もっとも、eisukeさんやマルゾー、よしなしあたりには見慣れた光景かも知れんけど。

 

 

 

 

やがて道は十日町の街中に入り、クルマもそこそこ混んでくる。

二時間ほど走って、ちょっと疲れが出たので、目に付いたコンビニで休憩。

とたんに汗が吹き出し、むわっとした湿気の多い空気が俺を包む。

「こんなん、野宿したら湿度でヤラれて不愉快さで死ぬな」

『40歳整骨師、ツーリング中に死亡。死因は不愉快さ』とか、さすがに願い下げたいので、もうちっと山寄りまで走ることにする。地図を見てみると奥只見が近いから、あのへんの山中で寝ようか。虫を避けたいし、奥只見のスキー場あたりの駐車場なんていいんじゃねーかな?

そう考えて走り出したのだが。

国道117号はすでに、もわもわの暑さに包まれてる。なのでちょっと遠回りになるが、253号線経由で、隣を走る17号へ出よう。そこから352で奥只見に出ればいいだろうと、253号線を右折した。道は山間部を走って六日町に繋がる。

253号線の入りっぱな……だと思われる。

そんな気まったくナシで走ったので、ちょっとビックリしたくらい、わりと面白い道だった。まぁ、俺の場合は混んでる国道とかじゃない限り、基本的に楽しんで走っちゃうので、意見としてはあまり参考にならないかもしれないが。期待してなかったせいもあるだろうし。

山間部で暑さが和らいだのも、評価を上げた理由かも。

平地にいる間は、とにかくもう暑くて暑くて、ガンへこみだったのだ。

 

ツイスト部分を終えて、平地に下ってくると、やっぱりしっかり暑い。

このレポでもう、何回書いたかわからないが、それでも暑いものは暑い。「暑い暑いってうるせぇなぁ」と思うなら、冷房を切って窓を開けてから、もう一回読み返してみやがれ。俺の気持ちが、少しは伝わろうってもんだ(半ギレしてる意味がわかりません)。

てなわけで、ゲンナリしながら六日町に到着。

すかさずコンビニに入って冷気を浴びながら、冷たいコーヒーを飲む。

 

ナンバーがボロボロのフューリィ。

俺にしては珍しく、最近自宅で『いたずら防止に』バイクカバーをかけているのだが、そのカバーを外す時にひっかけて割っちまうのだ。これは小さいカバーしか寄こさなかった(つってもXLサイズ)、バイク屋のタクが悪い。こないだ(ツーリング後)、オイル交換したとき文句言ってやった。

フツーに爆笑してたけど。

タイアははじっこ1センチ残し。使うには前後の車高上げか、フレーム切断が必要だ。

ま、使わなくてもだいぶん曲がれるようにはなった。

 

「どこ行きたいん?」

コンビニから出てきて単車のそばに座り、地図を見ながら今日の野宿場所を吟味してると、トラックから作業服を着たおじさんが出てきて、親切に言ってくれた。気のいい笑顔に、「この人がホモだったら、話のネタとしては非常に面白いんだがなぁ」などと失礼なことを考えつつ。

「や、大丈夫です。野宿場所を探してるだけだから」

「気ままにツーリングってやつか。いいなぁ」

「へへへ、楽しいですよ。ところで、奥只見の方は、もちっと涼しいんですかね」

「どうだろうなぁ。こっちよりはマシだろうけど」

「ここらも暑いですか?」

「暑いなんてもんじゃないよ。今年は異常だ」

ま、確かに今年の暑さも、その中で野宿しようつー俺も、異常は異常だ。

薄汚れたフューリィを見ながら、タバコを一本つけたところで。

 

ふいに。

 

「帰ろうかな」

 

里心が出てきた。

 

「決めた、帰ろ。今日は冷房の中で寝るんだ」

つぶやいて走り出し、六日町から関越に乗る。

あとは関東までイッキだ。

 

陽が落ちるまでに、なるべく距離を詰めておこうか。

でも、そのためにすっ飛ばすのも、なんだかもう疲れた。

いいや、のんびり帰ろう。

関越トンネルを抜けたところで、谷川岳PAに入って休憩。

そこでmixiに、帰る旨を書き込む。

走り出してすぐ、道が混み始めた。「金曜の夜なのに、上りも結構込むんだなぁ」と、変な風に感心しながら、クルマの流れに沿って一緒に走る。ガソリンは上里くらいまで持ちそうだから、混んでるだろうSAは避けてPAに停まりながら走ろうと決めたのが、このあたりだったか。

赤城PA。いつもは赤城高原SAを使うことが多く、ここはたぶんはじめて。

ま、PAだから大騒ぎするほどのものはないんだけど、『赤城つーとマルゾー』みたいなイメージがあるから、なんとなく感傷的というか思い出モードに入る。「旅も終わり」という意識が、余計にそんな気分にさせたのかもしれない。

思い出の中も、そして今も。

やっぱり赤城は涼しくて霧が多かった。

 

100ペースでたんたんと高速を走ってると、上信越との合流がやってくる。

ここらでフューリィの腹も満たさなくては。

上里に入って給油と、最後の休憩。

そのあとも、途中で見つけた二台のバイクと一緒に走ったり、面白いクルマを見ると近寄って眺めたりしながら、100巡航でのんびり走る。それでも、俺はちっとも退屈しなかった。あちこち訪ね歩いた日本中のダチの笑顔や、走り回った面白い道を、思い返して反芻していたからだ。

「帰ったらレポート大変だろうなぁ」

俺は苦笑しながらそうつぶやくと、柏に向かってアクセルを開けた。

 

今夏は距離的には3500キロ程度と、それほど長くは走ってない。

だけど、普段なら一、二箇所くらいしか寄らないダチの家を、たくさん渡り歩くことができた。それは俺にとって、どんなものより、心と身体の疲れを癒してくれる、まさに心の洗濯だった。いや、もちろん美しい景色も、美味い食べ物も、楽しい道も好きだけど。

暑さにやられ、雨にやられ、フルタイム大ゴキゲンとはゆかなかったが、それもまたツーリングだ。

それも含めて、生きてるってことだ。

嫌なことも不合理も、全て飲み込んで走るからこそ、楽しい事にも出会えるんだろう。

 

ひとは、ひとりでは生きていけない。

ひとりで生きてるような顔をしてたって、衣食住のすべてに誰かが関わっている。生まれてから死ぬまで、ひとはひとと関わらなくては生きてゆけないのだ。赤ん坊のまま放り出されれば死ぬ。万が一育ったって、長く生きることは出来ない。たぶん、幸せにもなれない。

幸せのカタチはそれぞれだけど、そこにヒトの関わらない幸せはありえない。

たかが単車で走ってきただけ。何億人もいる人類のうちの何人かと会って、呑んで、しゃべって、笑ってきただけ。ただそれだけのことだ。だけど、それでもこんな風に、いろんな人と出会って仲良くなることができた幸せを、改めてかみ締めることができた。ステキな時間だった。

「俺はこの連中と同じ時代に生まれて、本当によかったな」

そんな風に、ニヤリと笑える一週間だった。

 

さて、ホントに長々と、しかもダラダラと書いたレポートだったが、読んでくれたヒト、ありがとう。

今年の夏は働き者で、どうやら残業が多いらしい。

ロングはしばらくお休みだが、日帰りや一泊あたりでなら、まだまだ走れる。

 

これを読んでちっとでも、「走りたくなって」もらえたら。

そして、そいつと一緒に走れたら。

そんな風に考えて、俺はPCの前でひとり、ニヤニヤしてたりするのだ。

 

よう、一緒に走りに行こうぜ?

生きて、単車に乗れる限り。

 

『風に吹かれて』 了

 

文責:かみ

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