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夏ツーリング

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2012.07.18 五日目(前編) 十和田湖〜由利本荘

〜コインランドリー・ブルース〜

 

なんとか凍死せず、無事に目を覚ますと、朝から抜けるような青空。

「嬉しいねぇ。やっぱ野宿ツーリングはこうじゃねぇと」

機嫌よく起き出して、朝の紅茶を沸かしながら、ハミガキしたり荷物を仕舞ったり。

 

荷物を積み終えたら、呑んだくれたゴミを分別して袋に入れ。

来た時と同じ状態にして準備完了。

まずは湖畔を一周しようと、時計と反対周り(左側通行では、この回り方が湖を眺めやすい)に進んでいった……ところが。周遊する103号は奥入瀬への分岐で102号と交代するのだが、その先しばらく行ったところで通行止めになっていた。

地震の影響なのか大雨の影響なのかはわからないが、通れないんじゃ仕方ない。

 

Uターンして戻り、来た道から南へくだる途中、『樹海ライン』の文字を見つける。

それじゃその、樹海ライン『県道2号線』を走ってみよう。

初めて走る道にワクワクしながら、朝からやけに元気な太陽を引き連れて出発。

 

入りっぱなからどっかん直線だが、心配は要らない。

地図で確認して、この道がそれになりにツイストしてることはわかってる。

 

真っ青な空と、おいしい朝の空気。

大好きな曲がり道は、太陽に照らされて温まっているから、タイアのグリップもバッチリ。

アスファルトの上に思うままの曲線を描きながら、こうして単車に乗れる喜びをかみ締める。

 

お、展望所があるぞ。

停まってはみたものの、展望所の前にはごらんのようにフェンスが張ってある

その先の景色は美しいのだが、フェンスがあまりに色気ないので、早々に退散した。

 

山を下ると、樹海ラインは曲がりを潜め、まっすぐな道が多くなる。

なのでいつものように、こちらもスイッチを切り替えてドコドコと。

 

くだりきって小阪の街中へ入ったところで。

たくさんのノボリが立っていたので、なんだろうと寄り道してみる。

 

するとそこには、奇妙に旧い雰囲気の建物がたっていた。

地図を見てみると、ここは『康楽館』という、日本最古の現役の芝居小屋だった。

もっとも、この時点でまだ、朝の八時半くらいなので、もちろんなにもやってなかったけど。

 

「これが現役の芝居小屋なのかぁ。なんか明治とか大正ロマンの香りがするねぇ」

思わずニヤリ。

ユリシーズのそばで、不思議な感じの洋館や、これから先の地図をながめていると、突然、通りがかったおばさんが、「おはようございます」と声をかけてくれた。プロテクターを着てニヤついてる怪しげなオトコに声をかけてくれるなんて嬉しいなぁと思いつつ。

「おはようございますっ!」

俺も満面の笑みを浮かべて、挨拶を返した。

ジャージを着てウォーキングの最中なのだろうおばさんは、ニコニコとステキな微笑を浮かべて会釈をし、元気に両手を振って歩き去ってゆく。その後ろ姿を見送りながら、こんなちょっとしたコトがなんとも嬉しくて、俺はさらにニヤニヤしてしまった。

おかげで怪しさは、当社比30%増しだ。

 

さて、樹海ラインを走りきったら、その次に行く先は決まった。

五日目ともなると、色々溜まってくるものがある。

そう、洗濯物だ。

こいつをやっつけようと、携帯で最寄のコインランドリーを探す。すると、『ぺり乾ランド 十和田店』という、なんともヒトを食ったステキネーミングの店を発見。「よぉ〜し、今日はペリカンでフルチンだぜ」などと、他人に聞かれたら通報間違いなしのセリフを吐きつつ走り出す42歳。

 

国道を南下してしばらくゆくと、どうやらコインランドリーを発見した……のだが。

ペリカンはいつの間にかウサギになったらしい。

看板には、『観光ランドリーゆきちゃん』と書いてあった。

調べてみたら、なんとオフィシャルブログがあった。2009年から更新されてないっぽいけど。

 

ペリカンあらためゆきちゃんに入り、洗濯物を取り出したら。

さあ、勝負の時間だ。

まずはあたりに人気がないことを充分に確認し、電光石火でフルチンになると、着替えのズボンを履く。そこでようやく、ためていた息を吐き出して、あとはゆっくりと洗濯物をランドリーへ放り込んだ。やれやれ、この瞬間はいつも緊張するぜと、大きく伸びをした瞬間……

ひどく残念なモノが目に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

フルチンかみさん、完全録画(モザイクなし)。

せめて関係者にでも笑ってもらえれば、望外の喜びです。

 

気を取り直してランドリーの中で本を読んでいると、すぐに地元の方々がやってきた。

(うぉ、あっぶね。間一髪じゃねぇか)

内心の動揺を隠しつつ平然としていると、やってきた老夫婦や、俺よかちょっと歳が行ったくらいのおっさんが、色々と話しかけてくれた。「この辺は、ヘタクソな自転車が多いから、気をつけたほうがいいよ」とのアドバイスにうなずき、お礼を言ってランドリーを出る。

「あの人たちはお客さんだから、まあ、俺の勇姿を見ることはないだろう」

小さくつぶやいた言葉は、もちろん彼らには届かない。

 

フルチンで東北デビューを飾ってるうちに、太陽はすっかり高いところへ登っている。

「こらぁ、今日もクソ暑いねぇ」

空を見上げてため息をつくも、雨が降るよりはずっとマシだ。

県道2号線の残りを、一気に駆け抜けて。

 

新潟から秋田をとおる大動脈、国道7号線をひたすら西行する。

 

能代へ近づくほど混んでくる国道をたんたんと進んで、道の駅『ふたつい』で休憩。

ここも、今回で三度目。なんだか旧い知り合いのような気さえしてくる。

 

喫煙所にいたハーレィ乗りのおじさんと、タバコを吸いながら話した。

2009年型のFXDは、コレが最終型になるんだそうだ。

 

地元のヒトらしく、色んなことを教えてくれた。

つっても残念ながら、温泉とか美味いものは、俺のツーリングにはあんまし関係ないんだけど。

 

ハーレィのおじさんが土産を物色にしゆき、俺は地図を眺めて行き先を決める。

「あ、そうだ。そう言えば俺、『温泉の滝を見る』とか言ってたっけ。アレどこだ?」

調べてみると、その『川原毛大滝湯』は、ここから約200キロの距離にある。ただ行くんなら楽勝だが、混んでる国道は通りたくない。なので、しばらく地図とにらめっこしながらルーティングし、どうやら曲がりくねった道をつないで南下できそうなルートを探る。

ルート地図で確認してもらえれば、俺の涙ぐましいワインディングへの愛が理解できるはずだ。

 

ルートが決まったら、まずは五城目を目指して走り出そう。

県道4号線に入ると、とたんにクルマが少なくなり、俺の顔も自然と緩む。

 

基本的にはこんなカンジで、見通しのいい田舎道を快走してゆく。

 

俺の好きな、いかにも氏神様っぽい小さな神社があったり。

 

ルート確認しいしい、暑いけれど空いてる曲がり道を、気持ちよくすっ飛ばして。

五城目に到着した。

道の駅で一服しながら、さらに地図を確認していると。

「お兄ちゃん、どっからきたの?」

ちょっと怖い系のおっさんに話しかけられた。後ろにいる若い衆が、怪訝な顔で俺とおっさんを見比べている。だがおっさんの目が優しく笑ってたので、俺は特に気にもせず、普通に受け答えした。千葉から来ただの、東北を回って五日目だの、色々話したあと。

仕事を聞かれて、整骨院をやってると答えたら、おっさんは笑いながら。

「そうか、金とヒマがあまってるんだな?」

「あまってないスよ。貧乏ヒマなしが、稼ぎ減らして走ってんスから」

「がはははっ! それじゃ気をつけてな!」

「はい、そちらも気をつけて!」

笑って手を振り、眼光鋭い若い衆にも笑顔を向けたら、さあもうひと走りしよう。

 

五城目からは広域農道をすっ飛ばし。

分岐に出るつど地図を見ながら、曲がりくねった県道をつないでタイアを削る。

これは由利本荘の手前あたりの、県道29号線ぞい。

道がまっすぐになったので、ちょっと休憩を入れたところだ。

 

国道へ出てひと息ついたので、休憩場所を探しながら走る。

 

すると、すぐに道の駅が見つかったので、ユリシーズを駐車場へ入れた。

道の駅『東由利』は、湯沢の西30キロくらいのところ。

ここで一服していると、タクシーの運転手さんが話しかけてきた。

「ビューエル、いいよねぇ」

このヒトコトで、このひとはナンシー(『これ何シーシー?』と聞いてくるヒト)じゃなく、おそらく単車乗りなんだろうと想像がつく。案の定、「俺もスポーツスターに乗ってるんだよ」とセリフが続いた。さらに彼がブラックバードにも乗ってると聞くに及んで、俺のテンションも一気に上昇。

 

「ブラックバード、開け切れないんだよなぁ。パパサン(スポーツスター883)だと全開できるけど」

「レッド7000くらいだし、峠で使いきれるカンジが楽しいですよね」

「そうそう、速いのもいいんだけど、やっぱり楽しいのが一番だよ」

 

暑さもすっかり忘れて、スポーツライド談義に花を咲かせた。

 

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