エンカイレポート

ゴールド・エクスペリエンス

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2011.05.03 四日目(前編)

―七色の楽園―

 

朝までマンガ読んでたのに、やっぱり嬉しくてテンション上がってるんだろう。

パチっと目が覚めて、早々に寝床を離れる。

ろろちゃんやプシュさんにアイサツして(サイボーグさんはまだ寝てた)、階下へ降りてみると、ともっちさんとなおっちゃんは、朝から仕事をしていた。なおっちゃんは、忙しいにも関わらず、そして、この日はともっちさんが俺たちと出たあと仕事するにも関わらず、

「かみさんごめんねー、まだ朝ごはん出来てないんだー」

思わずこっちが恐縮してしまうトコロだが、それをさせないのが、なおっちゃんの凄いところ。まさに、あの旦那(ともっちさん)にして、この女房(なおっちゃん)アリと言ったところだろう。俺もムダに変な気遣いはぜず、「俺、朝は食わなくても平気だから心配しないで」とだけ答える。

それから、朝の清清しい空気を吸いにオモテへ。

ろろちゃんのF800Sと、サイボーグさんのR1200GS。二台のBMWに囲まれて、我が愛機も、静かに時を待っていた。そう、夕方には琵琶湖のほとりにアタマの悪い男たち(一部女も含む)が集まって来るってんだから、そらぁテンションが上がろうってもんだ。

楽しみだなぁと一服していると、ともっちさんが自分のマシンを引っ張り出してくる。

愛機M109R2にパニアケースを装備するため、ステーの取り付けをするのだ。

俺だったら、単純に『メンドーで準備をしてない』ってだけの話になるだろうけど、ともっちさんは違う。悪魔的に仕事が忙しいので、こうしてギリギリの時間をやりくりしてるのだ。そして今日、琵琶湖に集まってくる連中のうち何人かも、そうやって時間を作ってくる。

ただ、そんなのが好きで集まってくる。

同じようなバカがたくさん居るという事実は、ただ、単純に嬉しい。

 

パニアのステーがメリケンクオリティだったので、ちょっとてこずる、ともっちさん。

俺もほんのちょこっとだけ手伝って、何とか無事にパニアの装着も完了した。

と、なおっちゃんが、「朝ごはんできたよ」と声をかけてくれる。

ソイツはありがたいと、いそいそ邸内にもどってみると。

肉味噌うどん。

コレがどれだけ美味かったかは、後日、ろろちゃんや俺が再現してまで食ってると言う事実で理解してもらえるだろう。みんな美味い美味いと喜んで喰った……いや、サイボーグさんだけは、激烈な二日酔いで紙のように白い顔をして、「ごめん、まだちょっとムリかも」つってたけど。

「ありゃ、サイボーグさん二日酔いですか」

「こんなにひどいのは、珍しいねぇ」

「ああ、アレだ。絶対タケシさんが悪いんですよ」

「はははっ! そうだね、タケシのせいだ」

もちろん、ともっちさん家は俺んちと同じシステムで、飲めないやつに飲ますようなことは間違ってもない。サイボーグさんは自分で飲んだわけで、誰のせいでもないのだが、気心の知れたダチをボロクソに言うってのは、ダメ人間に共通の心理なのだ。

いや、嬉しくて飲みすぎちゃったって意味では、やっぱタケシさんが悪いのか。

 

飯を喰ったあとは、仕事してるともっち夫婦のジャマにならないよう、オモテで一服。

と、嫌なものを見つけてしまった。

サイドバッグのケツがタイアにぶつかって、思いっきり削れてる。

最初に積んだ時は問題なかったんだが、途中で荷物を降ろしたときに、アタリが変わったんだろう。バンクした時にだけ当たってるみたいだから、琵琶湖に行くだけの今日は心配ないはず。向こうを出る時に養生してやろう。

と思ったんだけど、結局、帰るまですっかり忘れてた。

 

昼くらいに、タケシさんとオサム君がやってくる予定なので、それまでは時間がある。

ともっちさんとなおっちゃんは仕事をしいしい、サイボーグさんは二日酔いを治すため二度寝。

んで俺とろろちゃんは、ダラダラと出発の準備をしたり、プシュさんをからかったり。

「お前らイイカゲンにしとけよ? 千葉だの埼玉だの、俺が行くわけねぇだろ」

そりゃ残念です、プシュさん。

 

単車の話、パーツや用品の話、単車を前にダベってると。

「そういえば、昨日ともっちさんが、サイボーグさんの変態っぷりを話してたなぁ」

思い出したので、早速、確認してみると。

「ぎゃははははっ! ホントだ、やっぱ変態だ」

R1200GSのフロントタイアが、なんでショルダーだけ削れてるんだよ!

普通、この手の単車はセンターだけ減ってサイドは残ってるもんだろう?

「こらぁ間違いなく変態だねぇ」

「う〜ん、様子がおかしいねぇ」

「まあ、メタボ会なのに体脂肪率が10パーとか、思えば最初からその片鱗はあったか」

「普通っぽいから騙されちゃうよねぇ」

などと、ろろちゃんとふたりで、しみじみと見入ってしまった。

 

やがて昼になり、タケシさんとオサム君がやってくる。

前が、オサム君のバルカン900で、見づらいけど、その後ろがタケシさんのドラッグスター。

ふたりとも鬼のように荷物満載で、タケシさんは乗ってる状態で頭の後ろに荷物が見えるし、オサム君の荷掛ネットには思いっきり普通のフライパンが積んであったり。もっとも、この大荷物こそが評判の『メタボ会の食』を支えてるのだが。

 

と、タケシさんのフェンダーマスコットが面白くて、思わず突っ込んでしまった。

「タ、タケシさん! なんすかこれ!」

イノシシのフェンダーマスコット。シッポ巻いてるのがかわいい。

「もちろんブタだよ。カッコつけてもしょうがないからね」

「いや、イノシシじゃないすか。いいなぁ、面白いなぁ」

「いいや、ブタだってば」

なにやら、こだわりがあるらしい。

 

大騒ぎしながら、ふと視線を移すと、サイボーグさんが出発準備を終えている。

「む、なんかカッコいいぞ! GSがえらい緑に映えてる」

悔しいので、ユリシーズも撮ってみた。

う〜む、なんか垢抜けない。なんでだ?

ま、俺のっぽくていいっちゃいいんだけど。

 

さて、みんなの準備が整ったところで、それじゃあ走り出そう。

オサム君&バルカン900(クラシック?)。

 

奥がタケシさん&ドラスタ。ともっちさんに頼まれて買ってきた荷物をおろして、荷物より頭の方が高くなったね。それが普通なんだけどね。んで、その後ろにいる迷彩バッグが、ろろちゃん&F800S。手前はやっと二日酔いの治ったサイボーグさん&R1200GS。

ともっちさんは、ちょうど隠れて見えない。

 

高速に乗り、久しぶりのマスツーリング。

クルーザのドコドコ走りも、ユリシーズなら一緒に楽しく走れる。

ともっちさんはさすがに慣れてて、クルージングスピードにも、車線変更にも、後ろの人のことを考えた余裕(マージン)が感じられる。みんなの背中を見たり、ミラーでオサム君を見たり、楽しくてニコニコしながら、100前後でのんびりクルーズ。

このまま行くかと思われた矢先、高速の看板に渋滞の文字。

このまま一緒に渋滞へハマると、『またぐら火鉢』の名で有名な、ビューエルの熱風に焼き殺される。ともっちさんへは、「渋滞したら、すり抜けちゃいます」と事前に話してあったので、みんなとはココで一旦お別れ。片手を上げてアイサツすると、そのままクルマの群れへ。

すいすいとすり抜けて、新名神自動車道へ入る。

新名神は渋滞もなく、快適に走ることが出来た。

「なはは、気持ちいいじゃないの……って、ああっ! またかよ!」

こないだガッチリ貼り付けたはずのフレームカバーが、また外れやがった。

「う〜む、とりあえず応急処置をするとして、なにか根本的な対策を立てないとなぁ」

時々左手でフレームカバーを抑えながら走る。

もちろん、このままってワケには行かない。今みたいにのんびり走るときならまだしも、明日はムラタやフラナガン、タカシと一緒に竜神スカイラインを走らなきゃならないので、とりあえずカバーを気にしないで走れるように、応急処置をしなくちゃならない。

「……やっぱ……ガムテだろうなぁ」

ちょっとだけ切ない気持になる、41歳の春だった。

 

約束の草津PAで単車を停めると、携帯にアチコチから電話とメールが入っていた。

「こりゃ、ひと足先に現場へ行って、電話待ちをしたほうがいいか」

思ったので、その旨ともっちさんにメールして、草津を出る。名神高速を勢田東で降りて、そのまま交錯する県道16号を、華麗に左折して走り出す。微塵(みじん)の疑いもなく、絶大な自信を持って反対向きに走りだした俺は、鼻歌まじりですいすいと駆ける。

「おお、気持ちいいなぁ。アレの効果だろう。えーとフィットチーネじゃなくてなんだっけ?」

フォトンチッドを胸いっぱいに吸い込みながら走ってると。

急に目の前がドカンと開け、彼方には山が見える。

「山? なんで山?」

とりあえず、停まろうか。

瀬田川の支流になるのかな? 川のそばで単車を停め、ちゃんと地図を見直す。

「おほほ、逆じゃないか。逆じゃあないか、かみさん」

ひとりツッコミを華麗に決めたら、とっととUターンしよう。

と、ろろちゃんから電話が入った。

 

「かみさん、どこにいるの?」

「もう、降りて現地に向かってるよ(道は間違ってるけど)。ろろちゃんはみんなと一緒?」

「ううん、タバコ吸いたいから、ボクもすり抜けしてきちゃったよ」

「なはは、そら仕方ないな。んじゃ、とりあえずイオンに向かうわ」

「ボクも吸い終わったら出るよ」

てなわけで走り出し、ようやく琵琶湖の南岸を見つける。

「わこ〜ちゃんたちは、まだ走ってるのかなぁ」

などと考え事をしながら、のんびり琵琶湖畔をクルージング。

やがて看板を見つけ、第一集合場所のイオンに到着した。んで、中に入ってゆくと……もね、ここを集合場所にしたデコを、小一時間説教してやろうと思ったね。むちゃくちゃデカい上に、駐車場が幾つもあるから、どこに誰が居るやらカイモク見当がつかない。

とりあえず、イチバン傍若無人な場所に駐車して、ろろちゃんを待つ。

ろろちゃんがやってくるのと、前後どっちだったか。駐車場に単車を止めていた白髪の男性が、俺の方に近づいてくる。もしかしたら琵琶湖宴会の参加者かな? と思っていると案の定、

「あの、もしかして、ともっちさんやかっくんと……」

「はい、そうです!」

ドラスタ400に乗った男性は、ともっちさんとかっくんのマイミク、ポコさんという方だった。息子さんの単車を受け継いで、最近走りだした初心者だとのことなのだが、だとしたら、よりによって最悪の人間と最初に出会ってしまったことになる。

そしてそれが杞憂じゃないことは、このあとすぐ証明されることになるのだ。

 

やってきたろろちゃんと三人で、琵琶湖東岸を走ってゆく。

やがて見えてきた、えらい混んでる駐車場の奥の方に。

ムダに怪しげな集団が見える。

俺、うしろがろろちゃんで、ちょっと離れてるのがポコさん。

俺はアイサツ代わりに、カメラを構えてる人間に向かって、まっすぐ突っ込んで行った。カメラを構えてたのは、茨城の猪ハンターこと、よしなし先生。そしてその周りには、ガラの悪い連中が、並んで楽しそうに笑っている。

「ったく、何だおまえら。ガラ悪りぃなぁ」

ヘルメットを取って毒づいた俺の顔は、もちろん、満面の笑みだ。

ガラ悪いのの筆頭、秩父のフリークライマーmioちゃん。

 

こうして、最高の夜が始まった。

 

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